アメリカンブランド物語(ハナ・キャンベル著)

2012-06-18 00:00:38 | 書評
absこの本、原本は1980年以前に出版されているようだ。それを常盤新平氏が冬樹社から翻訳したのが1981年。旺文社文庫になったのが1985年。つまり、そのあたりの原作者、翻訳者、出版社などの事情が既に大きく変化している。まあ、27年前の本が段ボールの中に眠っているのも何かの偶然だろうが、読み直してみると書かれているブランドも、様々である。

コカ・コーラをはじめ多くのブランドは健在だが、中には聞いたことがないものもあるし、不幸にも途絶えたものもある。

たとえば、コダック。

コダックの製品名の由来は、「短くて、力強くて、スペルを間違えないように」という観点から、「最初と最後に『K』を付ける」ということで作り上げた人造語ということだそうだ。

そして、もちろんコダックは世界を制覇し、1980年頃には、誰しも企業の破綻なんか想像もしていなかった。おそらくデジカメなんかイメージできた人は、世界中に一人もいなかったはずだ。

で、イーストマン・コダックが破綻した経営学的な分析は、何種類でも読むことができるのだが、それではまったくつまらないので、創業者ジョージ・イーストマンのことから因縁話的に書いてみると、

ジョージはひどく貧乏な子供時代をおくっている。父親を幼少の頃失う。母親と二人の姉妹(一人は小児まひの後遺症をもっていた)を食べさせるため、14歳の頃から働いていた。最初は保険会社の使い走りとして週給3ドルだった。そのうち次の保険会社へうつり週給5ドル。その時に会計学の勉強をして20歳の時に銀行員となることができた。週給生活から脱し、年800ドル。

そして、3年間、必死に働いたのには家計の問題のほかに、もう一つ理由があった。

カメラを買うこと。

ただし、当時のアメリカでは湿板カメラが使われていた。何しろロールフィルムを発明したのは、ジョージ・イーストマンその人だからだ。

彼は、銀行の行内旅行を計画し、その旅行先の風物を記念に撮影しようと思っていたわけだ。そして三年間貯めたおカネで、高額カメラを買い、その後、カメラの世界にどっぷりつかっていき、ついにロールフィルムを開発。このため、以前のカメラマンが、撮影後、暗室に閉じこもり手探りで現像していた状態から、撮影=カメラマン、現像=現像工場というように、仕事を分離し、世界中の家庭にアマチュアカメラマンが現れることになる。1888年のことだ。

というのが、この本に書かれているあらすじなのだが、一つだけ、ひっかかることがあった。初めてカメラを買った時のこと。

つまり、行内旅行を計画し、その時の撮影用にカメラを買ったことになっていたのだが、実は、カメラ代が高くて、実際には旅行に行かなかったということだそうだ。

なんとなく、予算が500ドルで、旅行代金が100ドルでカメラ400ドルの予定だったけど実際にカメラ屋にいったら400ドルのカメラより500ドルのカメラが欲しくなって、旅行の方をやめてしまったというようなシチュエーションが浮かぶ。

どうも、カメラとは被写体があって、それを表現するという原則を忘れて、カメラというメカニックの方に突き進んでいったということなのではないだろうか。

なんとなく、今回の破綻は、旅行会をサボった時のつけが回ったというか、バチがあたったとか、そんな気がする。


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