「獣になつた人妻」(2008/製作・配給:新東宝映画/監督:佐藤吏/脚本:小川隆史・佐藤吏/企画:福俵満/プロデューサー:深町章/撮影:飯岡聖英/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:金沢勇大/監督助手:桑島岳大/撮影助手:海津真也・河戸浩一郎/編集助手:鷹野朋子/応援:田中康文/スチール:津田一郎/タイミング:安斉公一/現像:東映ラボ・テック/協力:佐藤選人・清水正二・佐々木基子・吉行由実・川瀬陽太・CLUB リッチ/出演:友田真希、結城リナ、夏井亜美、那波隆史、神崎純一、マイケル・アーノルド、岡田智宏、ほたる、千葉尚之)。出演者中、岡田智宏とほたる(=葉月螢)は本篇クレジットのみ。
目覚めたチンピラの英夫(千葉)は、傍らに眠るミホ(夏井)の姿に頭を抱へる。前夜、急に出張る破目になつた兄貴分・順(神崎純一?>後述する)の情婦・ミホを、英夫は一晩預かることに。順からは当然の如く固く釘を刺されてゐたにも関らず、股の緩いミホの誘惑にホイホイ応じ、英夫は兄貴分の女に手をつけてしまつたのだ。そこに順登場、一悶着あつた後(のち)、落し前として英夫は翌日までに十万円持つて来るやう厳命される。十万ぽつちかとミホは臍を曲げる端金ではあれ、オケラの英夫には、用意出来るか出来ないかギリギリの金額であつた。早速金策に飛び出さうとした英夫を、「待て」と順が呼び止めたところでタイトル・イン。
順にミホとのセックスを見せつけられつつ、英夫は街に出る。金貸し(佐藤選人)からはこれ以上借りられず、なけなしの持ち金で飛び込んだパチンコには矢張り負ける。仕方なく入つた日曜のみ天丼を出す食堂で、英夫が料理に髪の毛が入つてゐたと因縁をつけようとすると、スキンヘッドの大将(田中康文)が出て来る始末。とその時、英夫のほかに一人客のさういふ店には不釣合ひな令夫人が、ドサクサに紛れ食ひ逃げする。後を追つた英夫が訳アリ風の人妻・たかこ(友田)と合流すると、たかこは英夫に、自分の要求を聞いて呉れたら百万円あげると持ちかける。そのまゝ英夫は別荘に招かれ、たかこ自身の女体も御馳走になる。本格的な主演作を観るのは初めての友田真希は、濡れ場には確かに艶があるが、素面の芝居には少々貧相さも感じた。ポスターに載る名前に動員力があるといふならば、それも又よし。棚から落ちて来た牡丹餅に、英夫は俄かに驚喜する。社長令嬢のたかこは婿養子・近藤(那波)と結婚するも、父親の死去後、近藤は秘書のまさみ(結城)との浮気も大つぴらに、会社の経営も遣りたい放題。たかこはそんな夫に匙を投げ、家出して来たものだつた。英夫にそんな身の上を話してゐる内に、たかこは変に勢ひづく。近藤に自ら電話をかけると、英夫を犯人役に身代金一千万の偽装誘拐を仕組む。急に大きくなつた話に動揺しながらも、英夫は更に増した、順に十万渡した残りの自らの取り分の皮算用に胸躍らせる。ところがそんな英夫に、近藤はたかこを殺して呉れたら死体と引き換へに一億出すと妻の殺害を依頼する。オフ・ビートの冷血漢といふ近藤の役柄には、痛痒を感じさせず、といふかより直截には演技力の不足に頭を抱へさせられるでなく、与へられた役にフィットする那波隆史を初めて見たやうな気がする。
明日までに工面しなくてはならない金は十万。そんな英夫に転がり込んで来る金は、百万から一千万、一千万から一億へととんとん拍子にグレード・アップ。偽装誘拐や殺人が絡んで来るとはいへ、犯罪映画といつた硬質な部類の代物ではなく、間抜けなチンピラが勝手に転がる状況に翻弄される、ブラックな風味もあるものの気の利いたコメディ基調の佳品である。
近藤が一億でたかこ殺害を英夫に依頼するところまでは、抜群によく出来てゐた。松浦祐也が自閉的な悪ふざけに終始する中、硬軟自在の活躍でピンク若手男優部トップの座に躍り出た感も強い千葉尚之は、小気味良い展開を上滑らない軽やかさで更に加速する。誰の手による仕事なのかクレジットからは拾ひ切れなかつた、英夫の皮算用をコミカルにそれぞれ一枚絵で表現する今時ポップなイラストも、クオリティとしては十分で効果的に機能してゐる。とはいへここからが、残念ながら些か以上に弱い。所詮は六十分(前後)といふピンク映画として初期設定の尺の限界に阻まれたか、以降の展開が少々薄い。元々少ない残り尺が更に挿み込まれる濡れ場に削られ、折角魅力的に完成した物語を、更に膨らませる一手二手に欠いてゐる。加へてその残り尺を削る濡れ場に関しても、二段階といふ構へは買へるがたかこの心変りにより、友田真希の裸を見せられなかつたといふのは明白な映画の設計ミスではないか。その分クール・ビューティーの王道を驀進する、結城リナはお腹一杯に満喫出来るといへばさうもいへるのだが。起承転結でいふと転部までは娯楽ピンクとして屈指の完成度ともいへ、最終的な仕上げには成功を果たしてゐるとは必ずしもいひかねる、恐らくは2008年最も惜しい一作。たかこの別荘を追ひ出された英夫が、ションボリと自販機のチャリ銭を漁つたり賽銭箱を突いてみたりなんかするシケたシークエンスは、いつそ丸々要らないともいへるのではないか。別荘を放り出されてからの英夫は、主人公の筈ながら本筋の流れからはまるで蚊帳の外で、なほかつ何も出来てゐない。
とりあへずデカい白人ではあるマイケル・アーノルドは、近藤子飼ひの運転手、兼始末屋のスティーブ。流暢な日本語が、本人のものか日本人の別人によるアテレコなのかは不明。国沢実を全体的に一回り小柄にしたやうな感じの、最終的に物語の鍵を、握らされるホームレス役も誰なのか不明。岡田智宏とほたるは、シティ・ホテルに寝起きの近藤―とまさみ―を急襲する捜査官。ほたるが手にした令状は、出先に捜索令状といふのでなければ、いきなり逮捕令状なのか?
何故かポスター、本篇クレジットとも神崎純一とある英夫の兄貴分・順役は、(多分)直近のピンク出演作としては「紅姉妹」(2002/監督:団鬼六/PINK‐Xプロジェクト第四弾)が挙げられるであらう、漫才コンビせーじ・けーすけのけーすけである。
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