正式な名称は知らないのだが、子どものころからその用具を「とおし」と呼んでいたように思う。作りは簡単で、我が家の物は木の板で作った円形の枠に金網が取り付けてあるだけ。
使い方、例えば収穫したあずき。乾かして莢(さや)をたたいて破る。すると莢と小豆が混ざり合っている。その混ざり合ったものを「とおし」に乗せ両手で左右や円形に動かす。すると、とおしの中央部分に莢が集まるので、大まかな分離はできる。網目の大きさは何種類かあり、作業に合わせ使い分けていた。小学校も高学年になると手伝っていが、そんな手伝いは思い出の中の一つになった。
今も、たまに使っている。花を植えるたびに新しい花の土を買うわけにはいかないので、古い花を抜いた後の土を使う。その土に残った根を取り除くために「とおし」を使う。揺すると土は「とおし」の網目から落ち根だけが残る。作業を終え、久しぶりに水洗いをした。ふと網目の大きさが気になり測ってみると5メッシュと11メッシュの2種類だった。
5メッシュの方を洗っていると「昭和45年 10月」とマジック書きがある。並べて20年前まで住んでいた住所を小さく書いているのは私の字だ。この年は大阪万博が開催された。その前夜、北海道に住む叔母の連れ合いが亡くなり、葬儀参列のため満員の大阪行夜行列車に乗った。どんな思いで購入日を書いたのか、5メッシュをどうして選んだのかなど全く記憶していない。
もう一つの11メッシュの方も確かめると何やら文字らしきものがある。よく見ると、薄くなったそれは「昭和二十八年」と読め、50年近く前に住んでいた住所もその横に墨で書いてある。それは小学校を卒業した年だと思い出し、妙に懐かしさを感じる。
ちょっとした走り書きでも、そこから懐かしい事柄が浮かんでくる。もの覚えは難しくもの忘れは進むこの対策として、ちょっとした覚え書きを残すようにしよう、と思い直す。それを忘れるな、戒めの声が聞こえる。