真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



人妻セカンドバージン 私を襲つて下さい」(2013/製作:Lenny/提供:Xces Film/監督・脚本:城定秀夫/企画:西健二郎/プロデューサー:久保和明/撮影・照明:田宮健彦/助監督:伊藤一平/ヘアメイク:蔦谷いづみ/編集:酒井正次/音楽:林魏堂/監督助手:小塚太一/撮影照明助手:俵謙太・川口諒太郎/スチール:本田あきら・伊藤久裕/メイキング:川村翔太/制作応援:貝原クリス亮/録音:シネキャビン/ロケ協力:柳川庄治《NPO法人パートナーシップきさらづ》/光学リーレコ:東映デジタルラボ《株》/現像:東映ラボ・テック《株》/出演:七海なな・吉岡睦雄・河野智典・仁科百華・中村英児・さくら悠・宮城翔悟・辺見麻衣・麻木貴仁)。
 陰鬱な望月家の朝、ぼんやりと包丁を使ふ麻子(七海)が指を切り、夫の高志(河野)はキレ気味に、捌けぬ妻に愛想を尽かし朝食を諦める。高志は後ろ手のまゝ靴ベラを遣り取りし、妻の方を振り向きもしない玄関。兎も角夫を送り出した麻子は、切つた指先から結構威勢よく滴り落ちる鮮血に気づく。までが、何気にワン・カットのアバンを経てタイトル・イン。認めざるを、得ないのか。
 ナッツでも摘む感覚で、ピル・ケースの錠剤をポリポリ食べ食べドラムを回す麻子は、異音に洗濯機を止める。高志の衣類のポケットから、ラブホテルのライターが出て来た。近所のサッカー高校生・ケンジ(宮城)と、ケンジが洗濯物を干す麻子と会釈を交しただけで一々噛みつく嫉妬焼きの彼女・ユミコ(辺見)の顔見せ噛ませ、三百円すら当たりもしない宝くじに匙を投げた麻子は、一旦催しかけて、後述する頗る魅力的なロングでフレームを右から左に横切り、珍・監禁逃亡でも使用された廃工場に。そこに現れたジャンキーのカップル・タケル(中村)とアミ(仁科)が、コロンビア産のお薬をキメてのセックスを覗き自慰に耽る麻子は、興奮の度が過ぎると喘息の発作を起こし、吸引薬に縋る。高志は同じ会社の浮気相手・ユキ(さくら)と外泊する夜。危なかしさこの上なく―下かも―矢張り錠剤をアテに泥酔する麻子は、よろめいた弾みで庭に忍び込んだ、社長を刺し逃走中の久保工業工員・宮守潤二(吉岡)とベランダのガラス戸越しに目が合はせる。ベランダを破り侵入、自身を犯した宮守を、高志が帰宅した翌夜以降も麻子は屋根裏に匿つた。
 配役残り、ピエール瀧のレプリカのやうな麻木貴仁は近所の駐在。宮守逃亡当夜、望月家を訪れただけではスケベな役立たずに過ぎないところを、再登場の機会を与へられ幾分以上に救済される。ポスター・クレジットとも名前はなく、引いた画で殆ど人相も判然としない小塚太一は、計四車線に隔てられた会話の末に飛び出した麻子を、卒ない繋ぎで撥ねてしまふ運転手、綺麗に名が体を表す。
 新東宝よりはそれでもまだマシなのか、青息吐息のエクセスが遂に切つた切札中の切札は、沈黙する無冠の帝王・新田栄でも雌伏し続ける至誠・中村和愛でも残念ながらなく、「妖女伝説セイレーンX」(2008)を一応挿んで十年ぶり二作目のピンク帰還を果たした、御存知霞予算映画界の巨匠・城定秀夫!城定秀夫が―時折首を突つ込むにしても―十年間ピンクを離れてゐた、あるいは離れざるを得なかつた事情に関しては、市井の一観客的にはノット・マイ・ビジネス、この際堂々とさて措く。重ねて性懲りもない憎まれ口を叩くやうだが、といふか叩くが、若松孝二や―向井寛や―ロマンポルノだけでなく、必殺のデビュー作きり十年ピンクを撮らなかつた城定秀夫も、いつてしまへば半分以上シネフィルの食ひ物。城定秀夫がどれだけ映画作家として優秀であらうとも、当サイトには関根和美や新田栄の方が重要で、旦々舎の方が大好きだ。どうも松岡邦彦は今のまゝだと怪しいけれど、渡邊元嗣や友松直之の方が頼もしいし、森山茂雄や田中康文の方が楽しみである。エクセス新作は城定秀夫の報が飛び込んで来た昨年末より当然俄然興奮しつつも、城定秀夫がナンボのものかと、捻くれた心持ちも同時になくはなかつた。我ながら、何処まで歪めば気が済むのか。兎も角、東京封切りから―プリントも一本しか焼いてゐないのに―僅か三ヶ月半といふ怒涛の超速で着弾した前田有楽の敷居を、戦闘態勢で跨いだものである。正直なところ個人的な現状認識と期待としては、あれやこれやどころかあれもこれも軒並クソな御時勢につき、こゝは逆に、ではなく寧ろこの期にだからこそ、このタイミングでの城定秀夫新作ピンクに望むのは笑つて泣かせてハラハラヤキモキさせて、色々あつても最終的にはダーイダーンエーンな本格娯楽映画であつた。尤も予習段階で既に、さういふ勝手か浅墓な希望は裏切られてもゐたが、結論からいふと、ヤベえ、ブッチギレてる。正しく圧倒的な衝撃は、森山茂雄の「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/脚本:佐野和宏/主演:みづなれい)を観た時以来。現時点に於いて観たものに限る注釈つきで、ハッキリいふが2012年のピンクは全部負けてる。一幕一幕が悉く震へさせられる名場面ばかりゆゑこゝが凄い、あそこが素晴らしいと騒ぎ始めると始終を活字再映するほかない間抜けな羽目に陥りかねなくもあれ、まづ度肝を抜かれたのが、遥か昔の前作「味見したい人妻たち」(2003/主演:Kaori)に於ける主人公・道川町子と隣家のヨシコ・鮭山光男の関係を髣髴とさせる、廃工場にて麻子がタケルとアミの情事を肴に、高志には満たされぬ性欲を自ら処理する件。往復するカメラが麻子に向いた隙に、タケルとアミが体位を変へる。地味に渋い如何にも裸映画的なカットの繋ぎ、に目を剥いた訳では無論なく、兵どもが夢の跡な事後。汚れた下着を脱いだ麻子が、取り出した換へのパンティに息を呑んだ。よくよく考へると予想の範囲内であつて然るべきにせよ、一連の異常な行動が、麻子にとつては日常であつたのかと、小屋の中で最初に仰天した。ついでといつては何だが特筆したいのが、仁科百華と普通に同世代に見えるハッチャケぶりを披露する中村英児。この人活動暦からいふと十二分にオッサンの筈にしては、二尻の原チャリで廃工場の門をブチ破るイヤッホーなファースト・カットの底を抜いた若々しさは、爆発的に笑かされた。“こんな家”と繰り返し訴へるほどの地獄性の描写には、尺が尽きたか不足も色濃いものの、体も心もポンコツなヒロインが閉塞した暮らしとストレンジャーとのめくるめく束の間の果てに、終にモンスターと化す驚愕の終盤。一体如何にケリをつけたものか、町子と仁志ならぬ麻子と宮守の別れを、単なるヒャッハーな裸要員に止まらせなかつたタケルとアミに介錯させる構成が改めて超絶。こゝも望月家のヘルさ加減同様、ケンジと何時の間にか近づけた距離はさて措き、ハッピーなのかバッドそれともマッドなのだか判らないエンド。にも、三番手の存在をさりげなく絡める秀逸。完璧だ、かういふ物言ひを軽々しく使ひたいものではないが、傑出した今作を傑作と賞さずして何といはう。畳み込まれ続ける何れも鮮やかなシークエンスと、リミッターをトッ外して加速する心理のスリリング。さうであつて仕方もない三本柱のエクセスライクを、微塵も感じさせない演出の強靭。後ろに巨大かつ荒涼としたコンビナートを置いた土手を、麻美が時にホテホテ歩き、時には颯爽と駆け抜ける映画的なショット感。覚醒後はブルーカラーの宮守をも凌駕する麻子の挙動を裏支へ、地味に高い節を窺はせる七海ななの身体能力。駄目だ、些か饒舌な劇伴以外には駄目な箇所が見当たらん。おいおいおいおい、勤続の十年選手ならば兎も角、十年ぶりに帰港した黒船に全部持つてかれてていゝのかよ。セカンドバージン墜とすのはナベか、もしくは順に大蔵・新東宝そしてエクセス、メイドロイド第一作(2009)で恐らく最後の三冠を達成した友松直之か。はたまた起死回生の松岡邦彦か、百合ダスが一段落ついた旦々舎か?2013年ピンク映画の構図は、城定秀夫を倒すのは誰かで決まつたといつても、過言ではあるまい。

 付記<五十音順にエクセス・オーピー・新東宝の三冠に関しては、のちの2015年に大蔵上陸したいまおかしんじと、当の城定秀夫が達成。2020年の石川欣の場合は順ににっかつ・新東宝・オーピーの三冠となるが、この人の場合浜野佐知らと同様、更にその前にミリオンもある実は四冠となる


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