真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「和服のコンパニオン 極上昇天」(1999『和風コンパニオン 絶頂露天風呂』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/メーク:桜春美/音楽:レインボー・サウンド/助監督:竹洞哲也/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:ホテル一條《伊豆長岡温泉》/出演:柿沼ゆう子・林由美香・篠原さゆり・久須美欽一・杉本まこと・隆西凌・尾崎和宏・丘尚輝・青森哲也)。脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。出演者中、岡輝男の別名の丘尚輝と竹洞哲也の変名の青森哲也は、本篇クレジットのみ。
 東京でのOL勤めを何がどうといふこともなく不意に辞めた原田梨里子(柿沼)は、自分探しとやらの旅に出る。ここで島本和彦先生がマンガのキャラクターに吐かせた名言を引かせて頂くならば、「自分探しだと!?お前はそこにゐるだらうが!」(原文は珍かな)と、いふところになるのであらうが。話を戻して伊豆の温泉地を訪れた梨里子は、軽く神社にでも参拝がてら、森の中で歳のつり合はない男女が激しい野外プレイに燃える光景を目撃する。驚きながらもケロッと割り切り他人の痴態を楽しんだ梨里子ではあつたが、予約を取つてゐた宿に向かつたところ、改めて目を丸くする。先般の青姦カップルが、実名登場長岡温泉ホテル一條の番頭・上竹仙三(久須美)と、仲居の川島佳江(林)として梨里子を出迎へたのだ。一方、一條宿泊客の村井(杉本)が、仙三に若いコンパニオンを寄こすやう求める。ところが、若い娘は皆東京に出て行つてしまひ、町にコンパニオンは年増しか残つてゐなかつた。考へあぐねた仙三は、当然固辞する佳江を無理矢理急造コンパニオンに仕立てると、村井の部屋に突入させる。何気にその模様を梨里子が再び覗きつつ、淫具も大量に持参し浴衣の下は自縛済みのマゾ男などといふ、厄介客極まりない村井の相手を案外佳江は好調にこなしてみせる。それでゐて翌日になると、手の平を返して音を上げた佳江は、父親が用意した縁談もあると一條を出て行く。再び、更に深刻に頭を抱へる仙三に、実は好きな口ゆゑ梨里子は自らがコンパニオンを務めると立候補する。棚から牡丹餅とはこのことである、何といふ軽やかさよ。
 登場順に丘尚輝・青森哲也と、新田栄をも加はつた脚本家×助監督×監督などといふある意味凄い面子のトリオが、梨里子の正しく酒池肉林サービスにポップに驚喜する助平客三人組。結構場数を踏んでゐるのもあつてか、新田栄といふ人は案外ノリがいい。買ひ物帰りの梨里子に目を留め一條を訪ねる隆西凌(現:稲葉凌一)は、大手化粧品会社のCMモデルを探してゐる、とかいふ触れ込みの広告代理店電ならぬ「雷通」の宣伝マン・水木淳。林由美香と妙な歩調を合はせ髪型の古臭さを爆裂させる篠原さゆりは、美容師になると東京に出たきりの仙三の娘・琴美。憎たらしいことこの上ない尾崎和宏は、田舎娘の純情を踏み躙り、体と金とを奪つた都会のジゴロ・健二。
 現実的に考へてみるならば異常にフットワークの軽い、否軽すぎる温泉旅館を訪れた一人客の女が、窮地を見かねてといふ正しく方便で俄コンパニオンとして奮闘する。時は流れ、七年後には加藤義一が岡輝男とのコンビで「混浴温泉 湯けむりで艶あそび」(主演:上原空)として果たした結実と、要はほぼ全く同じプロットである。のはさて措き、恐らくは誰もいはないであらう与太を、なほのこと全力を込めて吹くが、新田温泉映画の一つの完成形。旨い話をちらつかせ、人の好い主人公達を騙す狡猾な詐欺師。悪い男に裏切られ、傷心だけ抱へ半ば捨てた筈の故郷に戻つて来る家族。人情映画のクリシェのほかには、底の抜けた男達の好色とそれに朗々と応へる女達のファンタな股の緩さ以外、展開の手数の中には感動的に何も存在せず、のんべんだらりとしかしてゐない、怠惰な湯煙艶笑譚の一言で片づけて済ませば逃げ場なくそこで話は終り、実も蓋も初めからなくなるにさうゐない。然しそこには、決して新田栄の長い長いキャリアは伊達では矢張りないのだと思はせるだけの手堅さと、何よりオーソドックスな娯楽映画としての、穏やかな温もりとが感じられる。それを微温湯に過ぎぬと斥けるといふのであれば最早返す言葉の欠片も持ち合はせないが、ほどほどの加減の湯に、のんびりとくつろぎながらマッタリ浸かる。さういふテンションの映画体験も、時には一興でなからうか。とりたてて美人といふ訳では別にないものの、思ひのほか主演女優として一篇の映画を支へ得る柿沼ゆう子の生命力溢れる器量も、地味ながら逞しく作用する。一見何もないやうでゐて、さうでもない豊かさを隠し持つ、やうな気もする一作である。

 何にせよ、改めて重ねた筆を滑らせるが、ロマンポルノだ国映だ。古くは若松孝二だリアルタイムでは今作の助監督も務める竹洞哲也だetc etc・・・・単館で特集上映の組まれるやうな代物は、放つておいたとてシネフィルでも観るのだ。無論、ピンクの小屋にかゝつてあれば観ない訳がないが。新田栄や関根和美の不毛な荒野を苛烈に潜り抜け、その中から僅かな果実を拾ひ集めてこそのピンクスであると、当サイトは頑迷に信ずる。


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