真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「こつてり奥さん 夫の弟もくはへて」(2004/製作:杉の子プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/撮影:前井一作/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/監督助手:嘉門雄太・下垣外純/撮影応援:広瀬寛巳/効果:梅沢身知子/出演:鏡野有栖・風間今日子・葉月螢・石川雄也)。協力を拾ひ損ねる。
 くたびれて眠る夫・坂田秀治(石川)を揺り起こしつつ、リサ(鏡野)は子作り機運一辺倒の夫婦生活に励む。最中で寝落ちてしまつた秀治が再び叩き起こされる件には、男性観客は涙を誘はれずにはをれまい。女の客が、存在するのかどうかは知らぬが。一切全く、存在しないことはないか。映画を観に来てゐる訳ではないか、もしくはニセモノの。事後、姑から教はつたとか、受精し易くなるやうにと逆立ちに汗を流すリサの姿に秀治が閉口する正にその時、秀治の母親から電話が掛かつて来る。堅実なサラリーマンである兄・秀治に対し、根を張らぬ生活を送る双子の弟・晴男(石川雄也の当然二役)から最近めつきり連絡がないので、一度秀治から電話してみて貰へないかといふのである。仕方ないなと秀治が連絡を取つてみると、その頃晴男は相変らず、テレクラで知り合つた西田婦人(風間)とラブホテルに居た。速水雪子(葉月)の泌尿器科で診察を受けた秀治は、無精子症であるといふ衝撃的な診断結果を受け愕然とする。即ち、リサが幾ら欲しがつたところで、本来の夫である秀治とセックスしてゐる限りは、子供は絶対に授からないのだ。そのことを妻には打ち明けられぬままに、心因的なショックからか、秀治は不能になつてしまふ。追ひ詰められた秀治は、正しく起死回生の奇策に辿り着く。同じ遺伝情報を共有する晴男に妻を抱かせ、妊娠させようといふのだ。実直であつた筈の兄の持ち出した箆棒に、晴男も最初は困惑するが、秀治の鬼気すら迫らんばかりの勢ひに押し切られる。
 種無しの男が、無邪気に子供を欲しがる妻の為に、結果的には堕ろさせてしまつたとはいへ女を妊娠させたこともある、双子の弟に妻を抱かせる。ストーリーの展開上セックスが不可欠であるといふ点で、如何にもピンク映画に相応しいプロットではあるともいへ、流石にこれだけでは、幾らほんの六十分とはいへ間が持たない。さういふ次第で、西田婦人発の晴男からの変則的なカウンターとして、晴男がリサを抱く一種の罪滅ぼしに、秀治も西田婦人と一戦交へるといふイベントも設けられるが、それにしても、矢張り未だ尺が満たぬ。実は電光石火、高速の手際良さを誇る新田栄にでも本気を出させれば、三十分でも釣りが来よう話の薄さである。といふ訳で杉浦昭嘉がのんびりのんびりと、繋ぎの展開を丁寧に水増ししながら撮つてみたところで、それでも全体的な間延び感は極めて強い。良くも悪くもマッタリした一作ではあるが、個人的にはこの人の映画とは肌が合ふので、嫌ふ種類のものではない。あくまでそれは、極々私的な好みに左右される領域の話でしかないのだが。温かい、白湯のやうな一作である。
 無精子症といふ診断後、再び秀治が雪子の医院を訪れた際、雪子は酒に荒れてゐた。交際してゐた看護士が、婦長との二股発覚後、二人して姿を消してしまつたといふのだ。といふ訳で俄然勿論酒の勢ひも借り、「ちやんとペニスが正常に機能するかどうか試してみませう」だなどと葉月螢の濡れ場が済し崩されてしまふのは、ジャンル上不可避の仕方なさなのでさて措くべきだ。寧ろ、せめて聴診器といふ小道具を後々に繋げた―まあ、然程重要な役割を果たす訳でもないのだが―部分に、シネアストたらんとした杉浦昭嘉の苦心、あるいは誠実の跡を窺ふべきであらう。ここで瑣末中の瑣末ながら重要なのは、雪子と秀治の絡みの馬鹿馬鹿しいことこの上ない導入でもセックス・シーン自体でもなく、荒れる雪子が呑んでゐた大吟醸の銘柄が、「大蔵盛」。いはずもがなではあるが、オーピー映画の旧社名は、大蔵映画である。ラベルも普通にしつかりした大蔵盛が、実在する―した?―酒なのかよく出来た小道具なのかは、残念ながら確認出来なかつた。ただ大蔵盛は今作の三ヶ月前に公開された、渡邊元嗣の「痴女OL 秘液の香り」(脚本:山崎浩治/主演:桜井あみ・星川みなみ)に於いても、星川みなみの部屋の中に登場し、こちらの方は強力にうろ覚えで清々しく自信はないのだが、三年後、加藤義一の「浪花ノーパン娘 -我慢でけへん-」(脚本:岡輝男/主演:岡本優希)中に、こちらも女医の風間今日子が何時も小脇に抱へてゐたのが、確か大蔵盛ではなかつたか。
 橋の上で晴男が兄からの電話を取るシーンの背後に、清々しく不自然に広瀬寛巳が見切れるのは、別に不要であるやうにしか見えない、ひろぽんファンの皆さん御免なさい。

 主演の鏡野有栖は、よく判らん譬へだが文学部か教育学部に籍を置き、平素からロリータ服を愛用してゐるやうなタイプで、間違つても“こつてり”としてゐる風ではない。対して風間今日子はといふと、いふまでもなく重量級で頑丈なコッテリ感を炸裂させるものの、西田婦人といふ以上一応奥さんであることは兎も角、喰らふのは男の兄ではある。


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