真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「むちむちネオン街 私たべごろ」(昭和54/製作:日活株式会社/監督:中川好久/脚本:大工原正泰/プロデューサー:細越省吾/撮影:森勝/照明:木村誠作/録音:高橋三郎/美術:菊川芳江/編集:井上治/音楽:萩原秀樹/助監督:黒沢直輔/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:田中雅夫/出演:三崎奈美・志麻いづみ・山口美也子・林ゆたか・岡本麗・中野リエ・橘雪子・根岸一正・大矢甫・粟津號・深見博・浅見小四郎・森谷和美・宮崎チカ子・山本夕子・三谷義博・小宮山玉樹・山西拓人・庄司三郎・影山英俊/振付:樋口四郎)。出演者中、粟津號と庄司三郎は本篇クレジットのみ。二人とも寧ろ浅見小四郎辺りより、全然小さな役でもないのに。あとポスターでは、監督の中川好久に括弧第一回監督作品。クレジットがスッ飛ばす、配給は実質“提供:Xces Film”。
 上野駅前を一拍挿んで、次の御徒町駅北口。実はこゝで既に485系のつばさ―かやまびこ―が通過する線路脇、アメ横のアーチ看板から引くカメラが裏側に回るのを待ち、キャバレー「ワイキキ」のネオンサインが灯る。東京音頭がズンチャカ盛大に流れ始める中、直角に近い仰角で火蓋を切るホステスの宮子(山口)以下、尻を捲つてみせるモンロー(中野)と、下着姿の姫子(宮崎)。店長で黒服の本間章吉(小宮山)に、偶さかものもらひでも出来てゐたのか、左目に眼帯をあてたしのぶ(森谷)。番頭格のチョビ髭・後藤(深見)やみゆき(山本)らが踊り狂ひ、さゆり(橘)は佐野(影山)を敢然とヌキにかゝる、賑々しい通り越し騒々しいゴーゴータイム。ノリが悪いもしくは、単なるうはの空。一人ぼんやりしてゐるナナ(三崎)に、柄から悪ければ性質も悪い貝村(庄司)が絡む。傍若無人な貝村のボディタッチを拒んだところ、派手に突き飛ばされたナナの大股開きにタイトル・イン。仲のいゝナナの危機に介入した、宮子も吹つ飛ばされクレジット起動。以降、大乱闘の合間合間に文字列を滑り込ませる、小気味いゝタイトルバック。何か飛んで来たナナの豆鉄砲を喰らつたやうな顔に、被さる中川好久のクレジットは無特記。
 当然出禁になつたのか、俺達のサブが潔く一幕・アンド・アウェイで駆け抜ける一方、さゆりと親密な関係を継続する佐野以外に、水木京一や賀川修嗣もワイキキ店内にほゞ常駐する配役残り。まるでオッパイみたいに二基のガスタンクが窓に映り込む、宮子が暮らす安アパート。多分三谷義博が、お隣の三浪生・キタニ君、志望は東大の文一。後述する大矢甫と、女優部2トップの介錯役にしては、明らかな非力ぶりが映画の見栄えを不用意に下げてゐる風にも思へる、根岸一正はナナが爛れたか拗れた同棲生活を送る義兄の花井敏夫。岡本麗がヤサに飛び込んで来ては、腐れ配偶者よりも実妹を一方的に責める姉のはるみ。泥酔したナナが、戯れに脱ぎ散らかす底の抜けた夜。最初モンローが接客してゐた林ゆたかは、ナナに目をつける如何にも一癖ありさうな色男・高木、それとも直截にスケコマシ。大した身銭も持たず、高級店であるワイキキの敷居を跨いだ大矢甫は、かつて同じ会社に勤めてゐた、宮子の昔カレ・玉野光夫。会社は倒産、玉野は別の女と結婚。根岸一正と大矢甫を凄まじく適当に譬へるならば、作家ないし精神性をスポイルした押井守と、眉毛の立派な国沢実。消去法で恐らく山西拓人が、乳飲み子を背負ひ毎晩店の表でさゆりを待つ、夫の前川。露骨に煙たがる本間から、どストレートな苦言も呈される。粟津號は橘高文彦のピック感覚で札片を撒く、正しく豪遊を繰り広げる自称練馬の大地主、とかいふ御大臣・万田。浅見小四郎はスナック「シャガール」のバーテンダーで、志麻いづみがママさん、本物の。その他嬢と客合はせて十人前後、ワイキキ要員が随時投入される。
 七年の助監督修行を経て監督デビュー、たゞし一本撮つたきりプロデュース業に転じた、中川好久最初で最終作。十万億歩譲つて岡本麗はまだしも、実質二枚看板の山口美也子よりも高いのがなほ火に油を注ぐ、あるいは癪に障る。志麻いづみがビリング二番手に座りながら着物の帯も緩めないのは、流石にあんまりだと軽く憤りを覚えるのも禁じ難い。それならそれでせめて、カメオ注釈でも施すべきではなかつたらうか。
 凡そ人を疑ふことを知らず、一度(ひとたび)男に入れ揚げるや股は滅法緩い。天真爛漫といふと聞こえもいゝが、少なくとも今の目で見る限り、白痴と紙一重にすら映るナナの浮遊した造形は恐らく、往時のしやうもないミソジニーに裏打ちされた、歪んだ理想像の類にさうゐない。はるみに花井を奪還され住むところも失つたナナを、しつかり者の宮子が庇護する、あくまで食費は半分入れさせた上で。疑似姉妹をも思はせる二人が各々、男と結ばれ損なつたり、騙されたりするどちらかといふと救ひのない男ならぬホステスはつらいよ。まづ裸映画的には、不脱の志麻いづみと岡本麗はいつそ無視してしまふと、三番手以降も適宜脱ぎこそすれ、所詮はゴーゴータイムの喧騒を飾る枝葉に咲いた花。よしんば何某かのテーマないしモチーフを背負ふに足るキャラクターには恵まれなくとも、三崎奈美の文字通りむちむちと食べ頃の肢体は、たとへば高木との事後、幾分過剰に回してはゐないかとさへ思はせるほど、全篇通して潤沢に愉しませる。反面、序盤は抑へ気味の山口美也子が、中盤以降猛然とパシュート。「あたしが仕舞つたげる!」、キタニ相手に至高のファンタジーを成就させたかと思ふと、真相を知つた<本当は土方>の万田には、「万田さん、仕事抜けられない?」。銀幕一杯に宮子が湛へる、作り事の中にしか存在しない慈しみ。物語の神様の前髪も掴んだ山口美也子が裸と映画の二兎を見事に仕留める、しかも二発の一撃必殺が兎にも角にも出色。雨の夜、鮮烈にさゆりは散り、「おい学生!酒飲まうぜ」。ナナとワイキキを馘になつた宮子が、へべれけに訪ねたキタニの部屋はもぬけの殻。木に接いだ竹も否めないにせよ、印象的な一幕二幕もなくはなく、何故か宮子の実家が何時の間にか消滅してゐる、山形の雪原。宮子もナナを追ひ二人で口遊む、「真室川音頭」の一節。“夢を見た”“夢を見た”、“夢ーをー見た”のリフレインは、痛切がグルッと一周。ロングにも加速された、スケールの大きなエモーションに到達する。巷説によると初号が不評で云々、中川好久が自信を喪失してかんぬん、といつたところらしいが、間違つても酷い映画ではあるまい、否、決して酷い映画ではない。節穴を憚りもせず断じてのけるが、もつとろくでもない他愛ない、端的に詰まらないロマポなんて石を投げれば幾らでも当たる気がする、ある意味不遇の一作、何より。
 満更でもないどころでない本丸はこの際さて措き、満足に喋らせても貰へず橘雪子と絡むばかりの影英とは対照的に、質量ともふんだんに見せ場を与へられるのがロマンポルノのスーパー座敷童こと、全銀河大好き小宮山玉樹。キャバレット映画に於ける店長、地味な重役を得た小宮山玉樹の活躍を愛でてゐるだけで、木戸銭の元は十三分にも十四分にも取れる。郷ひろみの「誘はれてフラメンコ」に合はせ、楽しさうにゴーゴー体を動かすコミタマ。指名を得た宮子をテーブルに誘(いざな)ひがてら、ツヤッツヤに艶やかな流し目を送るコミタマ。深見博を従へ、いゝ感じの画になる素敵な2ショット。万田周りではまづ強盗事件の有無を確認し、嬢が拾はされる万札を羨ましがる、後藤に対しては「お前もパンツ脱いで行けば」、台詞の一杯あるコミタマ。カットの跨ぎ際にウェイターかバーマンで飛び込んで来ては、サクッとそこで御役御免。量産型娯楽映画の途方もない試行なり集積の果て、遂に小宮山玉樹が完成した至高の十八番芸も確かにいゝけれど、長尺コミタマを味はへる、喜びもまた格別。さうかう、あれこれ考へるに。矢張り、結構いゝ映画なのではないかしらん。中川好久は当時、何を思ふてメガホンを擱いたのか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 横浜シャイア... 好色美容師 ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。