真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「四十路後家 情交おもらし痴態」(1993『未亡人ONANIE バイブ篇』の2006年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:高島章/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:浜村信二/撮影助手:新川四郎/照明助手:大平隆/音楽:レインボー・サウンド/録音:銀座サウンド/効果:時田グループ/現像:東映化学/スチール:田中スタジオ/出演:しのざき・さとみ、麻倉美樹、朝比奈セーラ《SMの女王》、芳田正浩、石神一)。出演者中しのざき・さとみが、ポスターでは普通にしのざきさとみ、朝比奈セーラの“SMの女王”括弧特記は本篇クレジットのみ。企画の伊能竜は、向井寛の変名。
 「あたしみたいなイイ女残して死んぢやふなんて・・・・」とか、開口一番主演女優が自ら今作が後家ものである旨を宣言した上での自慰にて開巻。最短距離の更に内側を抉らんばかりの、煌く判り易さが実に清々しい。君恵(しのざき)の夫・浩一(石神)は交通事故で急死、四十九日も未だ迎へてはゐなかつた。こゝで、新題に関して立ち止まると。現に四十代にはとても見えないしのざき・さとみが、公開当時三十歳。“後家”は兎も角“四十路”なる用語なり発想は、一体何処の明後日だか一昨日から降つて来たのか。よもや四十路を謳つた方が、マーケティング上有効だとでもいふ訳ではあるまいな。閑話、休題。いよいよ君恵が一人で佳境に達しつつあつたところに妹の尚子(麻倉)が、近々の結婚も見据ゑた恋人の友之(芳田)と訪ねて来る。君恵が大絶賛使用中のバイブは慌ててソファーのクッション下に隠し、何食はぬ顔で二人を出迎へたものの、友之は秘かに、ホカホカに濡れそぼる淫具の存在に気づいてゐた。その夜の、尚子と友之の目前婚前交渉も噛ませた上で、翌日友之は再度今度は一人で義姉(予)宅を訪れる。バイブの件を指摘し事に及んだ友之は、君恵が放して呉れない方便もあり何と豪快にもそのまゝ一泊。その中で、事故死の更に一年前より、君恵が不能の浩一とはセックスレスの状態にあつた事実が明らかとなる。さうかうしてゐると、悪びれるでなく友之生前の浮気相手を公言する千秋(朝比奈)が君恵を訪問。千秋によると浩一はマゾヒストで、君恵とのレスの原因も、その性癖に起因するとのこと。と、ころで。別の意味で綺麗な三日月顔に鷲鼻を載せた朝比奈セーラは、昨今アノニマスの宣材写真―違ふだろ―で人の目に触れる機会も多からう、ガイ・フォークス・マスクを髣髴とさせる。但しボディ・ラインは、同時に正方向に綺麗。千秋が、SMの女王であるのは映画を観てゐると正しく一目瞭然なので、出演者クレジットに際してわざわざ“(SMの女王)”と特記するとなると、実際に何処かの店の女王様なのであらうか。兎も角、それはそれとして、そんなことを四十九日前の未亡人に一々伝へに来るのも如何なる了見か、といふ次第でしかないといへば、逃げ場なく実も蓋もない。呼ばれもしないのに薮蛇に光臨した千秋女王様ではあれ、千秋には千秋なりの、君恵に対する真心があつての行動だつた。仕方のない亭主への思慕など何時までも引き摺らずに、貴女は新しい幸せをお探しなさいといふのである。玄関口で濡れ場がてらエピソードを告白するだけすると、「旦那のことなんか忘れて、好きにすればつてことよ」、「ぢやね!」と劇中唯一のハクい名台詞を残し、千秋はさつさと退場する。結果論としていへば、三番手濡れ場要員が最も充実したドラマを担当する、といふ変則的な離れ業をやつてのけてゐる。
 感動的にテーマもストーリーも存在しない、寧ろそれらを拒否した、特異なコンセプトの芸術映画とでも一歩間違へると勘違ひしかねない、然れども純然たるルーチン作。結局以降が如何に転がるのかといふと、結婚後の新居を用意してゐない妹夫婦が、部屋も余る君恵の家に転がり込む格好に。尚子と友之の新婚夫婦生活にアテられながら、扇情的な紫でシースルーのネグリジェを着た君恵の、オーラス・バイブONANIEで堂々と映画を走り抜けてみせる。物語らしい物語が遂に殆ど全く起動しないまゝに、ひたすらな女の裸しか見当たらない一作ではあるが、意外と全篇を通したテンポは悪くはないゆゑ、何処で寝落ちたとてさして困りもしまいが何となく一息に観させ、劇伴の尺を超絶に合はせたフィニッシュの据わり心地の良さは、案外完璧。後には何にも残さない、開き直つたかのやうに爆裂するお話の薄ささへさて措けば、地味な手堅さも感じさせる。加へて、二番手三番手は些かどころではなく弱い反面、張りを残すしのざき・さとみの肢体には、それだけで銀幕を支へ得る決定力が漲る。それだけでといふが、正しくそれしか今作にはないのだけれど。ある意味よくいへば潔いといへなくもない、裸映画・オブ・裸映画。ただ繰り返して、ガイ・フォークス顔の女王様が、突発的に劇映画を輝かせた功績には、改めて触れておきたい。


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