真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「生撮り 一度は見たい、分娩室」(1992『生撮り 産婦人科診察室2』の2006年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:亀井よし子/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:伊藤肇/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:高田宝重/撮影助手:片山浩/照明助手:石井克彦/出演:藤本亜子・夏みかん・藤沢麻理亜・冴樹里奈・野澤明宏・久須美欽一)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。監督助手クレジットは落としたのではなく初めからなし。
 今回は―未だ?―小出ではなく、津山産婦人科医院。勤務一年の小山リエ(藤本)と先輩の篠原清美(藤沢)、二人の看護婦が忙しく立ち回る中院長の津山健三(久須美)が、子宮後屈で不妊を相談する大沢千恵子(冴樹)を診察する。とはいへ、娯楽映画としての気軽さを考慮してかあるいは直截に単なる無頓着か、妊娠を切望する素振りを見せはしながらも、千恵子が深刻さを窺はせることは別にない。津山の明後日に巧み過ぎる触診は千恵子をよがり泣かせつつ、事後もとい診察後リエと清美は、駅前に新しく山田病院が開業してからの、患者数減少を心配してみたりもする。そんな津山医院を前に、一組の男女が怪しげに謀議を交す。その内女の方の本田たま美(夏)が、生理周期の不順を訴へ来院する。すると、生理不順の原因は子宮の未成熟だとかいふ診断を下した津山は、「もつとSEXして、子宮を発達させないと治らないなあ」だの、「これは女性ホルモンの不足だ」だのと称しながら、二人の看護婦の前、堂々と診察台―実は今作中、診察室と診察台は出て来るものの、狭義の分娩室を見せては呉れない、酷いよエクセス―の上でたま美を抱く。そもそも、ここに至る以前に、綺麗に関係の詳細はスッ飛ばした清々しさで、津山はリエに手をつけてゐたりもするのだが。後日、電話で呼び出したリエに接触したたま美は、起爆装置が露見した判り易い好条件での、リエの南西大学病院への転職を持ちかける。すつかりその気になり、洋服を買ひに出かける為にリエは休み、津山も会合で外出した清美一人きりの津山医院を、今度はたま美の相方、即ち胡散臭い男女の男の方・佐々木裕介(野澤)が訪れる。当然の如く、一応休診状態にはあるのだが。とかく強ひてよくいふならば、なだらかな映画ではある。佐々木は南西大学病院の医師を騙ると、リエを篭絡したたま美と同様に、清美を口説く。要はたま美と佐々木は人を動かして利益を得るいはゆるヘッドハンターのコンビで、二人は今回、金になる看護婦に狙ひを定めたものだつた。
 人買ひあるいは人売りの来襲に揺れる、個人医院を舞台とした微笑ましい下町一騒動。といふ、一応は起承転結を貫く物語が、辛うじてなくもない。尤も、展開を繋ぐ局面が合間合間の僅かな隙間に、適当極まりなく流し済まされてしまふ残りの尺を、延々底の抜けた濡れ場濡れ場がひたすらに埋め尽くす。一言で片付けるならば、全うな劇映画を求める観点からは、明々後日から一昨日へと転がり過ぎて行くやうな一作である。女の裸を銀幕に載せる。ひとまづその主眼だけは頑として果たしてゐはするだけに、近年何処そこの国映が仕方なく垂れ流す―過去形にするべきか―作家主義だか一般映画志向だか知つたことではないが、生煮えるばかりで箸にも棒にもかゝらない代物よりはマシともいへ、要はその手の代物よりはマシとでもしかいひやうのない、別の意味で綺麗なルーチンワークである。ここでの“別の意味”には、何故か通常33.3%増―末尾にて後述する、前作の好評を反映してか?―の、四人並んだ全員脱ぐ女優陣の中に、決定力溢れる魅力を誇るポイント・ゲッターも居ない反面、観る者の心に傷を残すほどのお化けも居ないといふラックまで含まれる。どうして、木戸銭を落としてさういふ余計な心配までしなくてはならないのか。とまれ、劇中―劇といへるほどの劇でもないのだが―正しく乱れ撃たれる絡みの内、唯一関係性として無理なく呑み込めるものが、仕事上だけではなく男と女としてもペアを組む、たま美と佐々木の一戦といふいはば側面にしか存在しないなどといふ大らかなゴキゲンさは、幾ら新田栄とはいへ些かあんまりであらう。

 あれこれ調べてゐると、実はリエと津山は、1997年に「痴漢婦人科 前から後ろから」とも改題された、同年五作前のシリーズ前作(未見)に於いて既に目出度く結ばれてゐたらしい。さうはいはれても正直、それはこの期にはそんなこと知らねえよ(;´Д`)


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