真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 (2006年)5月24日から始まつた故福岡オークラの最終番組は、観た順に「乱姦調教 牝犬たちの肉宴」(6月16日/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典)、「桃色仁義 姐御の白い肌」(6月23日/監督:荒木太郎/脚本:三上紗恵子・荒木太郎)、「四十路の奥さん ~痴漢に濡れて~」(6月2日/監督:関根和美/脚本:関根和美・水上晃太)の三本。頭につけた日付が何を意味するのかといふと、東京での公開、要は当初予定されてゐた封切日である。今回大蔵(現:オーピー)映画は、直営館の閉館に際し初日を繰り上げ、これら三作を福岡で全国初公開したものである。
 全国初公開といふことは、即ち観て直ぐに感想を書いた場合、それが全世界最速の感想ともならうといふことである。尤もそれがどうした、といはれてしまへば全く実も蓋も無いが、福岡オークラの死に水も取るべく、不肖ドロップアウトカウボーイズ、臆面も無く見当違ひの先陣を切らせて頂く。それはひとまづいいとして、さうしたところ、ひとつだけ困つたことがある。東京でも未だ封切られてゐないピンクの感想を書かうとした場合、PG誌公式サイトの新作ピンク映画紹介のページを頼れないのである。キャストは映画とポスターを観てゐれば大体のところは押さへられるが、スタッフと、最も困難なのは登場人物の劇中での名前を自力で何とか押さへて行かなければならない。
 スタッフに関しては、十全では全くないがポスターにある程度までは書いてあるのと、一生懸命観てゐなくてはならないがクレジットも流れる。も、たとへば荒木太郎のやうなバカは、例によつて紙切れに適当に手書きしたものを撮り流すだけでマトモなクレジットの流し方をしないし、あまつさへそれすらも概ね速過ぎて殆ど全く判読出来ない。ハッキリいふが、荒木太郎はスタッフの名前を観客に知らしめる気が―少なくとも今回―全く無い。役名に関しても、劇中でちやんと呼称されるとは必ずしも限らないし、たとへば“カズオ”の場合、“和夫”なのか“和男”なのかそれとも“一雄”なのか、そこまでは演者の発声を聞いてゐるだけでは勿論判らない。そこで、我等が―ま、単に俺が一番好きなだけだが―関根和美は、といふか関根プロダクション製作の映画は、クレジットを必ずエンドに、キャスト名だけでなく役柄の上での名前も併せてキチンと打つて呉れる。非常に有難い。

 「四十路の奥さん ~痴漢に濡れて~」(2006/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・水上晃太/撮影・下元哲/照明:代田橋男/助監督:水上晃太/撮影助手:中泉四十郎、他一名/監督助手:宮崎剛/選曲:梅沢身知子/効果:東京スクリーンサービス/協力:岡本真一・長谷部大輔/出演:三上夕希・華沢レモン・山口真理・天川真澄・竹本泰志・中川大輔・牧村耕次)。照明助手をロストする。
 福岡オークラの掉尾を飾る関根和美は、何かあつたのか珍しくヤル気を出して傑作をモノにする関根和美、ではなくして矢張り何時もの関根和美であつた。それはそれで、個人的には構はない。
 智子(三上)は夫と一人娘、それと同居する義父との四人家族。智子の悩みは、彼氏が出来たのか大学生の娘・由香(華沢)の帰りが最近遅い日が多いことと、義父・松作(牧村)のセクハラ。夫の伸也(天川)に相談を持ちかけるも、伸也は夫婦生活ならば毎晩盛んなものの、智子の相談には面倒臭がつて取り合つては呉れない。隣の部屋で眠る―寝てないのだが―松作の覗く視線に気付きながら、毎夜の如き熱いイッパツを交した次の朝、伸也は長期の出張に旅立つ。行つて来ますの伸也とのキスを冷やかされつつも、智子が由香も送り出したところへ松作登場。ズンチャカズンチャカ♪と安過ぎる劇伴が鳴り始めるとともに、松作爺さんのセクハラ・タイム・スタート!台所で階段で、躓いたよろめいたといつては智子に抱き付き、オッパイを、尻を触る。トイレを覗き風呂場を覗き、風呂上りの智子が自室に戻つてみると、松作がブラとパンティを身に着けてセクシー・ポーズを取つてゐたりなんかする。智子と、絶対大多数の観客は早くも呆れ顔かも知れないが、関根和美と、牧村耕次とはどうでもいいエロ・シークエンスを嬉々として紡いでゐるやうに見える。そして私も、これはこれでこれとして最早いいやうな気がする。どうでもいい映画を、どうでもよく楽しむ。さういふ映画の、観方味はひ方といふものもあるのではなからうか。
 業を煮やした智子は、松作を老人ホームに放り込むことを決意する。その費用の為にパートを探すことにし、電車に乗つて面接を受けに行く。その車中で、表題にもある痴漢に遭ふまではいいとして、その痴漢パートが、臨場感でも出してゐるつもりなのかビデオ撮影なのは頂けない。何となれば、実車輌でゲリラ撮影してゐるのであれば、百歩譲つてビデオ撮りでも仕方なく首を縦に振らない―実車に35mmを持ち込み撮影に挑む強者も時に居るが―こともないが、そもそもが今回の場合はセット撮影だからである。話を戻して、痴漢して来たのは、智子いはく“こんな若い子が?”といふ市川力(竹本)。堂々とオッパイも露出され揉みしだかれてゐる内にすつかり盛り上がつてしまつた智子は、バッグを落としたふりで市川の足下に跪くや、そのまま尺八を吹く。一心不乱に市川を咥へ込む智子の肩越しで、座席に座る他の乗客役の亜希いずみが目を丸くする。画面的には左から智子の横顔のアップ、真ん中に小さく座席に座る亜希いずみ、右に市川、のズボン。市川の股間に智子が顔を埋め、見えなくなつてしまふ直前に両手で顔を覆ふ亜希いずみのタイミングが抜群に素晴らしい。一見どうでもいいやうなカットにしか見えないかも知れないが、かういふどうでもいいところで、キチンとした仕事をこなせる役者を常備―亜希いずみは関根和美夫人―出来るといふことは、製作体制が兎に角制限されたピンク映画にあつて、実は掛け替へのない強みであるやうにも思はれる。市川の右側に、フェラチオされる市川を怪訝さうに見やる更に他の乗客役で山崎岳人も見切れる。亜希いずみと山崎岳人に、何れも出演者クレジットは無し。
 ところで市川は、国からの要請を受け研究を進めてゐる小石川大学の研究者であつた。どうでもいいことこの上ないやうにしか見えなくて、今作実は起承転結の構成は完璧。カッコばかりつけて結局何がいひたいのだかサッパリ判らない、ダラダラした物語がダラダラしたまま終つて行くあんな映画やこんな映画―どんな映画だ―よりは、商業作として余程良心的な仕事といへよう。話を戻して、市川の研究テーマは、“心理学的見地から四十代女性の性感覚のデータを収集し、EDや更年期障害の治療に役立てる”・・・・・バッカだなあ、でも好きだけどね、関根和美。とはいへ大体、四十代女性の性感覚の研究が、どう転べば勃起不全の治療に繋がるのだ?ともあれその後はお定まりの展開で、「人助けの為に研究材料になつて下さい!」、と三十年一日のハレンチ研究。何かのヘッドギアにゼムクリップでコードを適当に取り付けただけのものを脳波計と称して装着させては、「それでは服を脱いで裸になつて下さい」。何だか人類の芸術の歴史は、ここで実は完成してしまつてゐるやうな気がするのは、単なる私の病的な気の迷ひに違ひない。智子が恥らふと市川はゴーグルのやうな馬鹿デカいグラサンを、サーモグラフィーと称して取り出し、これを掛けると熱を帯びてゐる部分は赤くそれ以外は輪郭だけが青く映つて見えない、といふ。試しに智子に掛けさせると、汚いビデオ合成の画面で何故か腰に手を当て仁王立ちの市川―バカである―が他の部分は青く、チンコ周囲だけが沸き立つマグマのやうに真つ赤に、タンパク質が死ぬぞ。どうでもいいが、青くはなつてゐるものの輪郭以外も全然見えてるし、背景は普通の色。そもそも、サーモグラフィーを掛けただけでギュワンギュワンと鳴り始めるチープな反応音は一体何なのか、起動音?斯様に大らかな映画を前に、“下らない”だとか“しやうがない”だとか、さういふ正しくいはずもがなを一々いはうといふ御仁の神経の方が、最早小生には理解し難い。
 ひとまづ全世界最速につき、結末まで全ては勿論書かない。ここから先以降の映画は、実は始末の悪い女たらしであつた由香の彼氏や松作のいはゆる老人問題を、あまりにも下らなさ過ぎて却つてさういふところにまで目が至らないが、最終的には全てキチンと回収する。途中で寝るか観るのを止めてさへしなければ、実は最後まで観てゐればちやんとしたオチもついて映画はつつがなく着地するのである。初めに“何時もの関根和美”と書いたが、何時もの関根和美の中でも木端微塵の時の関根和美ではなく、一応はベテランとしての隠された地力も発揮する関根和美である。決して頂点に輝く映画ではないとしても、かういふ映画はかういふ映画で矢張り尊くもあるまいか。

 中川大輔は、女たらしの由香の彼氏・宏。中川大輔といふ人を判り易く譬へると、ルックス、芸風とおまけに声の近似まで含めて20kgくらゐ太らせた兵頭未来洋。判り易いのか、それは?兵頭未来洋ならばギリギリ諦めない―普通に納得するには佐藤幹雄から―こともないが、これで女にモテモテのモデルといふのは幾ら何でもあんまりである。実験の続きとして、智子は街に出て男をいはゆる逆ナンすることを強ひられる。逡巡しながらも意を決して智子が声をかけたのが偶々娘の彼氏でもある宏で、智子は宏のカッコ良さ―まるでカッコ良くは全くないのだが―に失神してしまふ。倒れた智子を宏は自室に連れ帰り、犯す。山口真理は、宏の由香以外の別カノ・萌。全くの濡れ場要員であることに疑ひはないが、実に綺麗に撮られてある。下元哲十八番のソフトフォーカス撮影も、萌と宏との濡れ場で最もスパークする。宏の前に、智子が声をかけかける若い男役がもう一人出演。定石から考へると、水上晃太といつたところであらうか。
 最後に与太をもう一吹き。オチ前の、出張から帰つて来た伸也と智子との絡み。オッ始める前に並んで寝ながらあれこれ話をするのだが、結局最終的にはセックスすることは映画設計上も当然するのだが、伸也が話の途中で智子のオッパイに手を伸ばしては撥ね退けられる、といふ動作を都合六度繰り返す。このシークエンスは、関根和美のジョン・カーペンターに対するオマージュである   >絶対違へよ

 途中で無くなるのだが、開巻付近、画面の右隅にかつて珠瑠美の旧作改題で一度観た、右から左に流れて行く傷が付いてゐる。全国初公開であるにも関らずである。ここから先は、この期には敢ていはぬ。


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