真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「白衣快感 おつぴろげご奉仕」(2009/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:中川大資/編集:有馬潜/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:かなと沙奈・山口真里・里見瑤子・なかみつせいじ・久保田泰也・天川真澄・牧村耕次)。
 看護学校を卒業後上京したてで瀬抜きの相川ナナ(かなと)は、兄・良平(天川)とその妻・ゆり(山口)宅に居候しながら、徒名は和坊こと辻和人(なかみつ)が院長を務める病院に勤めてゐる。開巻唯一の診察カットには、中川大資が患者役として登場。妄想癖のある和人は未だ独身で、さうなると当然の如くかなと沙奈の裸をイマジン処理しつつ、ナナもナナで、和人の玉の輿を狙はぬでもなかつた。オールドミスの看護師長・矢部彩乃(里見)にいびられながらも健気に働くナナではあつたが、家に帰れば夜の営みもままならぬと、ゆりは義妹を早く追ひ出せと良平の尻を叩く。入院患者・花村宗輔(牧村)の看護にはナナが安らぎも感じる一方、大蔵省―劇中台詞ママ―勤務のエリート官僚・国重一太(久保田)が、左手首を骨折しただけで入院して来る。ナナは最初は気付かなかつたが、一太はナナの秘められた過去を知る人物であつた。だから関根和美に一つ問ひたいのは、大蔵省は翌年の中央省庁再編に伴ひ、2000年末を以て解体されてゐるのだが、ところで劇中時制は何時の出来事なのか。
 感動的に中身の薄い有体にいへばグダグダの物語の割には、不思議と寝落とされることもなく何故だか何気なく観了してしまつた一作。ナナがひた隠す秘密といふのが、単に元ヤンであつたといふことでしかない清々しい他愛なさの以前に、幾ら場数も限られるとはいへ、山口真里と里見瑤子の濡れ場の果てしない果てしない長さも、全体的に色濃い漫然さに強く作用する。秘密の核心といふ主力兵器が甚だ脆弱なだけに、ナナがスケ番であつた高校時代を和人に隠さうとする本筋よりは、早く出て行かせろと角を出すゆりと妹との板挟みになり狼狽するばかりの良平の兄夫婦と、ナナとが日常的にやり合ふ枝葉の方が、余程活き活きとし惹きつけて観させる。結局さしたる攻防も設けられぬままに、一太はコロッと何時の間にか彩乃に陥落。若気の至りが発覚したナナは腹を括り、退職願を提出するとメリケンサック・金髪ウィッグも実装した女番長ルックに武装した上で、「てめえら、みんなまとめてシメてやる!」とエモーションを藪から棒に暴発させ出撃するシークエンスには、関根和美は一体どうしたのかと腹と同時に頭も抱へさせられたが、最終的な一件落着への着地具合には、地味な手堅さが垣間見えもする。本筋がシャンとせず仕舞ひの内に始終ブレ倒した今作ではあるが、強ひてよくいへば、良くも悪くも掴み処のない一篇である。掴み処がないことが、どう転べば良くなるのかはよく判らないが。ともあれ、何となく楽しむ何といふこともない映画、といふカテゴリーの成立をもしも認めるならば、これはこれで、それでも意外と何ともなくもない完成度を誇るといへるのかも知れない。

 関根和美ファンとして特に注目したのは、和人のイイ歳もして『BOYS BE』な妄想癖設定を、微睡んでばかりの花村の白日夢が加速する、虚実の別が判然としなくなる瞬間。殊に和人がナナに求婚するしないの件には、ネイティブなメリハリの欠如を逆手に取つた、妄想と現実との境界の融解がもしやかなり踏み込んだレベルで追求されてゐるのではなからうかと刮目しかけたが、勿論それは私の考へ過ぎで、別に意識的なものでもなかつたやうだ。


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