真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セミドキュメント 離婚妻の性」(昭和61/製作:新映企画?/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:世良じゅん/企画:伊能竜/撮影:国立二郎/照明:秋山知夫/編集:酒井正次/助監督:佐藤俊キ/監督助手:勝山茂雄/撮影助手:福島佳樹/照明助手:須賀一夫/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/スチール:津田一郎/出演:鈴木美子・早乙女宏美・水野さおり・井上真愉見・久須美欽一・山本竜二・石部金吉・西本健吾・坂入正三)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。企画に伊能竜の名前があるといふことは、製作は新映企画ではないかと思はれつつ、勢作プロダクションがクレジットには明示されず。照明の秋山知夫といふのは、和夫の当方が仕出かした誤記ではない。助監督の佐藤俊キといふ頓珍漢な表記の所以は、キが七を三つ三角形に重ねた“喜”の略字。
 全篇を通して薮蛇に彩るといふか直截には時代を生温かく偲ばせる、テンポの速いシンセがフニャフニャ鳴る劇伴がミャーンと哭きタイトル・イン。幾らテーマに即してゐるとはいへ、クレジット中の画がそこら辺を歩いてゐるカップルを適当に抜いてゐるのが凄い。そんな次第で―どんなだ―久須美欽一のナレーション“現在、三分に一組のカップルが離婚するといはれてゐます”、中略して“今回は離婚して一人身となつた女性に、離婚の原因を追究して行きたいと思ひます”とかいふコンセプトを宣言した上で、久須美カウンセラーのカウンセリングルーム。最初の相談者は大きなサングラスで顔を隠した土田真弓二十九歳(鈴木)、夫・鉄雄(坂入)との離婚事由は、鉄雄が同居する真弓の妹・真理(水野)と仕出かした不貞。てことでドラマ性を極限まで排除した、姉に十分妹も十分費やす姉妹丼で二十分尺を喰ふつもりかと本気で心配させた二連戦が、真理戦は七分強に止(とど)まるものの―実質的には全然止まつてない―延々展開される。真弓が一旦捌け、久須美カウンセラーが一服吹かしてゐると竹田沙織二十三歳(早乙女)が呼び込みもされないのに鼻息荒く飛び込んで来る。沙織が離婚した原因は、テレビが壊れた為呼んだ村田電気の修理人(山本)からレイプされたにも関らず、直後に帰宅した夜勤明けの夫(後述)には男を連れ込んだと誤解されたといふ無体なもの。引き続き濡れ場を延々延々ひたすらに延々消化、話してる内に頭に来た沙織は入場時と同様、勝手に退場する。「然し仕事とはいへ、セックスの話ばかりでウンザリして来るなあ」と久須美カウンセラーが溜息、ちよつと待て、俺にも同調させて呉れ「然しピンク映画とはいへ、絡みばかりでウンザリして来るなあ」。「十人十色とはよくいつたもんで、色んな人が居るもんだ。次の方どうぞ」と山野ケイコ二十一歳(井上)が入室、ケイコの場合は原因はケイコ側にあり、夫(一切登場しない)には内緒の借金を抱へ、架空のゴルフ場会員権を売り捌く会社で日給一万円の電話番をしてゐたケイコは、社長の酒巻か坂巻か坂牧(石部)に日々手をつけられる。酒巻の変態的なセックスに燃えるケイコは、正常位一辺倒の夫との単調な夫婦生活には嫌気が差してしまつたのだつた。
 新田栄昭和61年全二十作中第十八作、jmdbに記載されるだけで東活十五本+新東宝二本+日本シネマ三本だなどといふ闇雲さが、もう無茶苦茶な世界だ。そして、わざわざDMM戦に際してまで随一の小屋の番組占拠率を誇る無官の帝王・新田栄を選んだのは、今作が同じくjmdbに記録の残る、坂入正三の最も古い出演作だからである、それがどうしたといふ疑問をお抱きになるのは御容赦願ひたい。外堀から攻めると、“セミドキュメント”なる今では耳慣れない用語は、要は当サイトがこれまでモキュモキュメンタリーと仮称して来た一群の作風に関する公式名称といつた寸法か。モキュメンタリーといふ言葉が未だ存在しない時代に案出されたものでもあり、中々以上に絶妙な造語であると改めて感心させられる。本丸に飛び込んでは既に答へも事実上提示したつもりではあるが、三篇が有機的に連ねられることもない本当に果てのない濡れ場の砂漠には、石部金吉=清水大敬が繰り出す粘着質のプレイを通して映える井上真愉見のオッパイで終盤持ち直さなくもないとはいへ、正直否応のない徒労感は禁じ得ない。こちらは話してる内に催して来たケイコ篇通過、すると久須美カウンセラーは「それにしても別れた妻達のその後はどうなつてゐることやら」、「それでは土田真弓の場合を見てみませう」。何時の間にか夜の店のママの座に納まつてゐた真弓と、店のボーイ・ナカちやん(西本)との一戦。また出し抜けな未来だと呆れかけるのは些か早計、六十分を二分二十五秒も超過しておいて、沙織とケイコ残り二人は綺麗に放置して済ますルーズな構成には、塞ぎ方を忘れた口を開けたものやら閉口したものやら戸惑ふばかり、腰骨も粉砕骨折必至の危険な一作である。

 そんな今作の明後日な見所は、後回しにした沙織の夜勤明けの夫。声は新田栄のアテレコなのだが、繰り返すとキは七を三つ三角形に重ねた“喜”の略字の、助監督の佐藤俊キ。佐藤俊喜と表記するとお気付き頂けたであらうか、西本健吾よりも余程男前な、何と若き日のサトウトシキその人である。


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