真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「団地妻《秘》セックスライフ」(1990『団地妻 恵子のいんらん性生活』の2009年旧作改題版/製作:メディア・トップ/企画:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩/照明:秋山和夫・金田満/助監督:毛利安孝・安達良春/車両:田島政明/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:白木麻弥・風間ひとみ・平賀勘一・山本竜二・南城千秋・芳田正浩)。出演者中、主演の白木麻弥がポスターには白木麻耶、豪快だなあ。それとポスターのみ山崎邦紀の名前が載るが、実際に出て来はしない。
 一棟だけでも巨大な高層住宅が、しかも幾重にも連なる正しくマンモス団地。とある棟の707号室に、会社専務の安達啓二朗(平賀)とその妻・恵子(白木)が暮らす。専務さんが何でまた団地住まひなのかといふささやかなミスマッチが、解消されることは別にない。開巻を飾る夫婦生活を経つつ、翌朝啓二朗を送り出した恵子は、そそくさと別棟へ向かふ。その棟の401号室を、訪問ではなくあくまで帰宅した恵子は、その時間に戻つて来るコンビニ店夜勤店長の内藤靖(南城)を、今度は妻・洋子として迎へる。再び二度目二つ目の夫婦の営みを終へた後、綺麗に昼夜の逆転した靖は就寝。夕方、起き出した靖が出勤すると、洋子は再び恵子として安達家に戻り、啓二朗の帰りを待つ。何れが元々の本名なのか、あるいは何れも既にさうではないのかは不明ながら、啓二朗と靖、対照的な二人の夫の生活パターンを利用した、華麗な二重生活を恵子あるいは洋子は送つてゐたのだ。それぞれの夫の、休日には一体洋子もしくは恵子はどういふ身の処し方をしてゐるのだ、といふ疑問を持つことはとりあへず禁止の方向で。内藤家の隣室・402号室に住む橋田球味(風間)は、毎夕出かけては夜が明けてから帰宅する洋子に対し、浮気してゐるに違ひないとある意味余計な世話を焼いた猜疑を募らせる。閉口する夫・辰夫(山本)の制止も聞かず、双眼鏡を手に珠味は洋子の行動の監視を開始。靖は眠る内藤家の受話器を、安達家から転送された電話が鳴らす。啓二郎の部下・カワハラユウイチ(芳田)からのものだつた。この場合は洋子改め恵子は、カワハラの昼休みを利しての慌ただしい不倫の情事も重ねてゐた。夫が二人居る時点で、不倫もへつたくれもないといへばないのだが、まあ忙しい女だ。カワハラと二人、団地の棟々を遠目に見やりながら恵子は胸中を漏らす。各々の窓の中には一つ一つの人生がある筈なのに、かうして眺めてしまへば、所詮全ては均質化する。
 一種のアクティブ過ぎる諦観ともいへるのか、いはば自らの同一性さへ放棄しようとさへいふかのやうな、恵子や洋子の多重生活。女優二枚看板のルックスが清々しく時代を超え得ない点のみが少々苦しいものの、現代社会にカウンターを放つドライな思想的冒険が生み出す騒動をてんこ盛りの色めく情事で彩る今作は、手放しにスリリング且つ見所に溢れる。その上で、頑強な浜野佐知の女性主義が今回は火を噴かないのもあり、イマジネーションがその力強い翼を思ふがまゝに羽ばたかせるか、基本線としては低目から次第に迫り上る日常的な視線を主とするのかといふ、現実との接地度に若干の違ひがあるだけで、最終的には山﨑邦紀の映画といへよう。徹底して世俗的な嫌味もとい球味の攻撃性、当然のことながら、翻弄されるばかりの啓二朗と靖に、純然たる巻き込まれた第三者にして、穏当な常識人である辰夫。諸々との対比で主人公の飛翔を際立たせる堅牢な論理性は、正しく山﨑邦紀のものに違ひない。更にカワハラを放り込んで渦の勢ひを増す一手間や、全く定石通りともいへ、しなやかなラスト・カットも心憎い。殊更に気負ふでもなく頑丈な地力がスマートに決まる、旦々舎ピンクここにありを叩き込む素敵な一作である。

 ここから先は、狭義の映画の感想とは全く関係がなく、直截に滑らせた筆である。新作製作本数が正直絶望的に激減したきのふけふだからといふ訳では決してないが、単に新作ではないからといふ理由だけでかういふ映画を門前でキャンセルして済ますやうな姿勢は、喰はず嫌ひにすら当たらない怠惰極まりない思考停止に過ぎまい。だなどと、巨大な世話も省みず大いに難じるものである。

 以下は再見に際しての付記< オーラスに後ろ寝姿だけ見切れる、恵子の次なる同居人は鈴木静夫


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