真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟妻交尾 下心のある老人」(2006/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:小山悟/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:加山なつこ・山口玲子・華沢レモン・なかみつせいじ・丘尚輝・小林達雄)。
 判り易く金を持つてゐさうなお宅の寝室、先にベッドに入つた夫・落合良和(なかみつ)が、半身の体勢で雑誌なんか読んでゐる。そこに顔を出す、妻・広子(加山)は夫に対して、「明日は難しい手術があるのにいいんですか?」。裕福に見えたのは医者であつたからか、判り易い導入部としては全く過不足ない。普段あまりに暴力的に肩の力の抜け倒した映画ばかり撮つてゐるものだから、ついつい新田栄―は勿論、一応岡輝男も―が大の付くベテランであることなど忘れてしまふ。
 落合夫婦には未だ子供がなく、その為けふは都合の良い日―逆からいふと危険日―だといふことで、落合はわざわざ起きてゐた。前戯もそこそこに、落合はさつさと子作り目的だけのセックスを始める。未だ受け容れる準備の出来てゐない広子は拒みかけるが、落合は「体のことなら判つてゐる」と強引に事を進める。エッサカホイサカ腰を振る落合、まるで感じてもゐない広子は横を向き、モノローグ―医者である以上体のことは判つてゐても―「心のことは判つてゐない・・・」。・・・・・あれあれれ、今回エクセスが誇る最強コンビ誇れない最凶コンビは、珍しくヤル気なのか?
 場面変ると、オゲンキ生命保険三郷支店。支店長の奥寺紀夫(丘)と、外交員の水野洋子(山口)が開拓中の新規顧客について話をしてゐる。画面(ゑづら)が急に、何時ものサカエ映画じみて来る。資産家の独居老人・五十嵐大造(小林)は、新規顧客として頗る魅力的な対象で奥寺としては是が非とも落としたいところではあつたのだが、これまで担当してゐた洋子は、契約する気があるのかないのやらハッキリとせず、加へて自宅を訪問する毎の執拗なセクハラにすつかり閉口してしまつてゐた。洋子は自分はもう行かない、「あの人を行かせたらいいぢやないですか!」、といふ訳で、あの人こと広子登場、何てポップな映画なんだ。この、底の浅さとも錯覚しかねない清々しさが、実はそれはそれとして確かな技術に裏打ちされてもゐるであらうことを、我々は忘れるべきではないと思ふ。それは兎も角、何で医者の女房が保険の外交員なんてやつてゐるんだよ、といふ強い疑問に関しては、後にとりあへず採り上げられるので、ひとまづさて措く。あまり綺麗に回収されてあるとは必ずしもいひ難いが、基本プロットの齟齬をひとまづどうにかしようといふ意思が垣間見えるだけでも、岡輝男の仕事にしては上出来ではないか、褒めてゐるのか貶してゐるのだか我ながらよく判らないが。
 さういふ次第で、広子は五十嵐宅へ通ひ始める。心と体に隙間を抱へた医者夫人が、好色老人の邪欲の毒牙に咽び哭く。といふほどハードな映画ではないにせよ、熟妻=広子、下心のある老人=五十嵐、交尾といふのは開巻の、子作りしか頭にない夫との夫婦生活時の広子の独白「これぢや交尾ぢやない・・・」から。実は何気なく、公開タイトルも映画の内容に珍しく即してゐる。
 華沢レモンは、ある日広子が五十嵐宅を訪れたところ、五十嵐と碁を指し、た後にセックスする女子高生・関口あい。広子はあいを孫娘かと誤解するが、その実は、五十嵐が自宅に呼んだデリヘル嬢であつた。華沢レモンの―女子高―制服の似合ひぶりは、最早犯罪的ですらある。主演女優の加山なつこは、最も簡略な説明を試みるならば、ダウンタウンの浜ちやんのカミさんのやうな感じ。関西風でバタ臭く、美人といつてのけるには些か抵抗も感じぬではないが、中年太りとスレスレの境界で―アウト、といふ声に対しても否定しはしないが―ムチムチと肉感的な肢体とも相俟て、熟女ピンクの主演を張るだけには最低限事足りよう。久し振りに観たら何だか綺麗になつた気もする山口玲子―濡れ場の相手は奥寺―はいふまでもなく、さりげなく巨乳を三人並べた布陣は強い。
 実の息子夫婦(全く登場せず)とはすつかり疎遠な五十嵐と、夫との愛を欠いたセックスに悩む広子とをシンクロさせた脚本は、岡輝男の書いたものとは思へないほどに、実に当たり前の水準に過ぎなくとも、当たり前によく出来てゐる。ラストで心を入れ替へる、落合に訪れた契機も盤石。新田栄も、久し振りにマトモに書かれたホンに触れてか、どれだけ当たり前でしかなくとも、それでも当たり前に丁寧に撮つてゐる。繰り返すが、当たり前を当たり前のやうに撮る。一見伝はり辛いが、実は一番確かな技術が要求される。新田栄であるから、岡輝男であるからと喰はず嫌ひで済ますのは必ずしも妥当ではあるまい。それだけの輝かしくない前科が既にある、といはれてしまへば確かに全くその通りなので、最早全く言葉も失ふが。ともあれ、ひとまづ良作といへよう。

 尤も、ひとつ大きく残念なのが、五十嵐役の小林達雄。縄文考古学の第一人者と同姓同名でもあるが、こちらの方は元々は小劇団の役者さんで、因みにピンクでは2003年に杉浦昭嘉と国沢実監督作に出演がある。ニタニタと下卑た笑みを浮かべるばかりで、加速しなくともよい映画の安さに火に油を注ぐ。近年は体調不良らしい久須美欽一か、御存知名優・野上正義でもあつたならば、珍しくいい出来の―あるいは普通の出来の―映画が、更に輝いたやうにも悔やまれる。


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