
子どものころ水道はなかった。多くの家庭の生活用水は井戸や手押しポンプ、時には川から樋などを使い利用した。井戸はつるべで、ポンプはハンドルを押し下げて吸い上げる。長く使用していないとパイプの水位が下がると呼び水を流し込んでいた。ハンドルを上下させるたびにガチャガチャと音を立てるのでガチャポンと呼んだという。
生活に手押しポンプを使う時代はすぎ、庭の片隅にたたずんでいるのを見かけることはある。しかし、菜園に設けられたものには乾いた畑を潤したり、苗の植え付け直後の根付き用に散水したりと活躍している現役もいる。一般用に普及した歴史は意外に遅く、各家庭の台所や庭で使われ始めたのは昭和10年代中頃からで、水道普及が進むまでの20数年間活躍した。
井戸水や地下水は年間を通して水温が15度くらいで夏は冷たく冬は温かく感じるなど、年間を通して快適な水温を保っている。夏、井戸にスイカをつりさげて冷やす、この昔からの知恵は冷蔵庫の普及まで続く。野山や畑が遊び場のころ、喉が渇くと交替でガチャポンを押し楽しんだ。今の自販機変わりだった。
大きな災害が発生し、多くの人が避難生活という災害が頻発している。今も人力ではどうすることもできない熊本・大分での地震が継続している。その避難直後の声として水への要望が強い。そこで、手押しポンプを避難施設や公共施設、公園などに設置して、救援の水が届くまでそれを使用してはどうだろう。水質管理は必要になるが、その手間は人命には変えられない。停電でも使える器具は貴重だと思う。エコノミー症候群の予防策の一つに水を飲むとある、検討してほしい。