三重県木本で虐殺された朝鮮人労働者の追悼碑を建立する会と紀州鉱山の真実を明らかにする会

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「私は『人間飼育場』で精神疾患者に分類され、赤い薬を飲まされた」=韓国」

2024年10月01日 | 韓国で
「The Hankyoreh」 2024-09-11 08:17
■「私は『人間飼育場』で精神疾患者に分類され、赤い薬を飲まされた」=韓国
 [もう一つの兄弟福祉院] 

 真実和解委、浮浪者施設の精神疾患者鑑別の問題点を確認 
 収容者に精神疾患者という二重のレッテルを貼り隔離

【写真】ヤンジ園の精神療養院への転院対象者の身元記録カードの一部=真実和解委提供//ハンギョレ新聞社

――民間人虐殺が全国で吹き荒れた朝鮮戦争が停戦すると、今度は拉致と監禁の時代がはじまった。施設収容を中心とした政府の浮浪者政策は施設側の利害と結び付き、浮浪者を標的にするにとどまらなかった。酒に酔って乱暴を働くとして、住居が定まっておらず徘徊しているとして、身なりがみすぼらしいからとして、さらには顔が青白いからとして、警察と取り締まり班員に捕まり、獣のように「飼育」された。憲法に明示された「人間としての尊厳と価値」、「身体の自由」は無視された。これは内務部訓令第410号、物乞い行為者保護対策、保健社会部訓令第523号によって裏付けられたことで、形式的な民主化が成し遂げられた1987年以降も続いた。1987年に暴露された釜山(プサン)最大の浮浪者収容施設の兄弟福祉院がすべてではなかった。ソウル市立更生院、大邱市立希望院、忠清南道の天声園(大田の聖地園、燕岐郡のヤンジ園)、京畿道のソンヘ園の5施設(4法人)による大規模な人権侵害に対する真実和解委の真実究明を契機として、この問題を多角的に探った。――

 「人間飼育場へようこそ」。
 1992年に大邱市立希望院に入所したKさんは、先輩入所者からこう言われた。「人間飼育場」でKさんは、職員たちの退勤時間直前の4時半ごろに夕食を取り、薬を飲んだ。収容者たちは毎日多量に飲まされたこの薬のことを「赤い薬」と呼んだ。まだ夕方にもかかわらず、薬を飲むとみな倒れ、各部屋の扉は外から施錠された。この薬は統合失調症などの治療に主に用いられる抗精神病薬「クロルプロマジン」だった。
 保健福祉部の前身である保健社会部は、1985年第2四半期末時点で浮浪者施設の収容者は1万4653人、うち成人は1万1815人、そのうち「正常」は2957人(25%)、「精神疾患者」は4104人(34.8%)と把握していた。当時、政府はいわゆる「祈祷院」と呼ばれる無認可の私設の収容施設で非人間的な処遇を受けている精神疾患者の実態が暴露されたことに対し、積極的な施設収容で問題を解決しようとした。このような精神疾患者の鑑別と分類は、施設の収容者を根拠なく精神疾患者に分類し、その割合を高めるという結果へとつながった。そのため、政府は浮浪者に精神疾患者のレッテルを貼って社会から隔離しようとしたのではないか、と分析される。

【写真】ヤンジ園収容者のHさんの精神科診断書=真実和解委提供//ハンギョレ新聞社

 真実・和解のための過去事整理委員会(真実和解委)は今月6日の第86回全体委員会で、「ソウル市立更生院などの成人浮浪者収容施設の人権侵害事件」の真実究明(被害認定)を決議した際、大邱市立希望院とヤンジ園(忠清南道の天声園が運営)の2カ所で精神疾患診断を通じた不当な精神疾患者への分類、およびそれによる人権侵害の事例が確認されたと明らかにした。
 真実和解委の調査によると、大邱市立希望院は入所の時点で医師ではなく職員の簡単な面談のみで統合失調症だとの判断を下していた。このような調査や鑑別は、浮浪者に対する偏見と不信にもとづいて、本人が述べる客観的な事実関係さえ否定する傾向を示していた。これは第1次調査・鑑別にもとづいて行われる精神科医による診断も誤った結論へと導く可能性を高めた。
 真実和解委は調査過程で、大邱市立希望院の1985年の退所者の中から、入所時の身元記録カードの健康状態記録欄に精神科的疾患があると記載された事例を6件選び出した。続いて精神科の専門医などの助言を得つつ分析したところ、作成者の判断が誤っているか、精神科的症状があったとしても慢性的な統合失調症である可能性は非常に低かった。

【写真】1998年、民間の調査団が忠清南道燕岐郡のヤンジ園を訪問した際、人権運動サランバンの関係者が「一度も外部と連絡したことがない人はいるか」と問うたところ、大半が手を上げた=資料写真//ハンギョレ新聞社

 収容施設における精神疾患者の分類の過程が不適切だった、というのが真実和解委の結論だ。真実和解委は、「大邱市立希望院は高い割合で精神疾患だと診断することで、収容者に精神科の薬物を一括投与できるようになった。それにより、たやすく収容者の行動を統制できるという『化学的拘束』の効果を得た」と述べた。1992~2015年に大邱希望院に収容されていたKさんは、「希望院は先生たちが5時に退勤するために夕食を4時半に食べさせた。夕食を早く食べさせて薬を飲ませれば退勤時間に合わせられる。本館の事務室には当直者が1人だけ残っていた」と証言した。
 真実和解委の参考人調査に応じた大邱市立希望院の職員、Sさんも、「ほとんどの入所者にてんかん、精神病があったため、薬を飲ませたら大半はぐったりして眠った。薬は運動場に入所者たちを呼んで配り、部屋に入る前に薬を飲んだか確認してから部屋に戻した」と証言した。また、職員の退勤時間は「一般的な公務員の退勤時間とほぼ同じだった。薬は日が落ちる前の4~5時ごろに飲ませた」と述べた。

【写真】2016年12月26日午前11時、「大邱市立希望院人権蹂躙および不正撲滅対策委員会」が大邱地方検察庁前で記者会見を行い、検察に大邱市立希望院事件を徹底捜査するよう求めている=資料写真//ハンギョレ新聞社

 大邱市立希望院が収容者に飲ませていたという赤い薬は、クロルプロマジンだとみられる。この薬は赤色で円形の第1世代の抗精神病薬だ。当時の浮浪者収容施設では、抗精神病薬のクロルプロマジンとハロペリドール、鎮静剤のバリウム、アティバン(ロラゼパム)が多く使われていたというのがハンギョレのインタビューに応じた精神医学科専門医の見解だ。これらの薬のほとんどは、最近死亡事故が相次いだ春川イェヒョン病院などの精神病院でも「急性期の患者」に投薬されていた薬だ。
 ある精神医学科の専門医は、クロルプロマジンやハロペリドールなどの抗精神病薬は「腸機能の低下、手足の硬直、口の震えの慢性化などの様々な副作用が生じうるが、それを必要としない人々に統制目的で用いられたというのが最も大きな問題」だと指摘した。この専門医はまた「必要だったとしても『副作用モニタリング』をしつつ容量を徐々に減らしていかねばならないが、そのような努力がまったくないようにみえる」と付け加えた。
 真実和解委はまた、忠清南道燕岐郡(現在は世宗特別自治市)のヤンジ園でも似たような問題が明らかになったと発表した。ヤンジ園は施設の真向かいに精神療養施設「ソンヒョン院」を設立し、最初(1987年1月)に100人の収容者を、3~4月にさらに21人を転院させていた。当時の転院手続きの公文書に添付された診断書には統合失調症、器質性精神障害、精神遅滞、てんかんなどの診断名が記されているが、在院期間中の精神科の診療または入院治療の記録がまったくなかった。ソンヒョン院への転院者に対する精神疾患診断は、ヤンジ園が管理上の便宜のために任意に精神疾患者として分類した人に対する事後承認手続きに近く、100人以上の診断書を一括作成して転院させていたという点で、新規施設の人員を確保することが目的だったと考えられる。事実上、浮浪者を社会から直ちに隔離するとともに、精神科薬物で静かに眠らせられる「使い道の多い道具」として「統合失調症」、「器質性精神障害」のような診断名を利用してきたことを示している、というのが真実和解委の分析だ。
コ・ギョンテ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
韓国語原文入力:2024-09-09 12:00


「The Hankyoreh」 2024-08-21 11:42
■「明るく健康だった娘」…韓国の精神病院で「拘束死」、遺族が被害者の生前の姿を公開
 「二度とこのようなことが起きないように」訴え

【写真】5月27日、富川Wジン病院で被害者のPさんが腹痛を訴えてドアを叩くと、保護士と看護助手が入ってきて薬を飲ませた後、ベッドに縛りつけている様子=CCTV映像よりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 両手両足と胸を縛られる「5点拘束」を受け精神病院の隔離室で死亡したPさん(33)の遺族が、Pさんの名前と生前の姿の映像を公開し、無念を訴えた。遺族は「二度とこのようなことが起きないように医療システムを改善してほしい」と要求した。
 Pさんの遺族が先月ユーチューブチャンネル「安全地帯TV」に提供した映像を20日に確認すると、遺族は故人の葬儀の場面、知人たちの哀悼の言葉とともに、生前のPさんの様子と名前を公開している。動画が投稿されたユーチューブチャンネルはPさんの兄が経営するファッション業者で運営するもので、Pさんもこの会社の取締役として働いていたという。映像にはイタリア留学時代の幸せそうなPさんの様子とともに「私の妹は32才の若くて健康な女性で、家族の喜びであり希望だった」という兄の言葉が字幕で表れる。

【写真】精神病院の隔離室で息を引き取ったPさん(33)の遺族が投稿したユーチューブ動画=安全地帯TVよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 遺族は映像とともに掲載した文で「娘は入院前まで非常に活発で身体的にも健康なほうだった」とし、「名門大学の大学院生として学業にも入れ込んでいたが、一時の誤った考えでダイエット薬依存症に苦しみ、新たな精神で生き直そうと考え、これを克服するために放送を通じて知った富川Wジン病院に助けを求めた」と語った。
 遺族はさらに「病院は娘の状態をきちんと把握できず、個室への監禁と不適切な薬物処方および管理によって娘の命を奪った」とし、「二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、病院の医療システムを徹底的に調査し改善してほしい」と述べた。
 Pさんの死が知らされた後、精神病院で行われているむやみな隔離・拘束、「ゾウ注射」と呼ばれる高用量の薬物投与など、人権侵害に対する問題提起が続いている。精神障害者の当事者団体である韓国精神障害者連合会(ハン・ジョンヨン)をはじめとする29の精神障害連帯団体は9日、富川Wジン病院前に集まり「隔離・拘束事件糾弾決起集会」を開き、「隔離・拘束を禁止せよ」と叫んだ。これらの団体は23日、精神疾患の当事者が集まった「精神病院改革連帯」を結成し、病院内の人権侵害を防ぐための法改正運動などに取り組む計画だ。
パン・ジュンホ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
韓国語原文入力:2024-08-2023:49


「The Hankyoreh」 2024-08-21 13:22
■「死の隔離・身体拘束を禁止」…精神病院改革連帯が発足=韓国
 23日国会で発足記者会見 
 入院患者の人権侵害処罰条項の新設を要求 

【写真】9日午前、韓国精神障害者連合会など29の精神障害者団体のメンバーが患者をベッドに縛り付ける行為のパフォーマンスをしながら富川Wジン病院の前から富川市保健所まで行進している=キム・ヨンウォン記者//ハンギョレ新聞社

 「どれだけ多くの人が死んでも無関心で…疲れました。もう精神障害者を死に追いやる拷問放置国家をこれ以上放っておくことはできません」。春川(チュンチョン)○病院、富川(プチョン)Wジン病院、仁川(インチョン)S病院など、精神医療機関内での隔離・身体拘束にともなう死亡事故が表面化しているなか、「精神病院改革連帯」が発足を準備している。拷問と変わらない隔離・身体拘束をなくすために、精神障害関連団体が力を合わせて団体を設立することにしたのだ。
 「精神障害と人権・パドソン」のイ・ジョンハ代表は20日、「精神障害者の当事者団体・家族団体の連帯会議を通じて非常対策委員会を設け、23日午前10時半、汝矣島(ヨイド)の国会議事堂の正門前で精神病院改革連帯の発足記者会見を行う計画」だと明らかにした。午後には国会図書館の大会議室で、隔離・身体拘束の問題点と代案を検討する討論会も開く。
 彼らは「精神病院の隔離・身体拘束は昔からあったが、今なお根絶されておらず、傷害やトラウマ、さらには死亡にいたるまで、当事者と家族に深刻な被害をもたらしている」として、「隔離および身体拘束を基本的に禁止し、入院した当事者の人権を侵害した精神医療機関に対する処罰条項を新設するなど、法と政策の整備を求めるために精神病院改革連帯を発足することにした」と述べた。

【写真】キム・イェジ議員室とソ・ミファ議員室、韓国精神障碍者連合会などが主催し23日午後に国会図書館の大会議室で開かれる討論会「精神医療機関の隔離・身体拘束の問題点および人権擁護システムの必要性」のポスター//ハンギョレ新聞社

 精神病院改革連帯が打ち出した目標は、隔離および身体拘束の禁止に対する法令強化▽過剰な向精神薬の投薬による化学的拘束に関する制裁設定▽人権侵害を犯した精神医療機関に対する法的処罰の強化▽人権および人間中心の精神医療機関の治療環境改善だ。連帯は記者会見を通じて、「大韓民国政府が治療という名の拷問を全面的に禁止し、統制と処罰による屈従的な精神病院の環境から、対話と非強圧的な治療を通じた人と権利を基盤とする精神健康政策に大転換することを強く求める」と要求する計画だ。
 19日午後9時時点で精神病院改革連帯に連名した団体は、冠岳(クァナク)同僚支援憩いの場、ギャラリーフレーム聖水(ソンス)、京畿同僚支援憩い場、慶南職業リハビリセンター、慶南精神障害者自立生活センターなど86カ所。イ・ジョンハ代表は「今日(20日)には100団体を超えるものとみられる」と述べ、より多くの団体の参加を訴えた。イ代表は「韓国の精神病院における感情的、精神的苦痛を受ける人たちに対する反人権的な医療の現実の水準に、すべての人が関心を向けてほしい。誰であっても精神的な苦難を経験しうる」と述べた。
コ・ギョンテ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
韓国語原文入力:2024-08-20 10:55


「The Hankyoreh」 2024-08-07 09:53
■【独自】「拘束され死亡」精神病院、「ゾウも倒れる」高用量鎮静薬投与
 富川Wジン病院の診療記録を入手 
 現職の精神科専門医が分析した死亡事件

【写真】今年5月10日、富川Wジン病院に入院していたPさんが、医療スタッフから与えられた薬を口に入れている=CCTVの映像より//ハンギョレ新聞社

 「患者に精神病的な症状があったというよりは、入院などの環境の変化によって拒否反応が深刻な状態だったのに、(別の方法でそれを緩和しようとはせずに)初日から急性統合失調症または双極性障害の躁(そう)に準ずる薬物を投薬したとみられます」。
 富川(プチョン)Wジン病院に入院して17日後に死亡したPさん(33)の診療記録をハンギョレとともに確認した経歴10年目の精神科専門医のKさんは5日、このように述べた。遺族がPさんの死亡原因は薬物の副作用による腹痛と腸閉塞だと主張している中、実際にPさんに投与された薬はかなりの副作用がありうるにもかかわらず誤用、乱用されたというのだ。Kさんは、このような理由から家族ら法的代理人などには薬の効果と副作用に対する十分な説明が行われ、投薬後の患者の状態も綿密に観察されなければならないが、そのような過程がなかったと指摘した。実際に遺族は、病院が状態の悪化したPさんを放置したとみて、病院長のヤン・ジェウン氏ら6人の医療スタッフを、通常の業務上過失致死ではなく遺棄致死で刑事告訴している。

◆入院してすぐに多量の錠剤を投与
 ハンギョレは、遺族が病院側から確保した看護記録、経過記録、隔離・拘束実施日誌、安定室(隔離室)の防犯カメラ(CCTV)映像のリストなどの各種の診療関連記録の提供を受け、Kさんに分析を依頼した。真っ先に指摘されたのは、入院初期の高用量の鎮静薬投与だった。
 被害者のPさん(33歳、女性)は今年5月10日、ダイエット薬中毒の治療のために同病院に入院した。幼いころからの米国留学から帰国したPさんは、7年前から内科などで代表的な食欲抑制剤「ディエタミン」(テウン製薬)を処方されて服用していた。Pさんは過度な不眠や潔癖症などのディエタミン中毒症状から抜け出すために、ソウルのいくつかの大学病院に入院したり通院治療を受けたりしていたが、母親の勧めで富川Wジン病院に最大4週間の予定で入院することになった。
 入院初日、Pさんは警察に通報するなど、慣れない環境に対して強い拒否反応を示した。しかし出動した警察は面談後、何もせず帰ってゆき、被害者はあきらめて入院を受け入れた。
 隔離室のCCTV映像を見ると、入院初日の5月10日、着替えを拒否してしばらく医療スタッフともめていたPさんは、午後3時55分ごろ、医療スタッフから与えられた薬物を飲んでいる。経過記録を確認すると、この日服用した薬はペリドール錠5ミリグラム、ロラゼパム錠1ミリグラム、リスペリドン錠2ミリグラム、クアチン錠100ミリグラム、クエチンタブレット200ミリグラムだった。
 Kさんは「(医療スタッフは)一つの薬では十分な鎮静効果が得られないと判断したようだ。これらはほとんどが強い行動抑制効果を持つ抗精神病薬、または催眠鎮静効果を持つ向精神性の薬物だ。しかし注意すべきなのは、それだけ意識だけでなく身体機能まで低下させる副作用がありうるということだ」と述べた。

【写真】5月24日午後11時30分、3人の男性保護士に囲まれ、初めて手、足、胸を縛られる五点拘束をされる被害者Pさん。薬に酔ったのかまったく反応せず、まっすぐに横になっている=CCTVの映像より//ハンギョレ新聞社

◆薬物で「意識低下、消化器および筋肉への副作用」
 その後の看護記録を見ると、被害者のPさんは眠気と感情の落ち込みを感じ、過度な鎮静状態を示しながらも、随時空腹を訴えて間食を要求している。これは被害者が入院前に服用していたディエタミンの成分であるフェンテルミンの禁断症状による食欲の増加と、精神科薬物の「食欲亢進(こうしん)効果」が重なったためである可能性があるという。
 5月14日の記録を見ると、「しどろもどろだ」という表現が用いられている。19日からはせん妄の症状も記録されている。Pさんの母親のイム・ミジンさん(仮名、60)はハンギョレに「入院後に娘に電話するといつも混迷していて、一度だけ面会した時はふらつくほどだった」と語った。
 Kさんは、精神作用薬の副作用で消化器と筋肉系に問題が生じたとみられると語った。「精神作用薬のよくある副作用に抗コリン作用(口内の乾燥、腸運動の低下、消化不良、便秘、排尿困難、眼球の乾燥、せん妄など)とともに筋肉系の副作用(筋肉の震え、急性筋緊張異常、アカシジア、神経弛緩薬悪性症候群など)が起こりうるが、それに対する医療スタッフのチェックが序盤にほとんどなかった」と述べた。
 特に「せん妄は精神科的な副作用ではなく、消化器系および筋肉の副作用が積み重なって生じた可能性があるが、それを精神科的な症状としてのみ判断して、薬で抑えようとしたようだ」と指摘した。このような過程で、腸の吸収と蠕動(ようどう)運動の停滞が続き、腸閉塞や敗血症性(全身性炎症反応症候群)ショックが進行する可能性があるという説明だ。終盤の「大便を垂れ流した」という診療記録も、消化器の閉塞に伴って排便の調節ができていなかったことを示していると述べた。

【写真】精神科専門医のKさんが1日、ソウル龍山区孝昌洞のカフェでハンギョレに、投薬記録を見ながら話している=コ・ギョンテ記者//ハンギョレ新聞社

◆ゾウすら倒すほどの「注射剤」使用
 にもかかわらず、高用量の鎮静剤投与は死のその日まで続けられたとみられる。投薬記録を見ると、薬のせいで眠気に襲われ、ふさぎ込んだ被害者には薬を飲み込むのが難しくなったため、後半になるほど経口薬ではなく注射剤が使われるようになっていった。被害者が薬を飲み込めないほど自分の体をコントロールできていないにもかかわらず、むしろ「力価」の高い注射剤を使ったのだ。このような注射剤は、精神障害の当事者の間では、ゾウすら倒すほど強い鎮静効果があるとして「ゾウ注射」と呼ばれている。
 結局、Pさんは5月26日夜、腹痛を訴えて閉じ込められていた隔離室(安定室)のドアをたたいたが、病院側は適切な措置を取らず、むしろ保護士と看護助手は5月27日0時30分、Pさんの手、足、胸をベッドに2時間にわたって拘束した。その後、Pさんは息切れ症状と鼻出血が見られたため拘束から解放されたが、それから1時間30分もたたないうちに息を引き取った。国立科学捜査研究院は解剖の結果、死因を「急性仮性腸閉塞」と推定した。
 精神科専門医のKさんは、被害者が富川(プチョン)Wジン病院に入院する前に服用していたというディエタミンの問題も指摘する。Kさんは「ダイエット薬として簡単に考えられ、消費されている面があるが、ひどい副作用についてはあまり知られていない」と語る。英国では、研究の結果、その成分であるフェンテルミンが心毒性、激しい依存性と乱用を理由として、2000年に販売が禁止されたという。しかし韓国では市販され続けており、保険対象外薬物に分類されているため、国家モニタリングシステムの死角地帯において、ダイエット薬処方の流行と共に、徐々に処方が増加してきた。
 Kさんは、精神科薬物は精神疾患を治す「治療薬」というより、心理、行動の困難を緩和する「調節剤」に近いと説明する。そして「だから薬を適切に活用し、関係中心的な治療を用いなければならない」と強調する。
 しかし、韓国の精神疾患の治療環境は劣悪だ。精神健康増進および精神疾患者福祉サービス支援に関する法律(精神健康福祉法)施行規則は、年平均入院患者60人当たり精神科専門医1人、入院患者13人当たり看護師1人を置くこととしているが、このような環境では、薬物を繊細に使用し、カウンセリングを適切に活用する人間中心の治療を行うのは難しいということだ。
 Kさんは、このところ相次いで明らかになっている精神病院の患者拘束死亡事故が、問題をあらわにし、省察する機会になれば、と語る。Kさんは、「今回の事件が、精神科医を攻撃するのではなく、精神疾患を見つめ、対処すべき私たちの社会システムについて省察する機会になればと思う。今の治療環境や医師による薬の処方には明らかに限界があるという警告のシグナルだと受け取るべきだ」と述べた。そして市民には、「すべての医療領域と同様、精神医療も効果と副作用の両方がある。それを天びんにかけて使用する知恵が絶対に必要だ」と訴えた。

コ・ギョンテ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1152395.html韓国語原文入力:2024-08-06 06:00
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