アイヌモシリ(2020年 映画)

2022-08-01 00:00:17 | 映画・演劇・Video
舞台は阿寒湖のアイヌコタン。温泉地でもあり、アイヌ民族の末裔達は観光客向けの民芸品店を開いたり、伝統舞踊のショーをするかたわら、アイヌ語の勉強をしたり後背に拡がる森林でアイヌ文化の伝承を行っている。

映画の主役は14歳の少年。父親が亡くなった後、次第にアイヌ文化から離れていっていた。一方、父親の盟友はアイヌ文化の復活を目指していて、ある計画を考えていて、少年に子熊の飼育を頼んでいた。

そして、映画は徐々に危険領域に接近していく。

イオマンテ。

現代では「熊まつり」と霞がかかったような表現になるが、伝統行事としては「熊おくり」と呼ばれる。数年間檻の中で飼育した子熊を、子熊の体に宿った神(カヌイ)を神の世界にお返しする儀式だ。物理的にみれば子熊をみんなで殺すことになる。しかも子熊を捕まえるために冬眠中の母熊と子熊を捕まえて、母熊を殺してしまうそうだ。

熊というのはヒグマなので、町に下りてきて大暴れする場合はズドンと撃つのだが、アイヌ文化の伝承ということでの殺戮は、1955年に禁止されていた。時代的には民族同化政策でなく動物愛護の理由だったのだろう。その後、1985年に解禁となったが、イオマンテは行われていないようだ(一度行われたとか、他の動物で行われたという説もある)。

映画の中ではアイヌ達の中でも賛否両論があるなか、年寄の意見が優先され熊おくりが行われるわけだ。


ここで、主題は「文化は『形』なのか『精神』なのか」という人類の抱える世界テーマに変わっていく。スラブ文化、ユダヤ文化のように長い時代を生活様式という形にこだわり続ける人たちもいれば、時代とともに変わっていく文化もある。日本は、こだわりを少しずつ変えながら文化を育てるような国であるわけで、他文化に寛容的にも非寛容であるようにも見えるのかもしれない。


なお、本映画は日テレで放送され、その録画でみたのだが、おそらく、アイヌ差別発言の失態への謝罪のつもりだったのだろうが、映画に含まれる内容が複雑すぎて、謝罪なのか居直りなのか明確ではない。

二つ目の「なお」だが、本映画はニューヨークの映画祭であるトライベッカ映画祭で審査員特別賞を受賞しているが、ゲストとして三浦透子が出演している。「ドライブ・マイ・カー」の前である。「受賞請負女優」ということかな。