樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

カフカが描く鳥

2022年12月01日 | 野鳥
ある朝目覚めたら自分が虫になっていたという代表作『変身』など、「シュール」「不条理」と形容されるカフカ文学。世界中にファンが多く、『変身』に刺激されて小説を書き始めたガルシア・マルケス(1982年ノーベル文学賞受賞)をはじめ、日本の安部公房、倉橋由美子などにも影響を与え、村上春樹にいたっては『海辺のカフカ』という長編を書いています。
そのカフカに『禿鷹(はげたか)』という、文庫本2ページの超短編があります。「それは禿鷹だった。足を抉(えぐ)りにくる。靴も靴下も食い破られた。くり返し襲ってくる」という書き出し。いわば、猛禽に襲われて死ぬまでの実況中継です。
死ぬ間際に、自分が流した血の海でハゲタカが溺れるのを見て「私はほっと安堵した」で終わります。自分を殺す相手が死ぬのを見て安心するという心理は分かるような気がします。そのあたりがカフカらしい。


カフカ(1883~1924)(Public Domain)

もう一つ「こうのとり」という作品もあります。こちらも4ページ程度の超短編。書き出しは、「夕方、家にもどってくると、部屋の真ん中に大きな卵があった」。
その卵をかえしてヒナに餌を与える代わりに、成鳥になったら背中に乗せて南へ連れて行くという契約書を交します。コウノトリのヒナが嘴にインクをつけてサインするところがかわいい。そして、幼鳥に飛ぶことを教えているシーンで物語は終わります。
カフカは生前「悪夢を書きちらしただけ」と謙遜していたようですが、まさに夢に出てくるような荒唐無稽(こうとうむけい)な世界がカフカ文学の魅力。鳥をテーマにした2作品をあえて意味づけすれば、自分の死に際を描く救いのない『禿鷹』に対して、もうすぐ南の国へ飛んで行けるという希望で終わる『こうのとり』というところでしょうか。
コメント (2)
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