真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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夜のタイ語教室 いくまで、我慢して
か行
/
2010年05月24日
「
夜のタイ語教室 いくまで、我慢して
」(2009/制作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:黒川幸則/脚本:本田千暁・黒川幸則/企画:亀井戸粋人《エクセス・フィルム》/プロデューサー:秋山兼定《ネクストワン》/撮影:村石直人/照明:大橋陽一郎/編集:酒井正次/助監督:新居あゆみ/監督助手:関谷和樹/撮影助手:松宮学・重田純輝/照明助手:深川寿幸/スチール:MAYA/効果:山田案山子/協力:田口昇、他/照明協力:鳥越正夫/出演:かすみ果穂・倖田李梨・友田真希・久保田泰也・丹原新浩・石川雄也・井尻鯛・鎌田一利・ホルモン金沢、他・飯島大介)。
結婚を間近に控へた後航平(久保田)と前倒して同居する
小金井
ハルコ(かすみ)は、魚を釣り上げた風情も否めない婚約者と結婚後の将来とに対し、漠然とした不満と不安を抱かぬでもなかつた。そんな折、二人の隣室に子供も既に独立した、古賀篤(飯島)とその妻・朱美(友田)が越して来る。スキン切れで中止した婚前夫婦生活、生殺しにされた形で手洗ひに入つたハルコは、洩れ聞こえて来る古賀夫妻の重量級の営みの気配に悩ましく豊かな胸を騒がされる。ここのシークエンスに於ける、飯島大介と友田真希が醸し出す、説得力が爆裂する安定感は尋常ではない。この二人ならば、未だ性の悦びをさほど知らぬ小娘を易々と圧倒する、官能の大海原を確かに現出し得るに違ひないと思はせる。ハルコがタイ旅行後かぶれた山本優子(倖田)に誘はれた、佐藤義則(石川)が講師を務めるタイ語教室に通ふ一方、優子自身は既に熱意を失ひ、教室に姿は見せなかつた。ハルコは知らなかつたが、バツイチの優子は既婚の佐藤と不倫の仲にあるものの、優子の側から関係を終らせる腹だつた。ハルコは優子から強引に誘はれた合コンにのこのこ参加した挙句、酔つた勢ひで、深海魚オタクの中野圭介(丹原)と一夜の過ちを犯してしまふ。そこはかとない心の隙間、隣家の熟年夫婦にもたらされた衝撃、中野との一件に関する激しい後悔。諸々に煩はされるハルカは、ベッドの上での男女の会話に特化したタイ語の俗流教則本を、教室から無断で持ち出す。出演者中、本篇クレジットのみの井尻鯛(=江尻大)から他までは、男女各一名づつのタイ語教室その他生徒と、四対四の合コンに際しての、女二男三名のその他参加者。確か脚本の本田千暁(=星崎久美子)の姿が、合コン会場に見切れてゐた筈だ。
詰まるところは、他愛もないマリッジ・ブルーに囚はれかけたヒロインが、タイ語の力も借りこれまで表に出すことの出来なかつた、自身の感情なり願望を相手に伝へる一歩を踏み出せるやうになる、ざつとさういふ物語である。肝心のハルコの表出がセックスに関るものである点に関しては、ここはピンク映画である以上当然のこととしてもさて措くべきだ。隣室の古賀夫婦を筆頭に、ハルコを取り巻く周囲の人物配置も概ね定石通りに鉄板。とはいふものの、黒川幸則の演出はどうにも力あるいは緊張感に欠け、ワン・カットワン・カットが、一々微妙に終始心許ない。その為“さういふ物語”といふのが、単に “それだけの物語”にしか見えない。ハルコがそれまで、その前で手を拱(こまね)き立ち尽くしてゐた慎みの美名にも隠された扉を、自らの決意で果敢に抉じ開ける力強いハイライトも、黒川幸則の手腕といふよりは、寧ろソリッドなかすみ果穂の魅力と突破力とに頼りきりであるやうに映る。裸だけでもドラマの動因たり得る友田真希に対し、単なる濡れ場要員には止まらぬやうな色気も窺はせながら、最終的には倖田李梨の扱ひは宙ぶらりんに済まされてしまふ。鉢植ゑに水をやる霧吹きを、自らの顔に向け激しく自戒するかすみ果穂のショットはキュート過ぎて堪らない反面、だから結婚するといつてゐるハルコに対し、退場後痛メールを一通だけ送つて来る中野の処遇も尻切れトンボでなければ蛇足でしかなからう。一直線の筈のシンプルな主人公の成長物語は、大まかな破綻も無い反面カット単位で求心力に欠き、最終的にはそこかしこに物足りなさを色濃く残す。かういふ考へ方はフェアではないのかも知れないが、無視出来ない厳しいも通り越して正直絶望的な現況も鑑みるに、決定力の欠如を大いに難じざるを得ない一作である。
そもそも。この際決然と筆を滑らせてしまへば、中村和愛や伊藤正治、北沢幸雄といつた名前には現在的な現実味に些か乏しいのかも知れないが、山内大輔や神野太、あるいは坂本太や下元哲、更には大門通に勝利一といつた目下沈黙勢。もしくは稼働中の実働部隊から友松直之や松岡邦彦を再加速。一体何がいひたいのかといふと、事いよいよのこの期に及んで、何を考へてか望んでか、エクセスがさして多くを期待出来るやうにも決して思へない黒川幸則に、ただでさへ僅かな新作製作本数を割き重ねて撮らせてゐるのかがよく判らない。最短距離でいつてしまふと、もつと他に幾らでも然るべき人間が居るのではなからうか。全般的に、悪い意味で纏まつてゐるだけの小粒感を漂はせる黒川幸則よりは、ツッコミ処が過積載の新田栄の方が、別の意味であつたとてまだしも、映画を観る楽しみに溢れてゐるやうな気の迷ひすらするのだが。
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