少年たちの終わらない夜・鷺沢 萠

2008-03-13 00:00:13 | 書評
かつて、鷺沢 萠の本は何冊か読んでいた。年に一冊か二冊かランダムに、という感じ。彼女が書くスピードよりは遅かったはずだ。そしてしばらく読まなかったのは2004年からか。35歳の彼女が自らグッバイしてしまってから。自殺の理由は、今にしてもよくわからないようだ。友人だった藤原伊織が食道ガンを公表したのが2005年(2007年没)。それを1年前に知っていたのだろうか。こちらの世界では伊織が20歳年上だが、あちらの世界では鷺沢が3歳年上になる。



もし、執筆に行き詰まっていたとしても、しばし休筆してから作風とペンネームを変えて出直せばいいではないかとは、やはり凡人の発想なのだろうか。しかし、永倉万治の時もそうだったが、愛読作家の唐突の死は、心を重く沈ませる。

この『少年たちの終わらない夜』は、終わりかけた十代最後の夏を駆け抜けていく少年少女たちを個としてではなく群れとしてとらえている。彼らの透明感のあるきらめきと翳り。きたるべく大人の社会への希望と不安。高校卒業後の一瞬の個性のぶつかり合い。よくある青春小説といえばそれまでだが、なんともいえない軽く小走りな文体は、今は、滑らかに脳に入っていく。たぶん自分が19歳なら、絶対読み切れないだろうという圧倒感もある。

表題作の『少年たちの終わらない夜』、『誰かアイダを探して』、『ユーロビートじゃ踊れない』、『ティーンエイジ・サマー』の四作の短編を収録している。

ところで、気付いたところでは、2ヶ所で読者の価値観を問うシーンが描かれている。『少年たちの終わらない夜』の中で、主人公の少年「真規」がバスケットの試合で、終了間際に逆転シュートを放つのだが、その前にレフェリーの目を盗んでディフェンダーを突き飛ばすところ。小説の中でも、「ズルい」とか「ズルくない」とか少年たちに言わせている。自分が19歳の時、そういうズルをするだろうか。たぶん、ズルぎりぎりでやめるだろう。たぶん今でも。



さらに、『ティーンエイジ・サマー』の中で、登場人物にこう言わせている。
「俺、背広だけは一生着たくないんだ。」
自分が19の時、どう思っていたかだが、たぶん、「あまり着たくはないけど、たぶんずっと着るのだろう」とか妥協的に考えていたのだろうか。そして実際、一生着ないどころか、ほぼ毎日着ているわけだ。別に着たいわけじゃないし、できれば背広は週3回位にしたいものだ、とか非現実的なことを今でも考えているわけ。

そして、またぼちぼちと彼女の作品を読み始めていけば、いずれすべてを読み切ってしまうのだろう。それがまた、かなり悲しい。