真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女将三十五才 染みだすシーツ」(2001『熟女温泉女将 うまのり』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:竹洞哲也/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:川名和宏/効果:中村半次郎/出演:仁科夕希・林由美香・佐倉萌・なかみつせいじ・水島栄一・入江浩治・丘尚輝・八戸清二・松任谷竜也)。出演者中、丘尚輝以降は本篇クレジットのみ。
 実名登場秩父の温泉旅館「一柳閣」、亡き夫から旅館を継いだ女将の宮坂双葉(仁科)が、再婚相手で支配人の勇(なかみつ)、仲居の竹下邦子(林)と切り盛りする。ある日双葉は土産物店を、これ見よがしに難しい顔で覗く水島栄一を見かける。後に一柳閣に現れた水島栄一は、辛口旅行ライターとして名を馳せる五味千万太(ごみ ちまた)であつた。五味に取り入り一柳閣を褒める記事を書いて貰はうと、双葉は明後日にハッスル。志を包んだり近隣を女将自らが案内するまではいいとして、ここは新田栄の温泉映画だぜといふ次第で、風呂に一緒に入るは部屋に戻つては野球拳から最終的には本番接待と、過剰な破廉恥サービスを展開する。ものの、一夜明けると五味を通した「紅葉の間」はもぬけの殻。そこに勇が、近隣に出没する詐欺師の手配写真が観光協会から送られて来たと、水島栄一が見たこともないくらゐ綺麗に出力されたカラーFAXを持つて飛び込んで来る、双葉はまんまと騙されたのだ。ところで双葉と偽五味の長瀬観光の件、荒川のライン下りを楽しむ二人をロングで押さへるショットでは、完全に一般の旅行客に埋没し、なかなか実際に仁科夕希と水島栄一が乗船してゐるのに気付けなかつた。といふか、カメラ自体からが迷つてゐないか?
 ほとぼりが冷める間もなく、一柳閣を次なる激震が襲ふ。何時もお願ひしてゐたコンパニオンの皆さんが、食中毒で全滅してしまつたといふのだ。さりとて予約客は入つてゐる、折悪しくフットワーク抜群の客も居ない。対偽五味戦も鑑みるに案外尻も軽いのか、双葉は仕方なく再び自ら出撃することを決意する一方、邦子は当然一旦は固辞する。ところが、実は双葉を蹴落とした上で勇と一緒になり一柳閣女将の座を狙ふ、といふ直截には非現実的とすら思へなくもない野望を抱く邦子も、勇の懇願を受け容れるといふ形で、丘尚輝と名義は不明だが新田栄、更にもう一名の助平客を迎へ撃つ。
 そんな一柳閣に、今度は佐倉萌が訪れる。遠藤いづみ(佐倉)は双葉を捕まへるなり女将の邦子の所在を尋ね、首を傾げさせる。その頓珍漢な遣り取りを物陰から見てゐた邦子は、頭を抱へる。いづみは邦子が東京で馘になつた会社の元同僚で、邦子はいづみに支配人と結婚し一柳閣の女将になつただなどと、仕方のない嘘をついてゐたのだ。入江浩治は、いづみはいづみで外資系の商社員と邦子に偽る、フリーターの彼氏・高橋猛。
 本職はストリッパーとの仁科夕希はそこそこ以上に美人ではあり、俄コンパニオンとして新田栄ともう一名(確か、『未亡人旅館 ~肉欲女体盛り~』での佐山初夫と同一人物なのだが)の前で踊つてみせるカットに於いては貫禄も見せつつ、いざお芝居の方はといへば、矢張りといふか何といふか何処まで行つても御愛嬌レベル。双葉に身の丈も弁へぬ敵意を勝手に燃やし、チープでもあつてもキュートな姦計を燃やす林由美香の小悪魔ぶりはエターナルだが、物語の方も「偽五味酒池肉林篇」、「スクランブル発進温泉芸者篇」、「いづみ急襲湯煙旅情篇」の、尺の配分もほぼ三等分な綺麗な三部構成を採つてゐるほかは、特筆すべき何物かが然程ある訳でもない。とはいへ、テンポラリー女将と並行して、矢張り緊急回避パニオンとして奮戦する姿をいづみに目撃されてしまつた邦子を、双葉が啖呵を切り擁護するいづみ篇のハイライトには、王道の人情映画への着地を志向した節が確かに窺へる。ひとまづ一柳閣が平安を取り戻したラストに、初めて双葉と勇の夫婦生活を漸く締めとして持つて来る構成も磐石。新田栄&岡輝男コンビの仕事にしては、まあまあ良心的な部類にも入るのではなからうか。いよいよエンド・マークが入るオーラスのカットに至つて、ドラスティックに画面のルックが変つてしまふ無頓着さは相変らずだが。

 然し仕方のない繰言をいふやうだが、そんなのんべんだらりとした新田温泉映画も、今となつては最早新しく撮られることもあるまいと思へば、何故だか急に、訳も判らないほどに愛ほしい。そんな風であつたからこその、現況といへるのかも知れないが。

 以下は再見に際しての付記< 助平客要員は新田栄・丘尚輝(=岡輝男)・竹洞哲也の三名。恐らく青森出身の竹洞哲也の変名が八戸清二で、新田栄が松任谷竜也か


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