ひとかげ(よしもとばなな著 小説)

2021-06-18 00:00:47 | 書評
『ひとかげ』は2006年に刊行されたが、1993年に自己の書いた『とかげ』をリライトしたもの。リライトは普通は細部の改定をするのが常道で、特に川端康成は『雪国』を数回直したりしている。



リライトの結果、文庫本40ページが70ページに増えていることからわかるように、原作でもやっとしている部分に合理性を増やすために細かくストーリーを書き込んだというところだろう。気功師の彼女と、児童精神病クリニックに勤める彼の心の中のピンポン大会である。

二人とも子供時代に深い心の傷を負っていて、どこか息苦しいところがあるのだが、突然に「成田山にタクシーで行こう」ということになり、急速に打ち解けていく。

私は千葉県出身なので、金満成田山に恩恵があるということが、非現実的に思えるのだが、行くなら鎌倉の材木座海岸とか

小説の中で、人を呪って殺す話が登場する。「呪い」というほどではないが、不愉快なことを行った時に「呪ってやる」と思うと、次々にあっち側に送ってしまうことに気づき、そもそも人を呪ってはいけないと決めたことを思い出す。