ナニカアル(桐野夏生著 小説)

2020-10-19 00:00:00 | 書評
凄いところに題材を見出して書かれた小説。奇書といってもいい。虚実入り混じっているのだろうか。作家、林芙美子の評伝のようで、どこまでが真実なのか。

林芙美子が早世したあと、夫で画家の手塚緑敏が遺稿類を整理している時に発見したという手記について、林芙美子のめいで、緑樹に後妻だった女性が芙美子ゆかりの文学者に相談するところから、すべてが始まる。


漂泊の作家だった林芙美子が、毎日新聞の国際ジャーナリストである斉藤某と不倫を重ね、ついには妊娠、出産ということになり、生まれてきた子を養子ということにしたという内容なのだが、戦争中の南方(シンガポール、インドネシア)慰問中に、斉藤某と密会する場面は、斉藤のことを米軍スパイと疑っている憲兵たちとのやりとりが緊迫した場面を作っている。

単なる不倫小説ではなく、日本の開戦から敗戦までの内地、外地の状況が克明に記録されている。

桐野夏生はミステリーが基本分野なのだが、幅広い作風で、ぼちぼちと読んでいきたい作家である。

本作はフィクションなのか、実話なのか。容易に判別できない構造になっている。

新宿区にある林芙美子記念館は林芙美子の自宅を新宿区が買い取って記念館にしたもので、近いうちに訪問して本作の真偽について館員の方に確認してみようかと思う。

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