不二越会長発言の裏読み

2017-07-24 00:00:35 | 市民A
不二越と言えば、富山の機械メーカーであり、現在の主力製品は工業用ロボットである。売り上げは年商2300億円といえば富山では大手だろうが、この8月から事実上、本社を東京の汐留に構えるとなると、東京では肩身の狭い金額だろうか。

会長が、公的な場で「富山で生まれた人は極力採らない」と発言し、富山県では批判の竜巻が巻き上がっている。

批判を大別すると、

1. 感情論的に、「富山の会社なのに、冷たいじゃないか・・」。
2. 富山県人は無能じゃないのに・・・。さげすんで見ているのか。
3. 「富山県で生まれた人」を採用しないというのは、憲法で禁止される「出自による差別」である。
4. 本音はそうでも「わざわざ決算発表の場で発表しなくてもいいのではないか」
5. 「ワーカーは富山で採用、本社では富山県人採用しない」は差別ではないか。

といったところだろうか。

自分が岡山で泡沫会社の社長をやっていた時の経験だが、社長になってから事業エリアを拡大し、北海道2ヶ所、東京・関東4ヶ所、そして岡山1ヶ所となったのだが、歴史的に岡山で採用していたため、岡山県民比率が6割ほどになっていた(不二越の富山県民比率は8割)。ところが、岡山県民もたぶん富山以上に閉鎖的なので、年齢にかかわらず転勤拒否が多発するわけだ。

また、人手不足のおり、中途採用をしようとすると、そこそこ応募があるのだが、面接してみると、前の会社を辞めた理由の多くは、転勤が嫌で辞めたということが多いわけだ。

世界的大企業の岡山工場の地元採用で優秀だったため、本社採用に切り替えて東京本社勤務で半年で都会生活が嫌になったとか、20代前半で海外工場の主任に任命されといった理由で辞めるわけだ。本人は悩んでいても、配偶者や親が「県外に行くなら会社やめなさい」ととどめを刺すらしい。もちろん、そういう人は採用できないので、なかなか人間の穴は埋まらない。といって、富山県もそうだろうが、岡山県でも県を自分から出ていく人も多く、その人たちは東京や大阪に出ていき、帰ってこなくなる。客観的に言えば、東京、千葉、神奈川あたりの海浜型南関東と比べ、岡山は暑すぎるし、富山は寒すぎる。しかも関東にもそれぞれの同県人は多いのだ。

不二越の内実はわからないが、東京本社に移転するというのは、会社の目標である海外販売比率を60%にするといった目標からいっても不可避だったのだろう。お客が富山までは来てくれないし、海外に行くにしても簡単じゃない。東京からは上海でも日帰り可能エリアになりつつある。

ということで、富山県人を採用しないというのが本音だったとしても、ではなぜ、公開の場でしゃべったのかということ。会長ともあれば、発言で大騒ぎになることはわかっていたのだろうから、何を考えていたのだろうか、ということ。

一つは、単に新卒採用にあたり、全国から優秀社員を集めようと思ったのかもしれない。富山除外というのが「逆差別になる」という見落とし易いミスをしたのも軽い気持ちからだった可能性もある。

一方で、これだけ富山県人比率が高くなった原因が、高校側からの割当就職枠のようなものがあったのではないだろうか。安定的に人を集めるなら高校の就職担当と懇意にし、ある程度一定数を毎年採用することで、優秀な生徒をもらったりするのだろう。ということで、切っても切れない関係になっていたのではないだろうか。

しかし、直近の人出不足が会長に千載一遇のチャンスを与えたのではないだろうか。つまり不二越が採用数を大幅に減らしたとしても、他の企業が、人をかき集めるなら、生徒にも就職担当の先生にも迷惑はかからないだろうと思ったのだろう。

さらに、不二越会長の次の一手は、「社名変更」なのだろう。8月に事実上、東京移転した後、来年の4月に正式に登記上も東京に本社があることになるのだから、そのタイミングに合わせて社名から「越」の文字を抹消するのだろうか。越は富山の旧国名の越中に由来するのだろう。新社名は「フジロボ(Fuji-Robot)」と予想してみる。