乱(1985年 映画)

2022-08-26 00:00:20 | 映画・演劇・Video
黒澤明監督、仲代達矢主演の戦国時代劇というか、本作はシェークスピアの四大悲劇の中の『リア王』をかなり忠実に引き継いでいる。

戦国時代の一国の雄である一文字英虎が齢70となり、三人の息子の中で長男に家督を相続。三男はこれに異を唱え、追放される。「リア王」では兄弟ではなく三姉妹で男女逆転となっているが、本作では、一見して最も悪役は長男の妻ということになっている。長男が次男に謀殺されたことに気付き、次男の正妻の座に座り次男を脅迫して父親と三男を破綻させようとする。かなりの悪だ。北条政子のような感じだ。

ところが、彼女の思惑通り一文字家の父親も三人の兄弟もすべて討死にしたあと、彼女の父親は一文字秀虎に攻められ、討ち死にした上、城は一文字家に奪われていたことが明かされる。そして、主要登場人物のほとんどが、亡くなってしまったわけだ。

黒澤明がシェークスピアの完璧な真似をしようとしていたら名作とは言えないが、戦国時代の血なまぐさい時代の流れを組み込んだことで独自の世界が保たれている。

特筆すべきは合戦シーン。大戦闘シーンが3回はある。鉄砲や弓矢が絶え間なく飛び交い、城は焼け炎の中を役者が逃げ回る。死体役のすぐ横を米国から輸入した西部劇用の馬が走り回る。撮影中の事故で死者が出なかったのが不思議だ。

もっとも米国映画でカーチェイスが3回あったら、多すぎるような気がするが、観客が飽きないように日本各地の異なる地形がロケに使われたようだ。そのため製作費26億に対し、収益が16億と大赤字となった。

主演の仲代達矢は、30年以上後に『海辺のリア』というやるせない映画で主演を演じている。ことし90歳だというのに元気溌溂だが、彼の人生譜は、映画が10本は作れそうなドラマ性を秘めている。もっとも名優を演じることぐらい難しい役はないそうで適役は思いつかない。