真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻催眠 濡れつぼみ」(2001/製作:杉の子プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/撮影:藤原千史/照明:吉田豊宏/編集:酒井正次/助監督:増田庄吾/出演:里見瑤子・桜沢夕海・池谷紗恵・ホリケン・幸野賀一・カレーライス、他)。※協力で女一名男三名がクレジット、後述する。
 精神科で催眠術による治療を受ける少女、ジッポーの炎で、風呂に入る暗示をかけられる。すつかりそのつもりで服を脱ぎ、少女はくつろぐ。精神科医の暗示で、浴室に父親が入つて来る。少女は慌てて肌を隠し、羞恥に身を硬くする。父親に続いて兄が、従兄弟が、親戚中の男達がやつて来る。両手を頭の上に縛り上げられ、男達の手が少女の体中を蹂躙する。固く閉ぢ合はせた両足は父親の強い力でこじ開けられ、無理矢理に父親が少女の体内に入つて来る。実際には少女を犯してゐるのは精神科医で、その模様はビデオで撮影されてゐた。刑事の五十嵐(幸野)は催眠状態にある女を強姦する裏ビデオの犯人を追ふが、捜査は難航する。仕事に疲れた五十嵐は妻・淳子(里見)の求めにも満足に応られず、淳子は欲求不満を持て余してゐた。淳子は友人の恭子(桜沢)に誘はれ、お茶会と称した貧相なホーム・パーティーに参加する。淳子はそこで、催眠療法を専門とする精神科医・大島(ホリケン)と出会ふ。
 犯人は初めから割れてしまつてゐるので、サスペンス要素が発生する余地はない。大島がかけた催眠術と偶々その時テレビで放映されてゐた映画―杉浦昭嘉の自主映画?―とが交錯するクライマックスは、演出力は伴はないもののアイデアとしては悪くはないが、全般的には一応の体だけは為してゐる物語がのんべんだらりと右から一昨日へと流れて行く凡作である。自脚本でありながら、展開にちぐはぐな点も一つ大きく見られる。
 その中でも、といふか凡作ながらに突出した威力を誇る今作の決戦兵器は、催眠療法を受ける不登校気味の女子高生・千秋を演じる池谷紗恵。二度目の登場では、千秋はネズミになる暗示をかけられる。全裸で小首を傾げながら「チューチュー♪」鳴いてみせる池谷紗恵は、何と言つたらいいのか、必殺とでもしか称へやうがない。大変魅力的な女優さんであつたのに、伝へ聞くところによると交通事故に遭ひ体を壊し、引退されてしまつたとのこと。残念である、今は健やかにお過ごしなのであらうか。
 協力でクレジットされる女一名男三名は、ホーム・パーティーに参加するその他面子か。ホーム・パーティーとはいへ展開されるのはハウス・スタジオの何といふこともない居間で、杉浦昭嘉の身の回りの人間を適当に見繕つて来たかのやうな面々で繰り広げられるだけである。ただでさへ貧しい映画を、悪い方向に加速してしまつてゐる。カレーライスは五十嵐の同僚・長野、他に刑事役で登場の数名はスタッフ勢か。内トラに関しても、協力の四名と全く同じことがいへる。最終的には杉浦昭嘉の演出力の貧弱さに起因するものであらうが、ピンク映画の構造的な貧相さが、如実に現れてしまつた一本ではある。
 尤も、ささやかでか細くも、穏やかなエモーションを惹起する音楽といひ、実のところは杉浦昭嘉の映画は決して嫌ひではない。今回も、あんまりよくは覚えてゐなかつたので、観るまでは期待して小屋に足を運んだものである。最終的には体力に欠くゆゑ杉浦昭嘉は間違つても大成する映画監督ではないであらうし、決して前に出て来る、時代にその名を刻むやうな映画でもない。とはいへ出来損なつた商業映画を、慎ましくも穏当に志向するこの人の映画は個人的には案外満更でもない。出来損なつてゐることに関しては、基本的な欠如によるものなのでそもそも言つたところで仕方がない。最早何を言つてゐるのか自分でもよく判らないが、世界の片隅に、杉浦昭嘉の映画はあつてもいいやうな気がする。


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