真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ラブホテル 朝まで生だし」(2005/製作:杉の子プロダクション/提供:オーピー映画/監督・音楽:杉浦昭嘉/脚本:丸本昌子・杉浦昭嘉/撮影・照明:小山田勝治/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/監督助手:福本明日香/撮影助手:赤池登志貴・花村也寸志/照明助手:永井左紋/現場応援:広瀬寛巳/スチール:梶原英輔/効果:梅沢身知子/フィルム:報映産業/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:せりざわ愛蘭・三茶詩まや・桐島秋子・幸野賀一・柳東史・井上淳一・皆木正純)。
 杉浦昭嘉といふ人は、世代的にはバリバリの若手であるにも関らず、小林悟や小川欽也、十本のうち九本のヤル気を出してゐない時の関根和美らと同じく、どちらかといはなくともネガティブな意味合での大蔵映画(現:オーピー映画)本流に棹差す存在として、広く決して高く評価されてゐない映画監督ではある。尤も、そもそもピンク映画を観てゐる母集団の大きさが小さゝにつき、“広く”もへつたくれもないといつてしまへばそれまででもある。ともあれ、当サイト的には2002年の「独身OL 欲しくて、濡れて」(主演:木下美菜)辺りから、そこはかとなさ過ぎる体裁に隠された、実は一貫して志向されてあるのかも知れない穏やかで順当なエモーションに注目して、新作が公開される度にその人と意識して小屋に足を運んでゐたものである。ところで話は戻るが、小川欽也の和久との名義の使ひ分けには、何某かの主体的、あるいは実質的な線引きといふものは存するのであらうか。心持ち、欽也時よりは和久の時の方が幾分良心的なやうな気がしなくもない。

 脱サラした遊間虎太郎(幸野)は妻のアカリ(桐島秋子/『義父の指遊び 抜かないで!』に於けるダイナマイト・エロ芝居が鮮烈に印象に残る)を伴ひ、営業を停止してゐたラブホテル「ガウディ」の雇はれ支配人を住み込みで働き始める。ガウディの301号室には「何か」がゐて、301号室でセックスするとその何者かの影響で女が感じ易くなる、とかいふ評判が客の間では流れてゐた。さうはいへ虎太郎もアカリも、そんな噂を鵜呑みになどしてゐなかつた。ある日、虎太郎が客の帰つた後の301号室を掃除してゐると、何処からか降つて来るコスモスの花びらと、せりざわ愛蘭の幻想を見る。虎太郎が、過去に301号室で何か事件があつたのではないかと調べてみたところ、五年前、主婦売春を繰り返す女が、301号室で客の男に絞殺される。そして殺された女・千春(せりざわ)の夫・倉本三郎(柳東史)は、農場でキバナコスモスを栽培してゐた。霊媒師(井上淳一/『くの一忍法帖 柳生外伝』で小沢仁志と共同脚本の井上淳一と同一人物?)を呼んでみると、千春の霊は成仏せず301号室に漂つてゐるといふ。虎太郎は倉本を探し出し、ガウディに連れて来る。301号室に独り放り込まれた倉本は未だ、千春のことを許してはゐなかつた。やがてコスモスの花びら舞ふ中、千春の霊が倉本の前に姿を現す。そして赦し合ひ、愛し合ふ二人。千春の霊は成仏した、301号室にはもう何もゐない。ものの評判だけは残り、ホテルは相変らずどうにか繁盛してゐた。開巻インポ気味だつた虎太郎もすつかり回復し、アカリと慈愛に満ちた夫婦生活を完遂し映画は幕を閉ぢる。
 とか何とか、何とはなしに全篇大まかにトレースしてのけたが、杉浦昭嘉映画の主力装備のひとつは、自身でつけてゐるその音楽にあると思ふ。音楽的なサムシングを正確に語る用語も能力の持ち合はせもないのだが、有体に聞いたまゝを言葉にすると、如何にも安物のシンセで適当にこしらへた、安いことこの上ないフニャフニャした劇伴である。が、こゝに断ずる。杉浦昭嘉の音楽は、絶対にヒサイシ・ジョーなんかよりもエモーショナだ、少なくとも小生にとつては。倉本と千春との濡れ場、どうして五年間許してゐなかつた女とコロッと結ばれ得るのか、説明も蓋然性の欠片もない。だが然し、杉浦サウンドによつて、全ては然るべき流れとしてすつかりシークエンスが成立してしまふ。まるつきり納得させられて、ついうつかり感動すらして観てしまふ。音楽的にはよしんば決して高級な代物ではないにせよ、杉浦昭嘉の音楽は劇伴としてさういふ説得力を有してゐる、と私は思ふ。正直さういふ私見に、あまり自信を持てるものでもないのだが。
 要は相も変らない、杉浦昭嘉を評価してゐない向きからしてみれば又ぞろな、何でもない映画でしかないのかも知れない。が、プログラム・ピクチャーといふカテゴリーの中で、何でもないけれど実は案外誠実、といふ映画を撮り続ける営為はそれはそれで矢張り尊くもあり、またそれは目先の何でもなさに囚はれてゐては、決して見えて来ないのではなからうか。といふのも蛮勇を振り絞り、ここで強く訴へたい、一体誰に対して、何に向かつて。
 素晴らしいオッパイの三茶詩まやと普通にイケメンの皆木正純は、レイプ体験に基くセックス恐怖症を克服するべく噂を頼りにガウディを訪れる水鳥薫と、彼氏の中田松彦。もう一組絡みは見せずに見切れる301号室のカップル客は、スタッフ動員か。となると女の方は、福本明日香?映画の最初と終盤にもう一度、虎太郎に「儲かりまつか?」と声をかける往来なのに首からタオルを提げた浴衣が杉浦昭嘉。

 付記< 今作に俳優部で登場する井上淳一は、何かと面倒臭さうな御仁の井上淳一とは単なる同姓同名のレッドな別人


コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )


« 翔んだアイドル 三十路の女将... »
 
コメント
 
 
 
Unknown (通りすがり)
2021-07-15 18:09:59
EDに流れる「キミの穴の中で(曲名不明なので仮称)」は名曲ですね。

霊媒師役の井上淳一(脚本家とは別人のような気が)が歌ってるんでしょうか。

ネットで有名な『オリオン座の下で』より名曲かとw

でも、杉浦監督のピンク卒業の歌にも聞こえてちょっと寂しいです。
(ピンクは「穴の中」みたいに甘い世界ではないとは思うんだけどw)
 
 
 
キミの穴の中で (ドロップアウト@管理人)
2021-07-15 22:30:02
 もうそれ、決定題でよくないですかね?   >何を勝手に
 で、確かにヴォーカルは面倒臭くない方の井上淳一ですね。

 清水大敬が復活を遂げた日には、杉浦昭嘉にもワンチャンあるかも?
 だなんて、儚い夢も見たんですけれどねえ・・・・
 この人も、悶着系でしたかな?
 第三作で壮絶に仕出かしたのが尾を引いたのか、
 些か?過小評価されてる監督である気がします。
 逆に、姿を消したからこそ、仄かながら美しい印象を残し得た、のかも知れませんが。
 
 
 
杉浦昭嘉にもワンチャンあるかも? (通りすがり)
2021-07-16 20:12:22
悪名高い第三作より、『女子大生朝まで抱いて』とか『出会い系不倫 堕ちた人妻』とか、むしろピンク映画らしい話の方が冴えてる気がするです。わりと濡れ場も充実してるし。もはや小川欽也しかいなくなってしまった、大蔵王道路線の新戦力になると思うんですけどね。残念です。
 
 
 
>もはや小川欽也しかいなくなってしまった (ドロップアウト@管理人)
2021-07-16 22:39:55
 いやそこは、邪道王道路線の清大が・・・・   >路線が複雑骨折してねえか

 真面目な話をすると竹洞哲也は兎も角、加藤義一に大成する大志があるのや否や。
 国沢実は・・・・まあ、うん   >口ごもるな
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。