真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「レズビアン独身寮 密室あり」(2008/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:亀井戸粋人/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:城定秀夫/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:山田案山子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:華沢レモン・平沢里菜子・合沢萌・津田篤・丘尚輝・しのざきさとみ)。
 大和女子大學撫子寮、歴代寮長から次代寮長に引き継がれるとの“儀式”が云々と講釈を垂れつつ、四年生で寮長の三田村静香(平沢)と寮母の青山佳子(しのざき)によるビアンな濡れ場。なかなかに、凄い組み合はせではある。開巻早々唸る、先制パンチ感は申し分ない。大ベテランしのざきさとみを相手に、半歩も引けを取らない鋭角の存在感は流石ではあるが、一体どうしたのか今作の平沢里菜子は首から上は変らない反面、下が元々のスレンダー以上に明らかに痩せ過ぎてゐる。一方、文学部一年生の滝川美咲(華沢)は、高校時代の先輩かつ同棲相手・中森健二(津田)の部屋で昼間から情事の真最中。そもそも、健二との同居が目的で進学先も選んだ美咲ではあつたが、枕の下から自分のものではないイヤリングを発見すると、女遊びの止まない彼氏に見切りとケジメをつけ、衝動的に部屋を飛び出す。さうはいふものの、先立つものもなく手近に撫子寮の門を叩いた美咲を、佳子は分厚いドッジファイルの寮規則と私物検査、兼派手な下着及びジョイトイの没収とで洗礼、閉口させる。アルバイトで金を作り次第こんなところからは出て行くと臍を曲げる美咲を、静香と三年生の小林沙織(合沢)が、ポップにお姉様然と迎へる。規則の厳しい寮の割には、乳の谷間も露な沙織の服装は、隙のないサービス・ショット。そんなこんなで美咲は撫子寮での新生活を、それなりに順調にスタートさせる。とはいへ、気に入つたらしき美咲に静香が距離を近めて行く様子に、情人を小娘に奪はれた格好の沙織は内心激しく面白くない。そんなある日、忘れたレポートを取りに戻つた美咲は、あらうことか、佳子が高杉文彦(丘)を撫子寮―いふまでもなく、大絶賛男子禁制である―に連れ込んでゐる現場に出くはす。佳子が高杉をネットの掲示板で釣つた方便が、“女子寮に住む”といふものであるといふのは爽やかに笑かせる。確かに、寮生といつてゐないのであれば、嘘ではない。脊髄反射で騒ぎたてようとする美咲を、静香が制する。代りにといつては何だが、寮母と寮長しか入れない屋根裏部屋へと、静香は美咲を誘(いざな)ふ。そこは膨大な没収物で溢れた、ある意味夢の小部屋であつた。その頃、普段は収納されてゐる隠し階段の下では、未だそこに入れて貰つたことはないと思しき沙織が、歯噛みしながら天井を見上げてゐた。
 住居を失つた主人公が転がり込んだ先は、愛憎渦巻く百合の園であつた。ひとまづは、さういふ趣向の物語ではあるのだが。よくよく考へてみるまでもなく、新田栄にたとへば耽美といつた要素なんぞ端から望むべくもなく、基本手堅く時折アグレッシブさを見せることもある千葉幸男のショットも、決して美しさを撃ち抜く種類のものでもない。詰まるところは、男女の絡みを単純に女同士のそれに置き換へただけの何時もの新田栄映画が、しかも津田篤の雑な再登板を機に後半がグズグズになつてすらしまふ、端的に斬つて捨てれば随分と漫然とした一作である。美咲を陥れるべく、沙織は撫子寮に健二を招聘する。美咲の部屋に男が居る状況が、まんまと佳子に発覚する羽目となるまではいいとして、そこからの健二の一戦は、通例の映画文法では御褒美よとでもいふ次第で相手は沙織となるのが、より自然ではあるまいか。挙句に、序盤に登場した小道具のイヤリングを、佳子の遺失物に回収までしてみせるのは、些か力技に過ぎよう。止めに、明後日にばかり転がるのが得意な展開が一昨日感を完成させるのが、わざわざ冒頭に於いて勿体つけて匂はされる、“儀式”とやらの正体が何故か終には明示されぬ点。オーラスに際してエンディング風に通り過ぎられる、静香が美咲の観音様に花を挿す件―しかもキネコ―を指すのか?と必ずしもある程度容易に酌めぬではないともいへ、主要な筈のモチーフの焦点をわざわざ暈すことの意味は、最大限によくいへば敷居の低い娯楽映画のアルチザン・新田栄にしては、全く以て解せぬことこの上だか下だかない。布陣としては役者が揃つてゐるだけに、却つて派手なツッコミ処にさへ欠く始末である。


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