真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「懺悔-松岡真知子の秘密-」(2010/製作:ミュージアムピクチャーズ/監督・脚本:城定秀夫/製作:山田浩貴/プロデューサー:西健二郎、他一名/撮影・照明:田宮健彦/編集:城定秀夫/助監督:小南敏也/撮影助手:河戸浩一郎/演出助手:冨田大策/演出部応援:伊藤一平/エンディング曲:『落花流水』詞・曲・歌:松浦ひろみ/制作協力:レオーネ/出演:松浦ひろみ・石井亮・吉岡睦雄・福天・濱田マナト・神楽坂政太郎・津田篤・中村英児・蘭汰郎・しじみ・原紗央莉)。
 机上ではメトロノームが鳴り、生徒は好きなやうに騒いでゐる音楽室。変拍子の理論をか細く説明する音楽教師・松岡真知子(松浦)の授業を、生徒達は聞いてなどゐなかつた。放課後の職員室、ヒゲの学年主任(吉岡)がエロ本を校内に持ち込んでゐた濱田マナトと神楽坂政太郎を絞ると、二人はそれを、見るからに弱々しい北川(石井)の仕業にした。何事か訴へるか頼みたいらしき北川の相手もせず、そそくさと学校を後にした真知子はレンタルDVD屋に寄り帰宅する。家ではテレクラで助平男をからかつてゐた足の不自由な姉・景子(原)が、真知子の到着を察するや表情を極悪な不機嫌に一変させ待ち構へる。後に明かされる過去、かつては姉妹でピアノ演奏会を開いたほどの景子と真知子ではあつたが、ある時真知子に彼氏(中村)を寝取られる現場に直面した景子は、衝撃のあまりそのままその部屋の窓から身を投げ、死に損なふと同時に両足の自由を失ふ。以来景子は病院でのリハビリはおろか外に出ることも拒み、奴隷のやうに虐げる真知子に借りるなり買つて来させたDVDやマンガ雑誌、それにテレクラ遊びとで、絶賛ルーズでバイオレントな引きこもり生活を送つてゐた。ここで津田篤が、例によつてテレクラを通して捕獲し、景子が実際に自宅に連れ込んだ大学生。ところで瑣末のリアリティとしては、誰かの私物のノートを置いておけば済むだけの話なので、今時景子の部屋にPCは欲しいところではある。話を戻して眠剤を飲み景子が寝静まつた深夜、姉の映画と同時に借りて来た、アダルトDVDを見ながら自慰に耽ることが秘かな日課の真知子は、借りてゐるところを濱田マナトや神楽坂政太郎に目撃され騒ぎにもなりつつ、北川が改めて真知子に接触する。実は音楽大学への進学を希望するとの北川は、実技試験対策と称して真知子にピアノを教へて欲しいといふ。当初は拒んでゐた真知子ではあつたが、そこそこは弾ける北川の熱意に絆され、といふよりは心の隙間に滑り込まれ放課後のピアノ・レッスンを始める。やがて二人は教師と生徒といふ間柄から女と男の関係へと内側に跨ぎ、三年生を受け持つ真知子は、景子には進路指導なり三社面談と偽る、帰りの遅い日々が続く。とはいへ真知子の底の浅い嘘は、ほどなく学校に電話を入れ確認した景子に露呈してしまふ。攻撃的に憤慨する景子は、色気づいた妹がつい買つて来た新しい洋服を鋏で切り裂くと、急遽その場でテレクラを介し捕まへた男(福天)を殊更に露出過多な格好をさせた真知子に迎へに行かせ、自分が見てゐる前での、情は交はらない性交を強要する。ところでこの福天といふ人が、簡単にいふとホンジャマカの石塚英彦のやうな大男で、小柄で華奢な松浦ひろみとの絡みではアメイジングに遠近法を狂はせる、プリミティブな映像マジックを見せる。
 そもそもVシネである点に関しては、形式的な事柄と大胆にさて措き筆を進めるが、娯楽映画としては、少々厳しいといつていへなくもない。二段構への罪悪感と、それを笠に着た加虐と抑圧とに支配された姉妹の関係は基本的に暗過ぎて、重過ぎる。尺の満ちた物語が、明確な着地点なり、明快な解放もしくは開放を迎へる訳でも別にない。放課後の音楽室での真知子と北川との情交は情熱的かつ正常に扇情的でもあるものの、少なくとも順番上最後の濡れ場を、女の嘔吐で中途に終らせてしまふ等、カテゴリー上の要請には反し我々の腰から下が司る劣情に対して、間違つてもそれほど優しくはない。問題行動であらうと思ふが、放課後度々音楽室の窓から紫煙を燻らせる真知子は、ある日傍らの北川に意図を語る。この火の点いた煙草は爆弾で、それをそのまま窓の下に落とせば、世界が終ると。真知子の秘められた熱情を示す、繰り返される重要なシークエンスの割には、画面から窺ふに恐らくプライベートでは喫煙を嗜まないであらう松浦ひろみに、吸ひ方を仕込まなかつた厳密にいふならば横着は、矢張りどうしても微妙な不自然と響かない筈もない。ピンクの感覚で考へると、この手のソフトのタイトルを素直に真に受けること自体が考へものであるやうな気もしないではないが、よしんばそれが歪んだものであれ何であれ、劇中世界の均衡を瓦解させるほどの、決定的なそれまでは全く未知の情報である“秘密”が、懺悔されることも特にない。だが、然し。一見閉塞した環境に従順に圧殺されてゐるかに見えながらも、真知子は平素押し沈めた力強い輝きを、終に失ふことは決してない。音大受験などといふのは要は殆ど方便で、下心で以て真知子に接近した北川のピアノは、まるで上達しない。そんな男子生徒を、血相を変へるやうに真知子が凛と声も張つた強い口調で難詰する場面。ピアノ演奏の良し悪しを聞き分ける耳は持ち合はせぬが、ひとまづの落着を経てのオーラス。北川は閉め出した音楽室で、真知子は一人羽ばたくやうに鍵盤に指を走らせる。ある意味それこそが最たる虚構であるともいへるのか、苛烈な日々に置かれてなほ、真知子の翼は、未だ潰えてはゐなかつた。人生といふバトルロワイアルを戦ひ抜く上での、“ピアノ”といふ得物を持つた真知子の屈せぬ強さは、目下の全方位的な袋小路の中で、観る者に確かなサムシングを与へるに相違ない。松浦ひろみか原紗央莉の裸で一発ヌイて、ついでにお話も面白ければ儲けもの、その程度の認識で見始めれば良くて面喰ふか、悪くすれば途中で停止ボタンを押してさへしまひかねないのかも知れないが、過去の実績からしても城定秀夫が幾らでも撮れるであらう娯楽作を封印して挑んだ一作は、さりげなく時代も撃ち冴えて頑丈な、裸で勝負しない裸映画である。どうやら邦画界が壊滅的状況にあるらしい昨今、城定秀夫自身の姿をも劇中の松岡真知子にオーバーラップさせるのは、素人考へにしても下衆に過ぎるであらうか。

 配役中残り、ex.持田茜であるしじみは、音楽室の窓から真知子と北川に見られてゐることにも気付かずに、建物の陰で青姦に勤しむ二組のアイバさん。顔が正面から抜かれないがビリングも踏まへた消去法から蘭汰郎が、本当は三組の坂上さん(登場しない)が好きなのに、ヤラせて呉れるアイバさんを抱く同じく二組のヨシカワ君か。津田篤はまだしも、中村英児の出演シーンは回想演出といふことで残像を引き摺りつつカットの間を飛ばす画像処理が施され、しじみに至つては、ギリギリその人と判別出来るか出来ないかの豪快な―しかも上からの―ロング・ショットである。城定秀夫の顔で連れて来たのであらうが、津田篤・中村英児・しじみの三者の起用法には、豪勢な贅沢さも感じさせる。


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