三重県木本で虐殺された朝鮮人労働者の追悼碑を建立する会と紀州鉱山の真実を明らかにする会

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「戦いはまだ終わっていない」

2011年05月12日 | 海南島
 以下は、 『海南島近現代史研究』第2号・第3号のために杉浦ひとみさんがことし2月に執筆してくれた文章です。杉浦さんの同意を得てここに転載します。

■戦いはまだ終わっていない
                        杉浦ひとみ
※高裁判決について
 高等裁判所の結論も、一審原告ら(以下「原告」といいます)の請求は認めないというものでした。
 しかし、高等裁判所では、3人の裁判官はそれなりに熱心に、原告側の意見を聞いてくれたように思えました。控訴審であるにもかかわらず本人尋問も行いました。
 また、原告側では新規の主張として、1審後から控訴審にかけて、精神科医の野田正彰さんが2度現地を訪問し、原告らにそれぞれ2度聞き取りを行い、これまで訴えていたPTSDにとどまらない被害である「破局的体験後の持続的人格変化」という症状についての意見書を出しました。この疾病の症状が、時を経て老齢期に至り、さらにひどくなるというものだったことから、そのひどくなった変化が1972年を乗り越える何かと構成できないか、というような問答がありました。
 高等裁判所は、別の戦時性暴力事件について出された最高裁判決(2007年4月27日)を強く意識していました。この判決は、損害賠償請求権について、日中共同声明第5項により「裁判上訴求する権能」が放棄されたもの、つまり、裁判によって請求する権利はなくなったという法論理をとったものでした。そして、高等裁判所は最高裁の判断を越えられないということを暗に示してきていたのです。だから、裁判所は、共同声明が出された1972年以降に、責任を問えるような事件と構成できないかを探っていたのではないか、と感じていました。
 結局、高等裁判所は、戦中の加害の事実を認め、原告らはPTSDはもとより「破局的体験後の持続的人格変化」というより重い被害事実の認定もしました。そして、国家無答責の法理を排斥したうえ、民法715条1項の使用者責任を適用し、上告人らの損害賠償請求権を認めたのです。しかし、2007年4月27日の最高裁判決を踏襲し、損害賠償請求権について、日中共同声明第5項により「裁判上訴求する権能」が放棄されたことを理由に控訴を棄却しました。
 高裁の裁判官らが、この問題は放置できない問題だと、わずかに心を動かしたのだろうかとも感じましたが、被害を受けた女性らの尋問を聞きながらも、正義を持って国の方針を越えられなかった裁判所については落胆しました。

※最高裁決定について
 最高裁判所が、下級審において明らかとなった本件事実を、司法的にどう解決すべきかを考えることを放棄したものといわざるを得ません。
 戦後処理問題は、日本という国の姿勢を示す、非常に重大な問題だといえます。
とくに司法府は、国の人権感覚を問われる立場にあります。
 補償をしないという結論を採ることは、日本が人権に対していかに疎いのかを示すと共に、内外に正義を示す事で国の権力の一翼を担っているという司法府の使命を自ら放棄していることになります。
 世界の動きとしては、これまでアメリカ連邦下院における対日謝罪要求決議の外、カナダ、オランダ、EU議会、国連人権理事会、国連自由権規約委員会、ILO条約勧告適用専門家委員会等々で解決を求める決議がなされています。
 国際社会は、被害を受けた女性の尊厳と人権の回復のための真の措置をとるよう日本政府に強く迫っているわけです。そして、これが、日本に対する攻撃というようなものでないことは、本件について下級審が加害事実の大きさと与えてしまった被害の大きさを認定していることからも明らかです。
 国内においても宝塚市、清瀬市、札幌市、福岡市等々各地方自治体において「慰安婦」問題の解決を求める決議があいついでなされています。
 このように、解決を迫る世論は国内外を問わず高まっています。
 司法は世論に流されてはいけませんが、社会の中の正義はすくい取らなければなりません。 最高裁判所の判断と姿勢は、あまりに硬直化していると思います。
 昨年(2010年)11月、弁護団と支援者らで、海南島の原告らのもとを訪ね、裁判報告をしました。私たち弁護士にとっては、ある意味で予測された結論ではありますが、原告らにとっては、理解できない思いでそれを聞いたのだと思います。
 私たち弁護団は、今後も、司法判断にとどまることなく、原告らと日本のために、司法を離れた解決を模索しなければならないと、強く感じています。
 この戦いはまだ終わっていないのです。
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