真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「いんらん医院 狂つた夜の営み」(1994『官能病院 性感帯診察』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:夏季忍/音楽:レインボーサウンド/撮影助手:島内誠/照明助手:中田芳夫/監督助手:渡部五郎/出演:田口あゆみ・仲山みゆき・深乃麻衣・清水大敬・山科薫・神坂広志・久須美欽一・丘尚輝)。助監督の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 夜の診察室、産婦人科医の小出辰三(清水)と看護婦の桃子(多分仲山みゆき)が、子作り気運満々で一戦交へる。後に紐解かれる設定では小出には妻がをり、更に桃子はレズビアンの筈なのに。開巻を飾る濡れ場として勢ひはありつつ、いきなり新題に違はず夜の営みが狂つてゐる。タイトル・インから患者もゐないので、小出は河原にて時間を潰す。そこに通りがかつた酒屋の御用聞き(丘)が、暫く家を空けてゐた小出の妻が戻つて来たと伝へる。半信半疑の小出の下へ、桃子も急な妻の帰宅を報せに慌てて走つて来る。酒屋の自転車を奪ひ小出が急いで帰宅すると、妻・卯月(田口)は大きなお腹を抱へてゐた。何故か喜ぶ小出は、卯月の後方に申し訳なささうに立つ男(久須美)に気づく。卯月のお腹の子の父親は自分ではなくその男であつたのかと愕然とする小出に対し、卯月は膨らんだ自らの腹部に刃物を振りかざす・・・・!振りかざしたところで子供(子役不明)の風船が割れ、小出は午睡から覚める。久須美欽一が登場するのは、この件のワン・カットのみ。
 最初に相関関係が十全に整理されずに、濡れ場要員の出番も挿みながら徐々に小出しにされるため、中身に乏しい割には終盤に至るまで不用意に判りにくいが、小出は年の離れた看護婦の卯月と結婚する。子宝願望全開で三日と開けずに励むものの、一向に恵まれない。やがてさういふ生活に疲れを感じ始めた卯月は、定期的に長期間家を空け、放浪するやうになる。さういふ卯月が、夢オチをひとつ挿んだのち実際に帰つて来た、さういふ物語である。とはいへそこまでの、あるいはそれだけの説明に尺の大半を費やし、かといつて派手なツッコミ処にも事欠く始末につき、そこから先が特にどうといふ訳でもない。強ひて挙げるならば、田口あゆみと清水大敬が実際のところ然程年の差カップルにも見えない。その辺りがメイン・テーマと思しき小出の卯月への、卯月の側からすれば都合のいゝことこの上ない夫婦愛がどうにも説得力に欠ける所以か。田口あゆみはひとまづさて措くにせよ、残りの二人が桃色の破壊力に不足する点も如何ともし難い。たつた一昔強前の映画であるだけの筈なのに、妙に気前よく古びた映画の肌合ひを味はふ以外には、取りつく島も特にないといつてしまつては正しく実も蓋もない新版公開である。
 
 残り二人の内もう一人、深乃麻衣は小出の患者・チハル、多分。正直、仲山みゆきと深乃麻衣。全く知らないこの時代の女優が二人ゐては、手も足も出しやうがない。チハルは死んだ父親が小出と懇意であつた経緯で小出の医院に通つてゐるものであるが、不倫相手(山科)との間に出来た子を度々中絶し、小出を悲しませる。実際に帰つて来た卯月は、うつすらとながら妊娠の兆候を見せてゐた。神坂広志は旅先で卯月と関係を持ち、卯月を追ひ上京して来た、要はお腹の子の父親かも知れない保坂か穂坂。男が堂々と巨大なアラレちやんメガネをかけてゐる壮絶なファッションには戦慄を禁じ得ないが、1994年(平成六年)時点では未だそのやうな蛮行が許されたのであらうか。
 締めの濡れ場の最中、何故だか小出がおもむろにカメラの方を向く。何事かと思ふと小出は、「こゝでは皆んなが見てるからほかでヤらうね」、「ぢや、失礼」と本当に幕を引くやうに終幕する。清水大敬―と新田栄―にしては、なかなかスマートに映画を畳んでみせた点には好感が持てた。


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