流星ワゴン(重松清・書籍)

2015-02-17 00:00:13 | 書評
日曜夜のテレビドラマの結末を早く知ろうかと思って、読み始めたわけではないのだが、そういうことと同じになってしまった。ということで、次の展開を知りたい人もいるでしょうから、あらすじをダラダラ書くわけにはいかない。

ドラマの設定が、広島県福山市の鞆の浦(とものうら)であるのだが、実は、数週間後に鞆の浦に行って、イベントに出席(というか当事者)することになっているため、ドラマが話題になることを予測して、あらかじめ勉強しようと思ったわけだ。そして、現在、ドラマ放映が進行中なのだ。

ryuseiwagon


以前、鞆の浦には行ったことがあり、ドラマの中の永田家のあたりは、海沿いできわめて細い道で土産店とか坂本竜馬がいろは丸衝突沈没事件の賠償交渉を行った場所などが並ぶ。有史以来の天然港であり、一方で、海岸道路の設置で地元の意見が「観光か生活か」で分かれている。

そして、一冊読んで、本の内容には、少しショックを受けたのだが、もっと大きなショックを受けたことがある。

ドラマでは鞆の浦が舞台なのだが、原作では鞆の浦の「と」の字も出てこない。

だいたい現在第六話あたりを進行中だが、そのあたりは原作にはないことが多い。

原作は、永田家の祖父と父、父と息子、橋本家の父と息子の3組5人の男の物語なのだが、うち二人は幽霊で二人は幽霊もどきである。幽霊はホンダのオデッセイというワゴン車を自由に運転して時空間を移動し、男たちの自分史上の失敗をなぞっていく。そして、タイムマシンの様に過去の中に永田一家をおきさりにしたりする。

で、タイムマシン小説の定めである「未来を変えてはいけないが、一つくらいは例外がある」という方向に進んでいくわけだ。

なぜ、オデッセイに乗るかということだが、ギリシア叙事詩であるオデュッセイアにつながるからだ。海外の戦争のあと勝者であるオデュッセイアは、さまざまな複雑な事情が起きて簡単に故郷に帰ることができず、長い長い旅路の末、へとへとに消耗して帰還する。車種に名前が付いたのも、へとへとの旅をイメージしてのことだろう。本作はタイムマシンの旅。

そして、原作では、ちょっとパッとしない結末に進むのだが、それではTBSの視聴者は怒り狂って次のドラマを観てくれないだろうから、巨大な不幸か巨大な幸運を予感させるように書き直されるのではないかと思うのだが、巨大な不幸で終わるテレビドラマというのは基本的にありえないのだろうと推測する。

ところで、重松清氏は岡山県出身ということだ。倉敷に近ければ実家の撮影にでも行こうかな。県内出身の三人目の有名小説家(小川洋子・あさのあつこ・重松清)ということになる。