雨月(藤沢周著)

2009-10-13 00:00:57 | 書評
ugetu藤沢周の小説をこのところ読んでいる。なんとなくダラダラと読んでいて、どこかでこの作業をやめて伊坂幸太郎に切り替えたいと思っているのだが、当たれば大満足なのが藤沢周の小説。当たりばかりじゃないのが、ちょっとリスキー。

それで、本作は、よくわからない作品だ。小説の約束ごとからいうと、多少、反則気味かもしれない。この作家からイメージするなら、「正統派小説」である。仮に、ゴルフ場と経営者を一とするラブホテルが舞台であっても、そこに人生の深淵をさがしたくなるわけだ。

しかも登場人物は、主役がルーム係の男。ゴルファー志望がゴルフ場の係員に落ちぶれ、リストラで同系列の鶯谷の古びたホテル「雨月」のルーム清掃係に回されても、じっと会社にしがみついている。同じ清掃係に左翼の闘志とか正体不明の初老のオバサンとか登場。変な泊り客として、霊感の強い自殺壁のある少女。

しかし、想像とは異なり、小説の雰囲気は風俗小説方向に流れていく。社長の愛人とボイラー室に放り込んだクリーニング前の各種体液で汚れたシーツの袋の中にもぐって、激しい肉体運動がはじまる。恐い社長に見つかりそうになるわけだ。

ところが、小説のキーになる少女が、「部屋に霊がいる」と騒ぎ始める。清掃係の主人公が部屋の点検中に、いくつかの部屋で長期間にわたり盗撮が行われていたことに気付く。さらに、内部で不正経理が行われていることや、経営が変わる前の古い過去の事件があきらかになったり、さまざまな世の中の裏側の醜い部分が飛び出してくる。このあたりは、ミステリー仕立てである。

そして、霊感の強い少女は、どのように小説のエンディングを迎えるのか、読者の余計な心配が高まっていくのだが、最後にこの古いラブホテルは、少女の泊まっていた部屋から、天に届くほどの炎を上げ、燃え落ちてしまうのだが、少女の存在をしめすものは何も残っていないのである。

最後は怪奇小説風なのは、題名が『雨月』と、上田秋成を連想させるからではないだろうか。

あのノーベル賞の名作『雪国(川端康成)』も、最後は火事の炎で終わるのだから、それでよかったのだろうか。

私的には、出荷元は、クリーニング前のシーツを押し込んだボイラー室にしてほしかったのだが、どうだったのだろうか。


著者が小説の場として選んだラブホテルだが、ほとんどのお客はラブのない人たちという虚構性が、小説の世界と繋がるのだろう。あまり教育的でないラブホテル小説家になった著者は、この小説が上梓されてからまもなく、母校HS大学の教授となった。何を教えているのかは知らない。