真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟れ頃教師 濡れすぎたパンティ」(1996『発情教師 すけべまるだし』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/音楽:レインボーサウンド/バイオリン:池山美果/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:江口和人・大浦有希子/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・高野ゆかり・渡辺幸次・森山龍二・中田新太郎・丘尚輝・沼田八郎・竹村祐佳)。出演者中、沼田八郎が―今回新版―ポスターでは何故か大岡尚一とかいふ名前に。
 高校のトイレで女教師が自慰に狂ふ、私立北村学園音楽教師の石嶺綾音(田口)には、若い男の体臭を嗅ぐと発情してしまふ、最早性癖も斜め上に通り越した特異体質があつた。手書きレベルの投げやりな新版タイトルが、主人公の底の抜けた設定を加速する、もしくは火に油を注ぐ。ひとまづスッキリした綾音に、生徒の岡田義徳(渡辺)が何事か相談を持ちかけるものの、用事があると綾音は無下に放課後の学校を後にする。綾音は自宅で、男子生徒(多分沼田八郎>・・・・飢餓海峡か?)に強姦され登校拒否の三枝静香(高野)に、ピアノの個人レッスンを授けてゐた。実はレズビアンの静香は綾音を求め、再び通学を始めることを条件に、綾音も教へ子に応へる。ある意味、何と穏やかな世界よ。
 義徳の抱へる悩みは、進路に関するものだつた。謎の遺影(誰のものかは不明)の夫とは死別後、スナックを経営しながら女手ひとつで息子を育てて来た母・公子(竹村)は、息子の医大進学を苛烈に切望してゐた。対して、時に金のために客に体を売ることもある母を嫌悪しないでもない義徳はバイオリンに強い興味を抱き、音大を志望する。丘尚輝は、公子を買ふ客・草野康太。ところで、連続する竹村祐佳二度の濡れ場の二つ目は、勉強の妨げにならぬやうにだとかいふ方便での、義徳の性処理であつたりもする。嗚呼、何と何と緩やかな世界よ。ひとまづ綾音宅でバイオリンのレッスンを受け始めた義徳に対し、色んな意味で道ならぬ嫉妬の炎を燃やす静香は気が気でない。
 森山龍二は、今でいふと「相棒」シリーズに於ける杉下右京のやうな造形の綾音夫・定規。他校数学教師である定規は書斎で寝起きする堅物ぶりを発揮する反面、夫婦生活に際しては時に明後日に弾けてみせる薮から棒なアクティビティーも見せる。ハンサムな宅八郎こと―何だそりや―中田新太郎は、第一印象としては嫌味でしかない有名バイオリニスト・清水義貴。
 静香のレイプ被害といふ、本来ならば重大事は清々しく何処吹く風と、物語は義徳の進路問題にいそいそと軸足を移す。それはそれとして思はぬ飛び道具も繰り出しての顛末の落とし処はホームドラマとしては意外と順当で、所詮は木に接いだ竹、あるいは蛇の足に過ぎぬにしても、綾音の不妊も絡めた石嶺夫妻の関係改善も添へられた幕引きは、一見綺麗な娯楽映画に錯覚してしまひかねなくもない。とはいふものの、そもそも、綾音が若い男の体臭を嗅ぐと云々とかいふ話は一体全体何処の忘却の彼方に消えたのだ、といふ腰骨も粉と砕ける巨大な疑問に一旦思ひ至るならば、イイ感じの、もといいい加減な大らかさがチャーミングな一作。妙に高い水準の劇伴として変に映画を支へる池山美果のバイオリンも、この際勿論重要であらうことはいふまでもない。
 オーラスをひとまづ締め括る綾音と定規の夫婦生活の直前、過剰―あるいは違法―サービスはもう行はないことにした公子の店には草野のほかに、新田栄の姿も見切れる、三人目の来店客までは不明。

 例によつて、今作は2003年に少なくとも既に一度、「人妻教師 濡れた放課後」といふ新題で新版公開済み。原題と前回新題と今回新題との比較でいふと、適当さがそれはそれとして実際の本篇にマッチした原題と今回新題に対して、前回新題は少々気取り過ぎであるやうにも思へる。


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