真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 柔らかい肌」(1990/企画・製作:《株》メディアトップ/配給:新東宝映画/監督:鈴木敬晴/撮影:稲吉雅志・青木勝広・伊東伸久/照明:佐久間優・大塚俊彦/助監督:近藤亮一・増村広/音楽:山田紋次郎/編集:酒井正次/録音:銀座サウンド/効果:東京効果/現像:東映化学/スチール:木島保夫/制作:山本洋司/出演:滝沢薔・伊藤舞・江藤保徳・中根徹・田代葉子・杉下なおみ・石田琴・伊藤清美・下元史郎)。巨大なモザイクから察するにビデオ版のタイトルには、頭に滝沢薔を冠する。そして鈴木敬晴の筈の、脚本クレジットが抜けてゐる。
 駅のホームでスーツ姿の江藤保徳がおめかし、大学六回生にして漸く就職活動中の岡本保夫(江藤)は、混み合ふ車中密着した女の色香に通勤ラッシュを満喫する。電車が揺れた弾みで、ノースリーブの女の腋に鼻を突つ込んだ保夫がほくそ笑んでタイトル・イン。保夫は就活もスッぽかしついて行つた滝沢薔に痴漢、一方何かマスコミ勤務の大久保課長(下元)も、背中合はせの同社アルバイト受付嬢・陽子(伊藤)に痴漢する。そんなザマでは当然就職戦線は難航する中、保夫の部屋を従兄でエリート銀行員の佐々木銀二(中根)が本当に強襲。取引先の社長の娘との結婚話が持ち上がつただとかで、同居する同僚の恋人・めぐみ(滝沢)を保夫に押しつける。そこに現れた保夫の彼女である陽子は当然難色を示すものの、銀ちやん銀ちやんと頑なに銀二を慕ふ保夫は、一向に聞き入れない。
 配役残り、伊藤清美が件の社長令嬢・美代。箱には蓋がなかつたのか、見合の席から連れ込みに直行する。田代葉子は電車痴漢を仕掛けた保夫を捕獲し痴女行為を愉しんだ上で、面接会場にて再会する女、ラストでは銀二と対戦する。元々初見の名前の石田琴にせよ杉下なおみにせよ、その人と判明する形で抜くカットが存在しない為、二人とも―開巻の腋嬢やラストの大久保のお相手含め―特定不能。
 さて鈴木敬晴(ex.鈴木ハル)1990年第二作にして、鈴木敬晴名義第一作。保夫にめぐみを押しつけた銀二は美代との縁談に野心を燃やし、めぐみの登場に臍を曲げた陽子に、大久保が食指を伸ばす。三対三デフォルトの布陣が上手い具合に交錯する枠組はよく出来たものながら、最終的な結果は然程でもなく芳しくはない。清々しいまでの愛の嵐が微笑ましいプレイ自体は素晴らしい出来ゆゑさて措き、保夫がおとなしくめぐみを引き受けたことに荒れ、泥酔した陽子を大久保が回収する件の脈略は完全にスッ飛び、中盤の頭で―そもそも、その人と知らず大久保が陽子に痴漢する辺りからへべれけなのだが―ひとまづ物語の底が抜ける。軟派な保夫とギャーギャー高圧的な銀二、加へて大久保は妙に不安定とあつては、魅力を欠いた男優部の造形は総崩れ。何より致命傷は、滝沢薔と伊藤舞のポテンシャルの大差が、保夫が―何故か―めぐみに心を移すところから展開を全く支へきれてゐない。それぞれが一応それぞれの道を進む結末、処遇に窮した登場人物はアメリカに放り込んでしまへといふダサさは、時代を鑑みると百万歩譲れば呑み込めなくもないとしても、中途半端に映画を愛したオーラスには失笑なり苦笑を禁じ得ない。鈴木敬晴の多種多様の整理を試みる上では、「昼濡らす人妻」と同様の面白くなささへ平板な一作である。


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