真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「偏差値 H倶楽部」(昭和62/製作:フィルム・シティ/提供:にっかつ/監督:すずきじゅんいち/脚本:菅良幸/原作:愛川哲也《実業之日本社・週刊漫画サンデー連載》/製作:福岡芳穂/プロデューサー:鶴英次/企画:塩浦茂/撮影:志賀葉一・三浦忠・中松俊裕/照明:岩崎豊・斉藤久晃・小野英仁・佐藤武/音楽:田村俊介/編集:鈴木歓/助監督:渡辺努・秋山豊・荒木太郎・片岡亨/メイク:大西聖子/スチール:石原宏一/車輌:東京ロケサービス/現像:IMAGICA/録音:ニューメグロスタジオ/製作担当:中村哲也/製作進行:井上淳一/出演:杉田かおり・山上千恵子《新人》・菊次朗・手代木曜祐・鳥海俊之・当山彰一・遠藤沙弥・高橋靖子・清水大敬・沢田遊吾)。
 愛川哲也のイラストでタイトル開巻、ブルーバックにクレジットが入る“とある町に新任の先生がやつて来る・・・・”。それ、要る?兎も角翌陽高校に赴任する、立花美由紀(杉田)がポンポン小舟の舳に立つファースト・カットに大悶絶。家族ゲームかよ!と脊髄で折り返すまゝツッコんでみせたところで、そろそろ伝はらない世代の方が過半数を占めて来るのかも知れないけれど。明治大正はおろか、昭和さへ―家族ゲームが58年―遠くなりにけり。閑話休題、“北総の小江戸”として知られる水郷・佐原(千葉県香取市)ら辺に美由紀が上陸すると、然程悲壮感は感じさせない悲鳴が。すは美由紀が駆けつけると、セーラー服女子高生の観音様に、御丁寧にもギターまで背負つたカウボーイ扮装の男が手を突つ込んでゐる。美由紀はカウボーイを圧倒、女子高生を逃がすが、カウボーイは翌陽の熱血教師・久米幸一(沢田)で女子高生は久米が担任の、盗んだ菓子をパンティの中に隠した万引き常習犯のトシ子(山上)だつた。
 配役残り手代木曜祐は、無闇に身体能力の高い翌陽のリーゼント・雷三。本多抜きの菊次朗は体育倉庫にて、巧みな指戯で女子高生(遠藤)を責める風間俊一で、鳥海俊之がそれを見てゐるだけの小林賢。賢は美由紀が下宿する、「佐久間旅館」の倅でもある。清水大敬とa.k.a.亜希いずみの高橋靖子は、翌陽の校長と、校長室で毎朝豪快な不倫の逢瀬をキメる、担当科目不明の園田まり子、美由紀は多分国語かな。亜希いずみが清水大敬のアクと圧の強さに一歩たりとて引けを取らず、絡みが竜虎相搏つ凄い迫力。最前列にウルトラ可愛い娘がゐる3A要員のほか、荒木太郎が生徒部で無駄に都合二度見切れるのも通り越し、明確にピンで抜かれるのには全体何の意味があるのか。美由紀と久米の大絶賛青姦を匍匐前進で覗きに来る、大部屋系いはゆるイイ顔の警察官は不明。当山彰一は恋も職も失ひ失意の美由紀に、新天地をもたらす聖フェラチオ学園のイケメン高校生、聖フェラチオ学園て。気を取り直して当山彰一がex.大野剣友会、目下も郷里の沖縄で活動中。最終的には映画ごと流れ過ぎて行くプログラムピクチャーの領域にあつて、芸歴の長い現役勢を見かけると偶さかホッコリする。
 主演三本と二番手一本、実働大体一年の短い活動期間を駆け抜けた―アダルトビデオもあるらしい、狂ほしく見たい―絶対巨乳・杉田かおりの最終戦は、昭和56年にデビュー後、59年にはにっかつを既に離れてゐるすずきじゅんいちの昭和62年第二作にして、通算第九作。原作は、名前も画にもまるで覚えのない愛川哲也の青年マンガ。といふか今回初めて知つたのが、若年層のロマポ離れ対策にマンガを原作に戴いた「コミック・エロス」企画の一角として、今作は「若奥様のナマ下着」(製作:雄プロダクション/監督:石川欣/脚本:加藤正人/原作:大地翔/主演:小沢めぐみ)・「HOT STAFF -快感SEXクリニック-」(製作:フィルム・シティ/監督:加藤文彦/脚本:岩松了・加藤千恵/原作:大島岳詩/主演:岸加奈子)との三本立てで封切られてゐる。そんな企画あつたんだといふのと、幸か不幸か双方ex.DMMで見られるゆゑ、ぼちぼち一回忘れて思ひだした頃合ででも見てみる。
 ほどなく―翌年六月―ロマポ自体が終焉し、「コミック・エロス」は結局一発限りの徒花企画。それでは、もしくはところで。マンガ原作で如何なる買取系が仕上がつたのかといふと、ほか二作は未見につき知らないが、まあこれが、直截にマンガみたいな映画なんだなあ、どちらかといへばいい意味で。青春アディクトの久米を筆頭に戯画的なキャラクター造形と、実写でやつてのけるのは如何せん些か厳しい、クリシェやテンプレも恥づかしくて顔を隠すにさうゐないコッテコテな描写のオンパレード。怪我の功名で面白いのが、最終的には御愛嬌かぎこちないお芝居が他を圧倒する美貌に追ひつかない、杉田かおりがそのマンガマンガした世界に奇跡のフィット。家風呂にしか見えない佐久間旅館の浴場、歌まで下手な美由紀が「兎のダンス」を歌ひながら、お乳首様なり御御トリスを「チョンチョン♪」と戯れに突いて喜悦に軽く震へるゴミのやうなシークエンスが、何故だか素晴らしくて輝かしくて仕方がない。久米の出自を知り破天荒な岡惚れを爆起動させるまり子と、美由紀がまさかのスピリチュアル対決で激突する驚愕の超展開クライマックスには、流石に素面で呆れ返つた、もとい度肝を抜かれた。ところが、あるいは寧ろ。馬鹿馬鹿しい限りの一幕を突破した果てで、真面目にギアをトップに入れたすずきじゅんいちが堂々とした正攻法で撃ち抜く、杉田かおりと沢田遊吾の濡れ場は手放しで比類ない完成度。そして高橋靖子と山上千恵子に並走させる、ジェット・ストリーム・アタックも裸映画的に全く以て磐石。幾ら何でも粗雑な一件の結末から、オーラスはよもやまさかのアマゾン。豪快な着包みみをも繰り出した上で、締めも愛川哲也の美由紀イラストに“つづく”とか締め括つてのける邪気のないふざけ具合が、グルッと一周して百点満点。尤も、当初はもしかすると本気で続篇も視野に入れた心づもりか皮算用であつたにせよ、結局、続きはしなかつた。のだが、概ね半年後に矢張り愛川哲也の原作で、本隊ロマポの「小林ひとみの令嬢物語」(昭和62/監督:池田賢一/脚本:斉藤猛/主演:小林ひとみ)が製作されてゐたりもする。のに加へ、実は「偏差値 H倶楽部」の以前にも、「部長の愛人 ピンクのストッキング」(昭和61/製作:ニューセンチュリー・プロデュサーズ/監督:上垣保朗/脚本:木村智美/原作:本間正夫・愛川哲也/主演:水島裕子)が先行してゐるとなると、この頃、もしかすると愛川先生はプチ篠原とおる的な状態なり扱ひにあつたのであらうか。とまれ、マンガみたいな六十分強をサクッと見させて、あとには一欠片の余韻も残さない。ラーメンでも、食つて寝るか。といふのもそれはそれで、娯楽映画のひとつの到達点であるやうに、常々思へる。

 付記< 「小林ひとみの令嬢物語」のポスターに、“COMIC・EROS”の文言は一切見当たらない


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