日本人の戦争(ドナルド・キーン著)

2012-01-18 00:00:38 | 書評
ドナルド・キーン氏は89才だそうだ。ついに日本に永住することにしたそうだ。被災後の日本としては、ありがたい限りである。

senso


2009年に発表された「日本人の戦争」は、副題を「作家の日記を読む」となっている。昭和20年8月15日をはさんで開戦の時から占領後の日本まで、作家たちが何を考えて日記を綴ったのか、代表的文学者として、永井荷風、高見順、伊藤整、山田風太郎を特に選んでいる。

永井荷風は日記にかなりの軍部批評を綴る。そのため、没収されたりしないように常に日記を持ち歩いていたそうだ。戦後、日記を売り物として発表したのだが、発表するにあたって多少柔らかく書き換えたようで、そのためキーン先生の受けが悪い。

高見順は母親一人で彼を育てたのだが、戦争中は母親と喧嘩ばかりしていたようだ。いわゆる転向作家だが日記も景気がいい。ただ、再び官憲につかまった時の没収を恐れ、本音で着されたかどうか。

伊藤整。こちらも右寄りである。英米思想を非難しているが、彼の生涯の最高の仕事が「チャタレ-夫人」であることは、いまだにわからない大きな矛盾だった。

山田風太郎。玉音放送ありとの情報を得て、これから国民全体で一人残らず玉砕するまで戦うのかと思っていたのかな。ただ、戦後日本の未来像を少しは見通していたのだろうか。
戦後日本の精神構造をもっとも多く記載している。

ところで、本書は文春文庫であるのだが、今度新潮社で全集が発売されるようだ。