真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「信州シコシコ節 ♨芸者VSお座敷ストリッパー」(昭和50/製作:日活株式会社/監督:白井伸明/脚本:今野恭平/プロデューサー:結城良煕/撮影:安藤庄平/美術:大村武/録音:紅谷愃一/照明:新川真/音楽:奥沢散策/編集:西村豊治/助監督:加島春海/色彩計測:田村輝行/現像:東洋現像所/製作担当者:栗原啓祐/協力:浅草ロック座・信州ミカド/出演:秋津令子⦅新人⦆、丘奈保美、高橋明、島村謙次、木島一郎、谷本一、玉井謙介、水木京一、庄司三郎、吉川マリ、森みどり、宝京子、宝町子、宝高子、宝エリ子、宝ますみ、舞純子、ゼニー・アリス)。出演者中、玉井謙介から吉川マリまでと、宝町子から舞純子までは本篇クレジットのみ。ゼニー・アリスが、ポスターでは中点抜きのゼニアリス。音楽の奥沢散策は山本直純の変名である旨、日活公式サイトが白状か暴露してゐる。クレジットがスッ飛ばす、配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 舞台は戸倉上山田温泉(当時長野県埴科郡戸倉町と更級郡上山田町/現在は千曲市)、要は植生的に大して変らないのか、水上荘(山梨県甲州市塩山)みのある風景を、姥捨リンゴ園を営む通称・農協(玉井)が自転車で緩やかにダウンヒル。農協が向かつた先は、本日休診の尾呂志医院。通り過ぎても構はないといふか、寧ろ進んで目を瞑り通り過ぎるべきなのかも知れないが、昭和の無邪気なアグレッションが酷い。気忙しく出支度する尾呂志こと医者(島村)に、芸者の豊吉(丘)が腹具合が悪いだとかで診察の催促。舌と下を勘違ひした豊吉が尻を出して医者を待つ、導入でオッ始まる穏やかな世界観。丘奈保美(a.k.a.岡尚美etc.)のボリューミーな肉体が、底の抜けたシークエンスをも頑丈に支へきる。そんな最中、表の往来を何気に一周して―気づかないとでも思つたか―農協が医院に到着、医者は豊吉を生殺すのも厭はず飛び出して行く。その頃、こちらは上山田ブロイラーを営む通称・副団(木島)率ゐる上山田町消防団楽団に、本職は旅館の番頭であるサンブ(庄司)がカブで合流、団長が何処で何をしてるのかは知らん。賑々しい喧騒に、離れた展望台から谷本一が硬貨式の観光望遠鏡を向ける。誰もゐなければ、川と橋しか見当たらない殺風景さがある意味画期的なロングにタイトル・イン。
 配役残り、a.k.a.小森道子の森みどりは宿泊客である谷本一を名所に案内もする、サンブと同じ旅館の仲居・大下さん。農協と医者に副団を加へた、名士といふほど大層な大人物でもないが、町の名物的に御三家と括られる三人のお目当ては、当地にやつて来るストリッパーの宝京子以下、全員黒髪ロングにパンタロンの出で立ちがラモーンズ的な一族感も醸し出す宝京子一座(ゼムセルフ)、ではなく。鞄持ちに過ぎない、未だ駆け出しのベッキー・メロン(秋津)。ベッキーが当地でのみ―といふか御三家限定で―熱狂的に迎へられるところの所以に関しては、町子か高子かエリ子かますみから尋ねられた、京子姐さんは「この町は特別なのよ」の豪快な一言で片づけ、町の人間である、サンブも「どういふ訳だか」と測りかねてゐる様子。正体不明のフィーバーぶりといふのが、寧ろ真実味を増して来もする。水木京一は、普通に座長のファンである駐在。そして、何故か宮史郎みたいなヅラを被らされた素頓狂な造形を、後生大事に終始崩さない高橋明はサンブの客引きに捕まつた結果、谷本一と合流する形になる兄貴分の詐欺師・パイナップル。のちに芸能スカウトを騙る際の、固有名詞がOKプロモーションの西山、小川企画か。谷本一は、作詞家のカール谷本を名乗る。パイナップルと、カールの由来は語られない。舞純子は、信州ミカド劇場のステージでベッキーと百合を咲かせるハーセルフ。スト部が裸はガンガン見せても踊るだけゆゑ、尻までしか御披露なさらない、森みどりを幾分か過分に踏み込んだコメディ要員と看做すならば、脱いで絡みのある実質三番手にしてはポスターに名前を載せて貰へない、不遇が地味に否み難い吉川マリは副団との逢瀬に鳥小屋まで訪ねて来る仲の芸者・満子。ゼニー・アリスは、花電車担当のハーセルフ。といつて観音様で大した筆致でも全然ない平仮名を書いてみたり、綱引きする程度の他愛ないといつてしまへば他愛ない芸。その他楽団員や、ミカドの客席。リアル宿の従業員ならび芸者等々、そこかしこの現地民含め五十人でもきかないやうな、膨大な頭数がフレーム内に動員される。そんな中、そこにその人がゐる必要も必然性も一切全く一欠片たりとてない、身動きもしない老婆がまるで置物の如く背景のあちこちに配されてあるのが、モーション・ピクチャーの一部に絵画を捻じ込んだ趣で軽く前衛的。
 白井伸明昭和50年第一作は、全て今野恭平の脚本で「ふるさとポルノ記 津軽シコシコ節」(主演:川村真樹)と、「房総ペコペコ節 をんな万祝」(主演:星まり子)、年を跨いで三本連作した「ふるさとポルノ」第三弾。残念ながら、関西以西への 更なる南下は叶はなかつた模様。第一弾から順々に来て呉れると捗るのだけれど、実際封切りをリアルタイムに追ふのでなければ、小屋でさうさう上手く事が運んだ覚えがない。
 周囲からも理解されてゐない、謎の熱量で御三家がベッキーに入れ揚げる。田舎者の純朴な愛情に目をつけたパイナップルとカールは、サンブを手駒に引き入れた上で芸能関係者を装ひ三人に接触。一方、大浴場にてカールから調子を訊かれたパイナップル曰く、「例によつて、妹捜しの虚しい旅や」。稼業と並行して、右の太腿にビコーズ型の三つ黒子のある、幼少時に生き別れた妹をパイナップルは捜してゐた。スター誕生的な詐欺話に妹をたづねて三千里を絡めた、古典的かコッテコテの人情譚。目印が太腿の三つ黒子といふのは確かに特徴的であれ、まあ凄まじく見つけにくいよね、それ。
 裸映画的にはアバンで轟然と気を吐く丘奈保美を除いては、主演女優と吉川マリの濡れ場は案外淡白な反面、招聘に要した費用も窺ひ知れるのか、宝京子一座は尺もふんだんに費やし脱ぎ倒す。ミカドに於けるオープンショー時、至るところで飛び交ふプリミティブなオプチカルが、単なる法的規制の範疇を超え、軽く板野サーカス的な一種の壮観。往時はウケたのかアッパーもといアーパーなキャラクターは兎も角、手足の伸びやかな秋津令子の若々しい肢体は、スクリーンに大いに映える。逆に割と顕示的に頂けないのが、一座とゼニー・アリスも投入され臍を曲げた豊吉と満子は帰る、御三家が西山とカール谷山先生をもてなす宴席。隅々までディレクションが決して行き届いてはゐない、あちらこちらで誰かしらボサッとしてゐる粗は散見されなくもない。物語としては序盤の、超絶後々拾ひさうなカットを実際キッチリ拾ふ、最終的には一枚上手の女に、全員一杯喰はされる逆立した大団円に着地する全体的な構成は盤石。要は高々五百万ぽつちの金額と、パイナップル自身は素性どころか人相を垣間見てすらゐない、純粋に男といふだけの男。些かならず甘くはなからうかとも思へつつ、一旦全てを失つてなほ、妹の幸せを予感しパイナップルが僅かに頬を綻ばせる、高橋明の苦い笑顔が印象的。ラストで一点理解に遠いのが、手ぶらの単身で戸倉上山田を後にしようとする、パイナップルが「あいつらも、俺も、焼跡派」と一人言つ。御三家は元々明確に意識するアイデンティティにパイナップルも同調する、“焼跡派”なる世代論が端から甚だ輪郭の覚束ない概念につき、流石に昭和はおろか平成も改元されたこの期に触れる分には、なかなか酌み辛い時代の空気ではある。

 岡尚美はロマポにも出てゐたんだ、と見当違ひの酷い感興を覚えたものの。改めて調べてみるに、主には丘ナオミ→丘奈保美→岡尚美と変遷する―その後更に丘なおみ→丘ナオミ―過程の中で、この時期丘奈保美は日活の専属であつた。


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