無声映画『進軍』(田中絹代出演)

2009-10-16 00:00:38 | 映画・演劇・Video
無声映画は日本では1930年頃までで、その後トーキーに時代が変わっていく。そのため、非常に短い期間であり、さらに戦災や映画会社の倒産といった事情で、多くは残っていない。

それだから、無声映画を観ることなどないだろうと思っていたのだが、田中絹代生誕100年の記念事業の一環で、フィルムセンター(京橋)で、彼女の出演映画6本が公開されることになった。スケジュールの関係で、その中の『進軍』を観ることにする。ただし、どうも戦争映画のようだ。飛行機にあこがれた田舎の青年(鈴木傳明)が、身分の違う令嬢(田中絹代)の好意を敵意と勘違いし、見返してやろうと、飛行機のパイロットとなるも、戦争になって、戦場で活躍するストーリーらしい。

あまり軍国主義は好きじゃないので、気がひけたがしかたがない。

singun1会場に入って、発見したのは、向かって右側にピアノがあること。そして左側には机とマイクがおかれていた。ピアニスト(新垣隆)と女性弁士(澤登翠)が入るようだ。そして、幕が上がる。

ストーリーは田舎の青年から始まるが、この青年は、かなり体格がいい(主演の鈴木傳明は、競泳の日本代表であった)。いかにも農家の青年。そこに運転手付きの自動車に乗った田中絹代が登場して、はじめての出会いから始まる。

その後、この映画は、二項対立の構造になる。「貧乏と金持ち」「農村と東京」「軍隊と民間」「進歩と旧弊」。そして、「戦争と平和」。そして、「男と女」。

無声映画なので、出演者は「口パク」である。弁士は、さまざまに声色を変え、142分間しゃべり続ける。無声映画の俳優(女優)は、演技力がかなりないと、意味を伝えられない。田中絹代は、この無声時代に芸を磨いたに違いない。後半の30分は戦闘シーンなので、あまり弁士ががんばるところはない。ピアニストは、弾き続けなければならない。142分の演奏。

そして、この映画の撮影には、陸軍と海軍は全面的に協力している。飛行機が飛ぶ映像や、基地での訓練。そして、隣国との宣戦布告をしてからの戦闘シーンは、かなりリアルだ。

singun2しかし、どうも軍国主義の映画ではないようなのだ。

一人息子を徴兵された両親の悲しみ。婚約者と離れがたい航空兵。さらに戦場での悲惨な戦死とか負傷して、必死に基地に這い戻る負傷兵たち。

かっこいいところは、何もない。はっきり言えば反戦映画である。

軍が全面協力して反戦映画を作っているわけだ。

しかし、この映画が公開されたのが1930年(昭和5年)。その後、10年もしないうちに、日本国内ではなく周りの国の中で進軍してしまったのだから、現在でも周辺諸国はいつまでも日本のことに関心をもっているのだろう。

ところで、会場で知ったのだが、『無声映画の会』があるそうだ。名作『伊豆の踊子』の第一回目の主演女優が田中絹代だ。ただし、チケットは高い。2000円~。やはりフィルムセンターの1000円は割安である。

もう一回、声の出る映画を観に行きそうである。(実は、彼女の声を聞いたことがない)。