真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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ワイセツ和尚 女体筆いぢり
森山茂雄
/
2008年10月22日
「
ワイセツ和尚 女体筆いぢり
」(2007/製作:パワーフール/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/撮影:長谷川卓也/照明:ガッツ/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:内田芳尚/撮影助手:平原昌樹/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/題字:杉本智美/協力:オフィス・バロウズ・いぐち武士・バンブーハウス・セメントマッチ・デジタルギズモ/応援:田中康文/出演:野々宮りん・平沢里菜子・山口玲子・江端英久・堀本能礼・白井里佳・望月梨央・恭子・伊藤太郎・中川ダイスケ・内田ヨシナオ・佐野和宏/スペシャルサンクス:田中繭子)。出演者中、恭子から内田ヨシナオまでは本篇クレジットのみ。逆に、松丸善三はポスターのみ。正確なビリングは、堀本能礼と白井里佳の間に田中繭子が入る。
森山茂雄が撞く鐘の、「ゴ~ン♪」といふ音にて開巻。残念ながら未見のワイセツ和尚シリーズ前作、「後家・後妻 生しやぶ名器めぐり」(2004)中の一幕。若後家(神島美緒)を相手に奮戦する生臭坊主の武田鎮源(佐野)が、イッたところでタイトル・イン。
三年後、度の過ぎた荒淫が祟り、鎮源が実は意識はハッキリとしてゐるものの、身体の自由は全く失つてしまつてゐた。要介護の患者も顧みずのうのうとタバコを吹かすブスの看護婦・リカ(白井)に、憐れ放置され涎を垂れ流してゐた鎮源を、別の看護婦の野々村りん(野々宮)が
有体にいふと拉致する
。自宅に鎮源を連れ込んだりんは、自らの裸身を鎮源に捧げると、遂に復活させるレヴェナントに成功する。携帯電話の受信状態を指し示すアンテナの表示が、バリ3も通り越しピンコ立ちになるイメージと同調して、鎮源が再起動を遂げるシークエンスは綺麗に快調。ピンクにしては珍しく、イメージ自体の出来も挿み込み具合も全く申し分ない。
りんが鎮源を蘇らせたのは、兄の復讐のためであつた。鎮源リタイア後、寺は同じく生臭で、りんの血の繋がらない義理の兄に当たる鎮念(松丸)が継ぐ。然しそんな村に、厳格な修行僧の上杉憲陳(江端)が現れる。やがて村人の信奉を集めるやうになる憲陳と、ダルに破戒の鎮念とは当然の如くソリが合はず、鎮念はノイローゼの果てに死に、寺の住職の座には結局憲陳が居座つたといふのだ。シリーズ前作は未見につき、松丸善三の登場場面が、バンクなのか新撮なのかは不明。正直
鎮念なんて別にどうでもいい
鎮源ではあつたが、りんに改めてヤラせて貰ふ条件で、仕方なくも張り切りつつ打倒憲陳を期し村に向かふ。
配役残り山口玲子は、森の中で修行してゐたところ、臆面もなく下根(げこん)を自称する元助(堀本)に犯される浜田めぐみ。因みに下根とは上根・中根と三対を成す仏教用語で、仏道への適性の、生まれつき劣つてゐることを意味する。時に問題視される仏教の差別性を指し示す用語といへようが、改めて考へてみるまでもなく、仏教は近代思想の生まれる遥か前より存するいふならば全く別個の体系。幾ら現行のパラダイムとはいへ、仏教が一々民主主義に媚を売る要もあるまい。生臭具合は鎮源―と鎮念―も同じながら、元助は徹底して悪役として描かれる対照は鮮やか。話を戻して望月梨央は、めぐみの画面向かつて左側で、同じく修行する村の女。右側にもう二名見切れる村娘は白井里佳の二役目と、正体不明の恭子。伊藤太郎と中川ダイスケに内田ヨシナオは、村人のトン吉・チン平・カン太、流石に各々の特定にまでは至らず。現在は憲陳に傾倒し、元気だつた頃の鎮源に、隣村の田吾作の山羊を紹介して貰つた恩は忘れる。平沢里菜子は、亡夫の初七日を迎へ、未だ鎮まらぬ肉の欲に悶える檀家の未亡人・渚リナコ。憲陳は裸に剥いたリナコの全身に写経しながら、驚く勿れ、なほ苦悶するリナコを冷笑しこそすれ、その姿に欲情しはしなかつた。両腕を縛り上げられたリナコの前に鎮源が飛び込むと、マゾのリナコは鎮源をあつさり求める。
佐野和宏扮する俗物の権化・鎮源の、人間味・ユーモア・ビート感はどれも文句の欠片もつけやうがなく百点満点。鎮源が自由自在に暴れ回るパートの、面白さは正しく無類。そこに森山茂雄の、手がどれだけ加はつてゐるのかといふ点に関しては、微妙なところでもあるのだが。女優陣も、天然ものの矢藤あき、とでもいつた風情のキュートな野々宮りん。一幕限りの純然たる絡み要員ながら、余計な肉だけ落として超攻撃的なボディに進化を果たし、もう少し堪能したかつた心も残す最新型の山口玲子。白く細い体に、縄ととが堪らなく映える平沢里菜子。話が面白過ぎて逆に見落としてしまひがちにもなりかねないが、濡れ場の威力もどれも十二分。未見のシリーズ前作が既にさうであつたのかも知れないが、森山茂雄が遂にマスターピースを叩き出したものかと、大いに目を輝かせられた。ところではあつたのだが、途中までは。
人の温もりも知らず凍りついた憲陳の心に触れたりんが、再び自らの肉体を捧げその非人間性を解き解す。といふ流れは、娯楽映画の定番展開としても、ピンク映画のジャンル的要請としても、何れも肯ける。尤もその際の方便が、いふに事欠いて“仏の愛”とは幾ら何でも何事か、自堕落にもほどがある。何処に対しても狭義の信心を持ち合はせはしないが、それはさて措き、御仏が愛だなどと破廉恥をいひ出すものか。逆からいへば、愛だとか口走る仏が当てになんぞなるものか。直前に、「私は仏に仕へる身、得度《とくど/出家の意》した時に人間は捨てた!」とまで憲陳にカッコいい見得を切らせておいて、何たる無様な体たらく。尻の穴の小さい難癖をいふやうだが、その怠惰は軟弱は、如何とも看過し難い。痛快な娯楽映画の良作たり得てゐたのに、最後の最後で取り返しのつかないミソがついてしまつた。そもそも、幾ら義理にせよ、兄貴の敵討ちも何処に消えた。
田中繭子(一時的なex.佐々木麻由子)は、オーラス、新たなる再び愉快な日々の始まりを告げるべくカメオ出演する、鎮源の本妻・美子。
クレジットの最後は、“パワーフールNo.2”と締め括られる。ここで第一作目とは、昨年の前作にしてピンク第七作「
痴漢電車大爆破
」(主演:園原りか)。森山茂雄は2002年のデビュー後、第六作「後家・後妻 生しやぶ名器めぐり」まではそれなりにコンスタントに作品を発表してゐたのだが、以降がどうにも足取りが重い。
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