真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「現代猟奇事件 痴情」(1992/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:鈴木敬晴/企画・製作:田中岩夫/撮影:稲吉雅志/照明:和泉洋明/音楽:フィス・ミュージック/編集:竹村編集室/助監督:青柳一夫/撮影助手:片山浩、他二名/監督助手:高田宝重/挿入歌:KINYA『エンドレス』/効果:協立音響/出演:浅野桃里・清水大敬・KINYA《友情出演》・牧村耕次・平岡きみたけ・栗原早記)。照明助手三名に全敗する。
 亡夫への慕情から死に急ぐらしい栗原早記と、訳の判らない観念を捏ね繰り回しながら歩く女装子。一応お断りするが、山﨑邦紀の映画ではない。殺すつもりはなかつたと狼狽し逃走する平岡きみたけと、女装子が擦れ違つたその先には、右足を始め体のそこかしこを拘束した作業用ロープを、首にまで巻かれた半裸の栗原早記が。既に半死といふのに、女装子に首を絞められた栗原早記が見せる、まるで欲情に潤むが如き表情を押さへてタイトル・イン。一筋縄では行かぬであらう気配だけは、この時点でひとまづ明らかとなる。
 港湾地域にて、OLの栗田幸子(栗原)が精神分析学の元東大臨時講師・小菅リュウイチ(これが女装子/KINYA)に強姦殺害される事件が起こる。編集長、兼不倫相手(清水)から女の視点での原稿を依頼された、ルポライターの森下カズミ(浅野)は行動開始。現場を取材するカズミの周囲に、付近で自虐的なトレーニングに体を痛めつける平岡きみたけが出没する一方、幸子がレイプされたのは実は二度目で、最初に幸子を犯した単純な常習犯・田中(牧村耕次/テレビの中の平キャスターの声も兼務)に接触した清水編集長は、幸子を強姦したのと、殺害したのは別々の犯人であるのではないかとする仮説を立てる。カズミが次第に幸子に自身を重ね合はせる、のも通り越し何故か同じタナトスに囚はれる最中、精神鑑定の際に病院から脱走した小菅は行方を眩ませる。
 七月の名作特選(緊縛特集)、八月の「新東宝名作痴漢特集」に引き続き、地元駅前ロマン九月の新東宝クラシック・ピンク枠(仮称)は、三本立ては組むことなく単騎で飛び込んで来た鈴木敬晴1992年第二作。尤も、本式の新版公開がガンガン昭和に突入する昨今、正直二十年前とはいへ最早然程古くもないが。実際に小屋で挑む前に、事前予習でもしておくかとグーグル先生に尋ねてみたところが殆ど全く何も出て来はしなかつたものの、日本ビデオ販売から発売されたVHSのジャケに踊る、“サイキック・ピンク!”なる恐ろしい文言には期待とは別の意味で胸を騒がさせられた。より直截には、大丈夫か?と悪い予感が鎌首をもたげた。さて蓋を開けてみると不安的中、“サイキック”要素の皆無などは可愛い瑣末。“サイキック”どころか、空理空論といふ意味合ないしは俗流用法での、観念論ピンクであつた。幸子の真実を追ふカズミが、何時しかミイラ取りがミイラになる展開は、濡れ場込みで尺がタップリと費やされるのもあり、過程単体は形を成さぬでもない。但し、肝心の幸子のエモーション自体の中身が、蒸し返されるくらゐでほぼ一切深化が図られることもないゆゑ、あれよあれよとカズミも死にたがる程度で物語にギリギリ血肉は通ふかも知れないが背骨は通らず、観てゐるこちらの気持ちとしては狐に抓まれるばかり。挙句に、独善的な魔人・小菅を野に放つておきながら、結局は姿を消したまゝカズミと遭遇を果たすでもなく、中途中の中途で尺が尽きてしまふ非感動的に唐突な結末には、仕出かされた!と逆の意味で万歳した、それはホールド・アップといふのだ。意図的に仔細を語ることなく、痒いところに手を届かせずに雰囲気だけで観させる、あるいは魅させる戦法も決してなくはないが、その場合にも今作の致命傷は、全篇を間断なく貫く画的な弱さもしくは貧しさはどうにもかうにも厳しい。菩薩の心を以て接する限りに於いては初めて微笑ましい、正逆をさて措けば破壊力の絶対値だけならば確かに小さくはない、クラクラ来ることは来る一作である。鈴木ハル名義も含めて、これで鈴木敬晴の映画を観るのは四本目になる。さうはいへども、各作の振り幅が大き過ぎ、なかなかその遣り口を未だ自分なりに固定出来ない。

 ところで、更に残る疑問が小菅役のKINYAは一体どのKINYA?コタニでもオカマでもなければ、無論小川でもない。当然、ジョナサンもな。


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