真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「純愛夫婦 したたる愛液」(2003/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:五代暁子/原作:森山茂雄/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:小山田勝治/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中沢匡樹/監督助手:松丸善三/撮影助手:藤田朋生、他一名/照明助手:及川厚/出演:まいまちこ・高根綾・美奈・牧村耕次・竹本泰志・神戸顕一・JUDO中沢・北千住ひろし・松丸善三/特別出演:城春樹・野上正義)。出演者中、松丸善三は本篇クレジットのみ。
 ヤリ手営業マンの高瀬常夫(牧村)は、度を過ぎた辣腕が祟り敵を増やし、リストラされてしまふ。私物を整理し階段を不貞腐れながら下り際、かつての部下・森(竹本)からはこれ見よがしに邪険にされる。後姿の高瀬が、新橋駅へとトボトボ消えて行く画からタイトル・イン。明けて最初の濡れ場、ラブホテル(HOTEL アルパⅡ)で高瀬はホテトル嬢・風子(美奈)を抱く。経験豊富な風子に、高瀬はリストラされたことを見抜かれる。聞いた風な口を利く風子に対し高瀬は荒れる。ここで鼻につくのは、美奈の嬌声は少々わざとらし過ぎる。一ヶ月後、高瀬の再就職は難航してゐた。酔ひ潰れチンピラ(北千住)とぶつかりながらも帰宅、高瀬は鬱屈を妻・のり子(高根)にもぶつけると、半ば犯すやうに暴力的に抱く。次の朝高瀬が目覚めると、のり子は置手紙を残し家を出てゐた。とはいへ職探しに向かつた高瀬は、横断歩道を渡る最中、猛烈な事故音に身を硬くする。が、事故は高瀬の周囲の何処にも起こつてなどゐなかつた。カット跨いで更に翌日、高瀬が家を出ようとすると玄関先で、白いワンピースを着た正直アレな雰囲気の謎の女(まい)が、スヤスヤと眠つてゐた。目を覚ますといきなり「高瀬常夫さんですよね?」と切り出す女に対し、「何で知つてるの?」と高瀬が訝しむと、女は満面の笑みで「仕事ですから」と人を喰つたかのやうな答へを返す。ひとつここでツッコミを入れると、場所が玄関先であることを考へれば、表札を見れば高瀬の下の名前まで判る場合もあらう。
 人生の壁の前でもがく男の前に不意に舞ひ降りた、白尽くめの謎の女。男からすれば付き纏はれつつ、女は苦しむ男に寄り添ひ温かく激励する。終盤まで引張らずに結構中盤で完全にネタを割つてしまふことに関しては疑問が残るが、時折挿み込まれる何処か遠くを見やるやうなまいまちこのショットや劇伴の選択に、大人の御伽噺を志向した演出意図は明確に窺へる。デビュー作で瞬間的に感じさせた突破力は感じられないものの、四作目にして最も、といふか初めてお話はキチンと纏まつてもゐよう。公開当時m@stervision大哥が提出された、謎の女の適役は林由美香ではないのか?といふ指摘は確かに今作に対するクリティカル・ヒットであらうが、良きにつけ悪しきにつけ、抜け切らない硬さといふのが少なくともここまでの森山茂雄の持ち味ともいへる。当時仮に林由美香を連れて来たところで、例へばファンタジーの名手あるいは迷手渡邊元嗣や、艶笑譚に長けた深町章のやうに柔軟に、豊かに羽ばたくままに“天国に還る前の天使”林由美香を羽ばたかせることが果たして出来たのかといふと、些かならず疑問が残るところでもある。尤ももしもこの時点で森山茂雄が、林由美香が謎の女役で完全な輝きを放つ決定的な傑作をモノにしてゐたならば、現在のピンク映画少なくともオーピー映画の地図は、今とはまるで異なるものになつてゐたのかも知れない。
 
 分厚い出演陣が、地に足の着き過ぎたファンタジーを支へる。神戸顕一とJUDO中沢(中沢匡樹のことか)は、居酒屋で高瀬の悪口を叩く森の、向かひに座る同僚。松丸善三は、独りヤケ酒をあふる高瀬の背後で、偶々居合はせた風子にキレられる風子のヒモ。特別出演の城春樹は、謎の女の助言を活かし漸く再就職にこぎつけた高瀬の、再就職先の社長・坂田。野上正義は、のり子の父親。出演者クレジットは無いものの、高瀬とのり子との馴れ初めの回想シーンの背後に、女連れで飲む池島ゆたかも見切れてゐる。とりあへずこの映画、主役が新橋のサラリーマンだから仕方がない、などといつてしまへば元も子も無いのかも知れないが、何かといふと居酒屋が登場する。

 更にふたつツッコムと。のり子は謎の女に、「誰かが居ないと駄目な人なの」と夫を託す。そもそもなら家を出るな。謎の女は高瀬の再就職探しに、「プライドを捨てれば、絶対道は開かれるわ」と応援する。“開かれる”でも間違ひといふ訳ではないが、普通そこは“道は開ける”の方が自然ではなからうか。


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