痴女女医さん 男の壷飼育

　「痴女女医さん　男の壷飼育」（2006/製作：サカエ企画/提供：Xces Film/監督：新田栄/脚本：岡輝男/企画：稲山悌二/撮影：千葉幸男/照明：高原賢一/編集：酒井正次/助監督：に関しては後述/監督助手：北村隆/音楽：レインボーサウンド/選曲効果：梅沢身知子/出演：遠峯江里子・水原香菜恵・華沢レモン・なかみつせいじ・柳東史・熊谷孝文・丘尚輝・残る一名に関しても後述）。出演者としてポスターには名前があるもののクレジットには出て来ない、“山口健三”とは一体何者？
　早乙女凛子（遠峯）は内科医を開業しながら、大学病院に呼ばれ難しい手術―自分でさう言ふ―を執刀することもある。「人は私のことを、名医と呼ぶ」、ださうだ。最短距離を突き抜けた、最早メチャクチャなアタシ自慢のモノローグから映画は始まる。遠峯江里子といふ女優さんは、抜群のプロポーション、いかつい顔立ち、大仰な台詞回し。といふ三拍子を揃へてみると、ちやうど池田こずえの姉貴分に相当するかのやうな女優さんである、それで果たして伝はるのか。台詞を喋らせると最後まで違和感が拭ひ切れないが、ビジュアル的には全く申し分ないだけでも、新田栄映画のヒロインにしては超上出来、桃色の神の祝福に感謝すべきである、あつたのだが。
　難手術を終へると何時も、凛子は無性に男が欲しくなつた。白衣を脱ぎスカート丈の短い黒のタイト・スーツに着替へ、痴女として街へ男を漁りに行く。正直誰でもいい男は、自分と釣り合ひが取れてゐなければ取れてゐない程なほいい、と凛子は宅配便の配送員・山本正利（熊谷）に目をつける。差別意識の露骨な脚本に唖然とする、岡輝男は、ピンクの客に喧嘩でも売つてゐるのか？
　東洋医学にも精通する凛子は、エレベーターの中で山本の掌や背中の腰の辺りにある―らしい―ツボを刺激し欲情させ、ホテルにたらし込む。以後も尿道付近の新たな性感帯“Uスポット”だとか、PC筋（正式名：ピューボコクシギウス筋、判り易くいふとチンコをピクンピクンさせる筋肉）を鍛へて射精を自在にコントロールする、だなどと聞いたこともない専門用語が飛び交ふエロ医療が展開される。一応少し調べてみたところ、ちやんと実在する用語のやうであるが。
　ところで、ラブホテルでの凛子と山本との一度目の濡れ場に際し、一箇所だけカメラが訳の判らない動き方をする。結合部に向かつてグーッと一息にカメラが寄つて行くのではなく、グッ、グッ、グと細かくジグザグを描きながらカメラが近づく、やうな今時のズームを見せる。藪から棒に千葉幸男はどうかしたのか、一体何がしたかつたのか。結局カメラが行き着く先が結合部ドンピシャであるならばまだしも、所詮は日本の法律の許す範囲内では熊谷孝文の左太股アップにしか過ぎなかつたりする訳で、要は全く意味の無いことをやつてゐるやうにしか見えない。
　柳東史は、凛子のクリニックの入院患者・大野弘樹。入院とはいへ、こちらは監禁されてゐるやうにしか見えないが。妻・麻子（水原）の希望により検査入院と偽り壷飼育部屋に監禁され、一応は有効な凛子の施術の結果、麻子の希望通りのセックスが出来るやうな絶倫と淫技とを身に着けさせられる。なかみつせいじは、パソコン通信で凛子の治療を受ける矢作直也。歳の離れた彼女の前原玲奈（華沢）を悦ばせる為に、射精を自在にコントロールする方法を凛子に相談する。矢作が凛子の指示通りにPC筋を鍛へる件は・・・別に全裸になる必要はないのでは？
　凛子の下に、再び山本が姿を現す。凛子にツボを刺激されて以来、勃起し放しになつてしまつた―それは苦しからう・・・とめどなく流れよ、男達のシ戻―山本は、復讐の為にやつて来たのだ。凛子を暴力的に犯すも、最終的には凛子の壷飼育で人間バター犬にさせられる。もうどうでもいい映画はそこで纏めてしまつても良かつたやうな気がするが、そこから更に、新たに男を漁りに出た凛子が速水努（丘）を痴女る一幕で映画は終る。締めの一戦は全くの蛇足にしか見えないのだが、ひよつとして岡輝男が遠峯江里子と絡みたかつただけ？心情的には理解出来ぬでもないが、同時に腹も立つ。
　要は、例によつて全うな映画的完成度からは全く無縁な新田栄仕事である。主演の女が芝居はさつぱりでも顔と体は申し分ないだけに、裸映画としてキチンと機能して呉れさへすればひとまづ文句はなかつたのだが。遠峯江里子の濡れ場の、相手役メインとなる熊谷孝文が頂けない。（ピンクでの）出演本数が決して多くはないだけに馴染みのある顔ではなかつたのだが、この人こんなに品のない役者だつたかな？まるでAVから出て来たかのやうな下品な顔立ちに、まるでAVから出て来たかのやうな下品な体つき。AVから出て来たかのやうな下品な芝居に、AVから出て来たかのやうな下品な腰使ひ。興が殺がれることこの上ない、致命傷たる減点材料である。
　も、そんな熊谷孝文もさて措き更なる問題は。都合二回登場する、凛子から普通に医院で診察を受ける患者役。顔は殆ど映されずに台詞も返事の一言二言くらゐしか無いのだが、その患者要員の演者の名前は、クレジットからは“城＜定＞秀夫”・・・・
　バカヤロー！何やつてんだ城定！こんなところでそんなことやつてる暇があるんなら、ピンク撮れよ、ピンク！　　　＞即ち、勿論助監督も城定秀夫
　すつかり底も割れてゐる、新田栄の映画で助監督をしたり出演してゐるからといつて怒つてゐる訳ではない。油を売つてゐる隙に、ピンクが丸ごと終つてしまふかも知れないのだ。閉館を控へた福岡オークラ劇場に、関係者から寄せられたコメントの数々が貼られてゐたことがあつた。池島ゆたかのコメントからも国沢実のコメントからも、小川欽也からすらも衝撃と同時に間近にひしひしと迫つた危機とが感じられた。城定秀夫には、健全な危機意識を持つて頂きたい。

　結局、謎の名前山口健三とは城＜定＞秀夫のことだつたのか？後もう一名、凛子がエレベータの中で山本を誘惑するシーンに、首から上が殆どマトモに映りさへしない他の乗客役で、もう一名見切れもするのだが。