「新妻奥さん 背徳の匂ひ」(1990『若奥様の生下着 いかせて!』の2008年旧作改題版/製作:シネマアイランド/提供:Xces Film/監督:光石冨士朗/脚本:永麻美/プロデューサー:千葉好ニ/撮影:福沢正典/照明:才木勝/美術:石毛朗/編集:菊池純一・田中小鈴/音楽:坂田白鬼/助監督:金田敬/監督助手:松岡邦彦・安藤尋/撮影助手:石山稔/照明助手:石田重/メイク:永江三千子/スタイリスト:星輝明/協力:大工原正樹、他八名/出演:五島めぐ・徳井優・伊藤猛・岡田以蔵・アマツヒロシ・中田礼美・藤ひろ子・佐野和宏・坂手洋二・小川美那子)。出演者中アマツヒロシは、ポスターには天津比呂志。
午後八時、渋谷トップのホテトル嬢・麻子(五島)は目覚まし時計に起こされると、相棒のオカマ・五郎(徳井)の運転するライトバンで客の下へと向かふ。五郎が急ブレーキを踏み、麻子の口紅は曲がつてしまつたところで、ブルースハープが鳴り始めタイトル・イン。その日の麻子の客は、右翼趣味の葬儀屋社長・加藤(アマツ)。その夜の麻子と加藤の情事に、以前麻子が客を装つた両肩に刺青のある男(岡田)に撮影された、強姦ビデオが重なる。定点ビデオ映像と通常撮影とを巧みに組み合はせた強姦シーンは、大きく動かせた演者が力強く捉へられてあり、開巻掴みの濡れ場としては迫力満点。監督第一作ながら、確かに培はれた光石冨士朗の地力がここでは光る。
風紀課刑事・織田(坂手)が、麻子の強姦ビデオを注視する。織田の妻・真由美(小川)も元ホテトル嬢で、同じく過去に強姦ビデオを撮られてゐた。真由美と織田はその裏ビデオの捜査が縁で知り合ひ、結婚した。真由美は、実は麻子の姉でもあつた。夫の様子に妹の異変を感じ取つた真由美は、昔の男・立花(佐野)のバーを訪ねる。立花に抱かれつつ、真由美は麻子が現在ホテトル嬢である事実を知る。それにしても、所々で目につく小川美那子の、清々しく時代に遅れたメソッドは果たして如何なものか。名前も美貌も申し分ないとはいへ、映画の背中を押すのか足を引張るのかといふと、些か微妙なところでもある。立花に大して抵抗も見せないのだが半ば手篭めにされながら、真由美がまるで白目でも剥くかのやうに、終始異常に上方の一点を見詰め続ける演技には途方に暮れさせられた。それとも、それは現代の目でみるからさう見えるだけであつて、1990年当時としては別にこれで問題もなかつたのであらうか。
その日は金曜日、目印のバラの花を手に街々に立つ男達の中から、麻子がその夜の客を選ぶ。バラを手にした真由美を見つけた麻子は、五郎に車を停めさせる。信号待ちで停車したところで、織田が麻子らの車に近付く。刑事の出現に、麻子は窓から逃げる。真由美は夫を激しく詰ると、妹を追ふ。程なく再び五郎と合流した真由美は、姉妹の故郷の、基地の町へと向かふ。
松岡邦彦や金田敬らの同時代の戦友・光石冨士朗のデビュー作。都度の繰り返しになるのは我ながら芸が無いが、新版公開に際しての、柔軟で強靭なエクセスの姿勢は大いに買ふところである。大雑把に一言で纏めると、姉妹のロードムービーとでもいつた風情にならうか。ひとつひとつの場面には丹念に力が込められ、濡れ場のある女優陣の粒も抜群に揃ひ、桃色の満足度も全く申し分ない。とはいへ、核となる姉妹の心情の描き込みがまるで不十分な為、最終的には物語に背骨が通らない。六十分をそれなり以上に満足して眺めてはゐられるものの、結果的には、どういふ映画かと問はれたならば、何だか判らない内にお姉さんと妹とが仲直りするお話、とでもしかいひやうがない。姉妹の関係が修復される件には、何となくの雰囲気だけならば兎も角何らの説得力は無く、続けての麻子と五郎の濡れ場にも、如何せんそれまでに二人の間に積み重ねられたものが特にある訳でもないので、どうにもクライマックスたり得ない。挙句に、姉が自分のことは棚に上げホテトル嬢の妹に説教でもする気かと思ひきや、相変らずのラストでは<主人公は米兵相手に自由闊達な売春婦稼業に精を出す>、などといふのは些かインモラルに過ぎる、といへば尻の穴の小さきといふ謗りを免れ得ないとしても、煙に巻かれたやうな気分にもなつてしまふのは無理からぬところであらう。昨今はバイプレーヤーのエキスパートとしてそこかしこで活躍する徳井優や、劇団「燐光群」主催の坂手洋二が登場する辺りは側面的な見所といへなくもないが、悪くは決してないものの、強くも一切ない一作である。
濡れ場を見せる訳ではない大ベテラン藤ひろ子は、姉妹の旧知の飲み屋のママ。中田礼美は、真由美の昔のホテトル仲間で、現在も現職の真樹。伊藤猛は、以前は真由美のヒモで、今は真樹のヒモといふゴキゲンなポジションの友成。
画面のそこかしこに見切れる恐らく協力勢は。織田の部下の若い巡査。金曜日の花・バラを手に、麻子からのコンタクトを待つ男が四人。立花のバーを訪れた真由美が、店先で擦れ違ふ男。基地の町の歓楽街で、(オカマの)五郎に声をかけ狼狽させるパン女、は普通にハクい。そして台詞も出番も十二分にある割には、出演者としてクレジットしては貰へない、結果的に姉妹をそれとは知らずそれぞれ軽トラに乗せる畠中養鶏所のウェスタン男が、これ江藤保徳か?
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