薄情(絲山秋子著)

2024-06-23 00:00:34 | 市民A
著者の小説、数年前から読み始めているが、5冊以上10冊以内かな。2000年代の浮遊感のある作品群が読み易いと思っていたが、順に読むのも文学部の卒論を書くわけじゃないのでそうこだわるわけでもなく、2015年の上梓で谷崎潤一郎賞受賞作の『薄情』を読んだ。



主人公は宇田川といって青年時代の終わりの頃のもやッとした感じの男。群馬(高崎)の実家で神主を引き継ぐ予定だが、代替わりまではまだ時間があって、いわゆるモラトリウム時代。そして、彼の周りには様々な女性が登場するのだが、一言で言えば、「勝手な女」というのが多い。そして、彼をもてあそんで、各自の都合により去っていく。

もちろん薄情の逆は熱情だろうが、熱情家というのは小説にはいささかなりにくい。『冷静と情熱の間』という小説(&映画)もあったが、そういいとも思わなかった。

さらに薄情といっても、単に感情の薄いロボットのようなタイプと、いつ何時も心の平静を保ちたいというタイプもいれば、単に犯罪者の様に冷徹というタイプもある。

本書の宇田川はその中の平静を装うタイプ。

そう、村上春樹の『ノルウェーの森』のワタナベ君という感じだ。

そして、最後に燃え尽きる「恋のライバルの画家の」絵画工房。これは川端康成『雪国』のラストシーンではないか。

ところで、主要登場人物の来し方行く末が定まった後、宇田川は当てもなく車を走らせ、途中ヒッチハイクの少年と長距離ドライブに出る。少年を自宅に届けたあと、なぜか山伏修行で有名な山形県の出羽三山に向かう。このくだりは川端の『伊豆の踊子』的だ。

ところで、今年の後半に出羽三山方面に行こうかと思って、調べていると、三山の一つである月山だが、車では近づけず、ほとんどが登山そのものということのようだ。山形県は全市町村に温泉が出るそうで、出羽三山ではなく、出羽百湯の旅になるかもしれない。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿