真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「パーフェクト・キス 濡らしてプレイバック」(2023/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/ラインプロデューサー:江尻大/撮影:小山田勝治/録音:大塚学/編集:西山秀明/助監督:河野宗彦/小道具:中津侑久/選曲:効果:うみねこ音響/整音:竹内雅乃/グラフィック:佐藤京介/スチール:本田あきら/監督助手:小林義之/撮影助手:ナカネヨシオ/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:花音うらら・小池絵美子・広瀬結香・市川洋・安藤ヒロキオ・野間清史・河野宗彦・吉行由実・森羅万象)。
 一応肩書的には女性学教授の母・山岸綾子(小池)の執拗な干渉を逃れ、念願の一人暮らしを始めた小百合(花音)が実家に荷物を取りに来る。ど初端から結論を先走ると、綾子の木乃伊取りが木乃伊作りに全力で精を出すが如き、チンコの取れたパターナリズムの源なり所以を、結局綺麗にか平然とスッ飛ばしてのける。より直截にはそれで泰然としてゐられる辺りが、浜野佐知とは根本的に異なる吉行由実のレイヤー。あるいは単なる、藪蛇な無頓着。不自然なフェミニズムを、不用意に持ち出す要が何処にも見当たらない。
 本質的かも知れないけれど、閑話休題。この人は娘の意思を尊重して呉れる、義父の武雄(野間)と一緒に山岸家を離脱しようとした小百合が、叶はず綾子に捕まつた流れで、藪から棒なグリッドレイアウトのタイトル・イン。頓珍漢な意匠で木に竹を接ぎ続けるのは、吉行由実にとつて少なくともかつては盟友であつた筈の、清大と三人平成八年組の同期・荒木太郎をフィーチャした戦略では別になからうといふのは、全く以て為に吹く与太。
 配役残り、安藤ヒロキオは綾子が勝手に決めた小百合の婚約者・平川。平川なのに、何故ナオヒーロー当人を連れて来ない。綾子の元部下とかいふ、地味な素性不詳、今は何者なのよ。小百合がロストバージンすら平川で済ませてゐる、苛烈な綾子の支配ぶりは決して地味でない。最初は瞬間的な回想に飛び込んで来る市川洋は、往時家庭教師をしてゐた小百合が唇を奪はれたのが騒動となり、結果―綾子に―教職の夢を断たれた元教へ子の水原弘樹。最終的に武雄ではなかつた、綾子がブルータルな女王様プレイを営む、相手役の奴隷がその時点では不明。二番手一回きり戦を轟然と加速する、広瀬結香と森羅万象は小百合の捌けたメンターを担ふ従姉の瑠美と、齢の離れた夫・達也。達也の造形は、煙草の銘柄風にいへばマイルド鮫島。矢張り多呂プロのみならずダイウッドの想起も狙つた、吉行由実なりの一人同窓会なのか、絶対違ふだろ。さ、て措き。確かに乳は太いにせよ腰周りも太ましい広瀬結香と、森羅万象によるドカーンとした濡れ場が序盤の圧巻、ドカーン。を、クライマックス前で超えてみせようとは、よもや夢にも思はなんだ。綾子に付き合はされるか振り回される買物の最中、小百合はその後進学せず、今はバーのfもとい「promis_9」を開業した水原と再会。河野宗彦と吉行由実は、その格好で家からこゝまで来たの!?と軽く引くレベルの、素頓狂なドレスで小百合が「promis_9」に来店、耳目も憚らず水原に大告白する。凡そ吉行由実以外に撮り得なささうな、無防備シークエンスのカウンター客要員。が、実際にはもう二人ゐて全部で四人。入口から見た背中の並びで、一番左が河野宗彦。右端がEJD、その隣に吉行由実。吉行由実と河野宗彦に挟まれた、既視感を覚えなくもないパーマ頭のグラサンがどうしても判らん。その他小百合と瑠美が艶話に花を咲かせる茶店のウェイターに、小百合に声をかける同性の同僚。「promis_9」最初の来店時、道中で小百合―この時は馬鹿みたいなチークを刷く―をナンパしかける輩三人組等、もう若干名フレーム内に投入される。
 あの小川隆史の最初で最後作「社宅妻 ねつとり不倫漬け」(2009)主演を―里見瑤子のアテレコで―務めた、小池絵美子が実に十四年ぶりともなる驚愕の超復活を遂げた吉行由実新作。オフィス吉行次作にも小池絵美子は継戦、最初のAVデビュー(2003年)からだと二十年の節目も通過した、何気な息の長さを誇る。
 邂逅以前から水原が瑠美のセフレであつたりする、ありがちな爆発的か圧倒的な劇中世間の狭さが、作劇に及ぼす吉凶に関してはこの際議論を放棄する。それどころで、ないんだな。箱の中に閉ぢ込められてゐたヒロインが、晴れて籠の外に脱する。普遍性の徳俵を割り陳腐に呆気なく堕す、物語もしくは劇映画が屁より薄い反面、二人とも正真正銘のノーイントロで三番手の絡みを豪快に放り込んでのける、裸映画的にはゴリッゴリに攻撃的である印象を最も強く受けた、一旦は。実は偽装結婚であつた綾子が、武雄とは一切関係を持たない。終盤明かされる秘密で俄かに沸き起こる、ほんならあの犬誰なのよとなる原初的な謎。を足がかりに、吉行由実が遂にか出し抜けに辿り着く、辿り着いてしまつた深町章ばりの一昨日通り越して一昨年なベクトルの老成が、今作を珍作なりチン作の領域に易々と放り込む、絶対値だけは無闇にデカい明後日なハイライト。確かに構成上は、計算し尽くした妙もなくはないけれど。気を取り直しての締めを、キラッキラのガーリーガーリーに撃ち抜けば撃ち抜きれれば、まだしも吉行由実こゝにありを叩き込めたところが。そこで絶妙に攻めきれない、若干力尽きた感の否めない枯れたきらひも、老成と評した所以のひとつ。近年顕著な傾向たる、良くも悪くも円熟味の増す一作である。
 備忘録< 小百合の父親は出生半年後急逝した、綾子不倫相手の教授。あと犬の正体は平川


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 「好色美容師 肉体の報酬」(昭和54/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:藤浦敦/脚本:山本英明/原作:中野ゆう⦅少年画報社漫画ボン連載⦆/プロデューサー:海野義幸/撮影:山崎善弘/照明:加藤松作/録音:木村瑛二/美術:松井敏行/編集:西村豊治/音楽:ピエールポルテ/助監督:中川好久/色彩計測:米田実/現像:東洋現像所/製作担当者:沖野晴久/出演:小川亜佐美・日夏たより・片桐夕子・北見敏之・橘雪子・岡尚美・高橋明・吉沢由起・藤ひろこ・たこ八郎・相川圭子・織田俊彦・玉井謙介・影山英俊・森みどり/体操指導:漆沢政子)。
 馬鹿にビートの効いた劇伴起動、一欠片の拘りも感じさせないプレーンなビルの画に、度を越した頓着のなさが、清々しさにさへグルッと一周しかねないタイトル・イン。ティルトが下ると、「セックス.コンサルタント 佐根以久子」とかプリミティブな屋号の看板。以久子(片桐)指導の下、ビリング順に野川ユリ子(橘)と笹山霧子(岡)。中年女(藤)に名流婦人(相川)、マダム(森)らがエアロビクスに汗を流す。もうそれ、後ろ三人マダムABCでいゝだろ。さて措き、以久子にとつて色男アシスタントとセフレを兼ねる居代真良夫(北見)が、森みどり(a.k.a.小森道子)に今でいふ大好きホールドで捕獲されるホッコリ小ネタがタイトルバックを賑やかす。
 真良夫目当てのオバ様方でコンサルは繁盛、ほくほくの以久子が臨時ボーナスを弾んだタイミングで、真良夫に二年前の上京当時、拾はれてゐた美容室から電話がかゝつて来る。
 配役残り小川亜佐美が、「エチュード美容室」の女主人・泉広子。広子と真良夫の不貞を、夫(織田)に目撃されたのがエチュード退職理由、織田俊彦はそれきりの純然たる一幕・アンド・アウェイ。唇の厚い燃ゆる芥みたいな、日夏たよりは真良夫を追ふ形で上京、エチュードに住み込んでゐると思しき千恵。高橋明はその後美容室が閑古鳥の鳴く、広子が金を借りた三井銀助。金貸し以外に、スナック「フィーバー」も営む。高橋明が店主のスナック、しかもフィーバー。吹き荒ぶくらゐカッコいゝか、ハードコアすぎて敷居の天より高いかの二択だと思ふ。玉井謙介は苛烈な夫婦生活の求めに音を上げ、金を出してまで真良夫との浮気を公認する霧子の夫。藤浦敦相手でも―主に山晋の時と―全く変らない、たこ八郎は真良夫が招かれた夜、笹山邸に忍び込む泥棒。誰のディレクションだらうと関係なく、何時も通りといふのはある意味凄い、この期に及ぶにもほどがある。影山英俊は千恵が偶さか中の偶さか東京で再会する、中学の同級生・トン子改め、清純歌手で人気を博する若菜真弓(吉沢)のマネージャー氏。のち小切手を振り出す際の、署名はスタープロダクションの土屋弘。ダダッ広いスタジオみたいな空間―といふか撮影スタジオそのもの―に、ぽつねんとマイク一本オッ立てる。状況のあり得なさが前衛性の領域に突入せん勢ひの、若菜真弓レコーディング風景。ブースの録音部に、オダトシより余程台詞も多い、大平忠行(ex.北上忠行)と賀川修嗣がクレジットの隙間から堂々と紛れ込む。事実上の真良夫放逐後、以久子新アシスタントの個性に乏しいハンサムに辿り着けないのが、現時点に於ける当サイトの限界。何処かで見たやうな気が、しなくもないんだけど。何しに来たのか目的が見当たらない、兎も角真良夫が劇中二度目にエチュードを訪ねると、千恵は帰郷しようとしてゐた。跨いだ先は、焼鳥の屋台。黙して煙に塗れる大将で、水木京一が飛び込んで来るカットの強度が今作のハイライト、一番の見所そこかよ。あと、豪華九枚擁する女優部は、ベッドシーンには恵まれない森みどりもシャワー室に花を添へ、全員脱ぐ大盤振る舞ひ。
 シネポによると同じ原作の買取系「好色美容師」(昭和53/監督・脚本:中村幻児/主演:小川恵)が当たつたのを受け、本隊が二匹目の泥鰌を狙つた藤浦敦第五作。中幻の無印第一作も三番手に高鳥亜美が控へ、男優部も楠正道や野上正義、鯉のぼるが名前を連ねる布陣を窺ふに、その限りに於いて面白さう、どうにか何処か次元の狭間から発掘されないものか。
 フレームの中にゐる間も基本受動的で、結構ドラスティックに映画を支配しないビリング頭と、ポスターこそ仰々しくトメを飾る割に、大概退場したまゝの片桐夕子を尻目に。大好きな広子先生を腐れ借金取りの毒牙から救ひ出すべく、正しく名は体を表す巨マラと、若さを武器に奔走する真良夫が主人公。あと正直器量の宜しくはない二番手が、そんな真良夫に一応一途な想ひを焦がす。と、来た日には。東奔西走もしくは悪戦苦闘の進行と、連なる濡れ場濡れ場が綺麗な親和を果たす。如何にも量産型裸映画的な格好の物語、であつた筈なのに。基本ちぐはぐか、古臭い選曲は終始映画の腰を何気に折り続け、一旦目標金額を得るには得た対若菜真弓はまだしも、対ユリ子と、劣るとも勝らない対霧子。棚からラックが流星群の如く降り注ぐ、うつてつけの旨い話の底が何れも抜けてゐるのは一本調子のきらひも否み難い。そもそも、要は手練手管にオトされた広子が、三井との再婚に踏み切る。憐れ真良夫を奈落の底に叩き落す絶望展開が、実は高橋明が決して絡み―の技術―に長けてゐる訳でなく、藤浦敦にもその劣勢を掻い潜る手腕を求め得ず。絶妙に呑み込み辛いのが、裸映画ならなほさら、寧ろだからこその地味なアキレス腱。二番手で締める千恵にとつては処女喪失の最中に、へべれけな繋ぎで放り込む真良夫が見る広子の幻影は遣り口があまりにも難解で、企図を俄かには測りかねる。藤浦敦は、さういふ映画撮る御仁だつたかしらん。地下街に悄然と消える、真良夫の背中で大人しく畳んでしまへば、一種の定型が形にもなつたものを。吹つ切れ―させ―たつもりのラストが、却つてキレを欠く始末。


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