樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

木とブレヒト

2014年04月21日 | 木と作家
以前、長田弘という詩人が樹木を題材にした作品をたくさん書いていることをご紹介しました。先日、その長田さんの『私の二十世紀書店』という本を読んでいたら、「木とブレヒト」という章がありました。
ドイツの詩人ブレヒトも長田さんと同じく樹木が好きで、木を題材にした作品をいくつか残しているとのこと。学生時代に何度か耳にした名前ですが、その作品に触れたことはありません。図書館で研究書を1冊借りて読んでみました。そこに収録された「夏」という1篇をご紹介します。

ぼくは、とても年を経たうるわしい菩提樹の
冷たい木陰の草地に横たわる
すると陽に明るい牧草地にある草たちはみんな
風に吹かれ、おだやかに身を傾ける

そして、ぼくが喜んで耳を傾けて横たわっていると
ぼくには聞こえる、葉っぱが不思議にざわめいているのを
まるで、かれらが話をしているかのように
それはいにしえの戦いのこと、勇敢な英雄たちの
誉れ高い勝利のこと


ドイツだから、やはりボダイジュ(リンデンバウム)なんですね。


リンデンバウム(セイヨウボダイジュ)

「樹」というそのままのタイトルの詩もあって、その前半はこんな感じ。

何十年ものあいだ彼は樫の森に立っていた
あらゆる樹のうち最も美しく、最も偉大なものとして…
緑色の葉のギザギザをつけて
誇らかに不敵に、高く挙げた額
おそらくずっとずっと何百年のあいだ…
そしてここに嵐や、雹や、雨に立ち向かう…
こいつらは樹の梢の縒れ(よれ)を荒っぽく傷つけたのだ
かれの敵に向って樹は辛抱強い力で抵抗する
そしてあの何年も戦い抜いた力強さ


「樫の森」とか「緑色の葉のギザギザ」という言葉から推測すると、詠まれているのはオーク(ヨーロッパナラ)でしょう。


ヨーロッパナラの葉

この作品には、長田さんの「空と土のあいだで」に共通する世界観があります。ブレヒトの詩にインスピレーションを受けてつくられたのかも知れません。樹木が好きなドイツの詩人と日本の詩人との間には、何か通じる回路があったのでしょうね。
コメント (2)
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