酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「小三治・三三親子会」、そして「円生と志ん生」~落語で暖を取る日々

2014-02-22 20:59:48 | カルチャー
 山口県といえば、上関原発建設中止を求める祝島の闘いが脱原発のシンボルになっている。安倍首相の地元に乗り込むとの臆測もあった小泉氏だが、県知事選では何のアクションも起こしていない。宇都宮氏に投票した俺でさえ元首相の発信力に期待している。細川氏を支持した方は失望を覚えているのではないか。

 五輪にもフィギュアにも無関心の俺だが、浅田真央には注目していた。妹が生前、「真央ちゃん」をわが娘のように応援していたからである。集大成となるフリーの演技に感銘を受け、天国の妹に思いを馳せた。妹だけでなく多くの人々を勇気づけてきた希代のスケーターに対する森喜朗氏の暴言(=本音)に、震えるような怒りを覚え、同時に悲しくなった。利に敏く人情の機微に疎い男を首相の座に押し上げたのは、他ならぬ我々だった。

 都内の公立図書館で250冊以上の「アンネの日記」が破られた。欧米のグローバルスタンダードに刃を突き付け、日本の独自性を主張するグループによる意思表示だろう。これもまた、〝日本的〟の一形態かもしれないが、俺とは志向が真逆だ。俺にとっての〝日本的〟とは多様性、調和、そして寛容の精神である。

 感性が和製化しつつあるアラカン(57歳)の俺が親しみを覚えるのが、ファジー、アバウト、ピンボケ、怠惰なキャラが闊歩する落語である。先日(18日)、「柳家小三治・三三親子会」(川口リリアホール)に足を運んだ。三三の演題はWOWOW特番、花緑との二人会、正月の鈴本と4回続けて「締め込み」だったので、眠気を覚えてしまった。

 年齢層が高いこともあり、寄席での睡眠率はかなり高い。「お目当て(トリ)までたっぷり時間があります。楽になさってください」は出番の早い落語家の決まり文句だが、笑い疲れてトリの時間に爆睡している客も少なくない。裃と無縁の落語では、幕が下りる頃に覚め、「寝ちまったか」と頭を掻くのもありなのだ。

 一門の出囃子を担当している柳家そのじは、着物が似合う柔らかな雰囲気の女性だった。東京芸大邦楽科卒業で、太田そのの名で三味線師として活躍中という。舞台裏で三味線に合わせて太鼓を叩いていた三三は、なかなかの芸達者である。

 満を持して登場した小三治は、ソチ五輪などを枕に笑いを取り、自身が酒に強くないことを明かした上で、「禁酒番屋」に流れていく。同行した知人はファン歴が長いが、生で聞くのは初めてだったという。テンポといい、間といい、豊かな表情といい申し分ない出来栄えで、大ホールに笑いの渦が起きていた。74歳と高齢で体調維持は大変だと思うが、一日でも長く高座に上がってくれることを願うばかりだ。

 小三治クラスになると比較されるのは過去の名人で、最たる例が戯曲「円生と志ん生」(井上ひさし)に描かれる二人だ。円生の高座はTBS系スカパーで何度も放映されているが、志ん生の映像は殆ど残っていないから、CDで至芸に触れるしかない。型破りの志ん生と正統派の円生、融通無碍の志ん生と自分にも他人にも厳しい円生……。両者のイメージは正反対だ。

 空襲を逃れるため満州慰問団に加わる際、志ん生は弟分の円生を誘う。酒は飲み放題で佐官クラスの扱い……。天国のはずの満州は、関東軍が脱兎の如く逃げ帰った後、一変する。他の在留邦人同様、二人は塗炭の苦しみを味わった。

 抑留時代の志ん生と円生を描いた本作は、こまつ座75回公演として05年2月、紀伊國屋ホールでお披露目された。孝蔵(志ん生)を角野卓造、松尾(円生)を辻萬長がそれぞれ演じている。演劇の世界の仕組みはわからないが、再演されたらぜひ見てみたい。

 10歳年上の孝蔵は破滅型で、一方の松尾は堅実派だ。愚兄賢弟ぶりがおかしく、落語そのものの台詞回しに、井上の反戦の思いがちりばめられている。孝蔵と松尾は「文化戦犯」として追われ、娼館に身を潜めることになる。酒や賭け事に溺れ、帰国費を騙し取られて路上生活に転落する孝蔵と対照的に、松尾は俳優として稼ぎ、隠れ蓑として偽装結婚する。生活者としての能力は格段の差があるが、落語に関しては孝蔵が松尾にて教える側だ。

 文学少女の弥生が店番をする喫茶店のシーンが印象的だった。孝蔵が「三代目柳家小さん落語全集」を松尾に手渡す時の会話を聞いていた弥生は、次のように話す。

 <二葉亭四迷は円朝の落語を聞いて、言文一致体を発明しました。(中略)そしてわたしの漱石先生は、三代目小さんの噺をもとに、新しい小説の文体をつくり出した……>

 牽強付会の部分もあるだろうが、井上は落語史を深く学んで本作を書いたのだろう。孝蔵と松尾が修道女たちに聖者と勘違いされる場面では、トンチンカンな会話に落語の本質が滲んでいた。

 帰国した志ん生と円生は、ラジオの普及もあって大ブレークする。不断の精進に加え、辛酸を舐めた経験が芸の肥やしになったことは想像に難くない。

 来月2日は「渋谷に福来たる」で、「古典モダニズム」と題された立川志らくと桃月庵白酒の二人会を見る。志らくの才気と毒、白酒のダイナミズムのコラボの妙を楽しみたい。
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