無人島に生きる十六人(須川邦彦著)

2024-05-14 00:00:44 | 書評
実録小説。『無人島に生きる十六人』は1899年にハワイ諸島の東側、ミッドウェー島の西側にある。パール・エンド・ハーミーズ岩礁に乗り上げ、座礁、大破して沈没した龍睡丸から脱出し、ボートで無人島に漕ぎついた16人の船員の生存記録である。



16人の船員だが、龍睡丸は通常は千島列島への輸送船なのだが、冬季は本土で係船され船員も解散していて、それでは夏も働いてもらおうということでハワイ方面の水産資源(クジラなど)の調査に出たわけだ。

そのため船員は広く集められ、小笠原諸島でルーツを米国に持つ者やオホーツク海で難破経験のあるものなど多彩だった。結果として、多彩な才能としっかりした船長を中心としてチームワークで、水の確保のための井戸掘りや貴重な食料とするためのアオウミガメをたくさん捕らえて牧場を作ったり、近くにある島にいって食用植物を確保したり、島に流木でやぐらを建て、視界に船が見えたら直ちにのろしを焚いて救助信号を出そうと24時間交代で仕事をしたり・・・

この小説だが、船長の中川倉吉がその後に商船大学の教員となっているころに若い教官だった須川邦彦氏が聞き取って、昭和23年に講談社から出版されていた。それを噂に聞いて調べ始めたのが、作家の椎名誠氏だ(私の小学校の大先輩)。そして講談社に一冊だけ残っていた単行本が発見された。

本書は、講談社から発行されていたが、復刻は新潮文庫から。青空文庫にも収録されているが底本は新潮文庫になっている。椎名氏は数多くの無人島漂着記を読んだ中で、一番と評価をされている。私も漂着記は好きで何冊も読んでいるがやはり一番だと思う。

惜しむらくは、孤島生活が三ヶ月で終わったことだろうか。多々ある漂着記の中でもきわめて期間が短いと思う。もちろんそんな不謹慎なことを16名の方々に読まれたら大変だが、まあ、そういうことはないだろう。

著者の須川邦彦氏だが東京商船学校の校長も歴任していて、文章もわかりやすく、専門用語はなるべく避けていて、現代の文章と同じである。講談社から出版されて8ヶ月後に69歳で他界されている。



なお、島国であったからだが、日本には漂着小説が多い。晶文社から出版された『にっぽん音吉漂流記』(春名徹著)も素晴らしい著作であるので画像を紹介しておく。

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