酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

藤井聡太、「凱里ブルース」、そして斎藤幸平~コロナの夏のカルチャーな週末

2020-07-01 22:18:51 | カルチャー
 宇都宮健児候補が発表した「総合政策集」を一読した。アフター・コロナを勘案すれば、弱者に寄り添ってきた同候補こそ都知事に相応しいことを再認識する。〝日本のバーニー・サンダース〟に奇跡が起きるか。

 先週末はイメージ・フォーラムで中国映画「凱里ブルース」(2015年、ビー・ガン監督)を観賞し、第3回オンラインセミナー<気候危機とコロナ危機 新しいシステムを求めて>(グリーンズジャパン主催)で学び、棋聖戦第2局を堪能した。
 
 まずは藤井聡太七段が渡辺明3冠に挑戦した棋聖戦から。藤井が永瀬拓矢2冠を破って挑戦を決めた対局を、飯島栄司七段は<芸術の域に達している>と解説していた。棋聖戦第2局では藤井の3一銀が<AIを超えた超絶の手>と称賛されている。藤井だけではなく、トップ棋士の鮮やかな指し手に接することが出来る幸せを実感している。

 昨年度のベストワンに挙げた「象は静かに座っている」(18年、フー・ボー監督)に圧倒された。フー・ボーが命を絶った今、中国第8世代の旗手、ビー・ガンへの注目は増すばかだ。「象は――」には冒頭から心を掴まれ、ヒリヒリした緊張感を保ちながら4時間を過ごした。睡眠不足もあって意識が飛び、夢の中で夢を見るように「凱里ブルース」を観賞した。

 ビー・ガンによる詩と瑞々しいイメージショットが全編に挿入され、物語は時空を往き来する。本作を<映画におけるマジックリアリズムの精華>とする評価に納得した。後半の40分に及ぶワンテイクで、見る者は現実と過去、此岸と彼岸の境界を彷徨する。俺もまた、自分の来し方とスクリーンの光景を重ねていた。

 低予算の自主映画が世界を瞠目させた背景に中国の文化戦略があるが、ビー・ガンは遠からず<自由についてのグローバルスタンダード>と向き合うことになるだろう。共産党の飼い犬になるか、野良犬になって国外に出るか……。そんな選択を迫られるはずだ。近日中に長編第2作「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」を観賞する予定だ。

 藤井は17歳、ビー・ガンは30歳、そしてオンラインセミナーで講演した斎藤幸平大阪市大准教授は33歳……。若き天才たちの輝きに感嘆させられたカルチャーな週末だった。

 斎藤はマルクス・ガブリエルの「NY思索ドキュメント」(NHK・BS1)に同行し、編著を担当した「未来への大分岐」(集英社文庫)ではマイケル・ハート、ポール・メイソン、上記のガブリエルと対話している。今回のテーマは<ポスト資本主義とグリーンニューディール(GND)>だ。

 壁崩壊から30年後、世界はどう変容したかが斎藤の問題意識だ。格差と貧困、リーマン・ショック、気候変動、ポピュリズムの台頭と民主主義の危機にパンデミックが加わった。分断が進み格差が進行するのか、平等や自由に価値を置く社会になるかの分岐点を今、世界は迎えている。

 GNDを、大型財政出動や公共投資によって高賃金の雇用を創出し、景気を刺激する<成長戦略>と見做す改良派と対照的に、斎藤やナオミ・クラインは<GND=ポスト資本主義>と位置付け、気候変動とリンクした自由、平等、連帯、持続可能性を掲げる「エコ社会主義」を見据えている。

 グレタ・トゥーンベリの「無限の経済成長はお伽話、現在のシステムの中に解決策が見つからないなら、システム自体を変えるべき」との言葉に斎藤は同意し、「経済規模を拡大しながら二酸化炭素排出を削減することは困難」と主張する。あえて<脱成長>を用いない理由は新著で明かすという。

 新自由主義の在り方を変える好機とみる斎藤は、管理・調整•地域雇用の必要性を説き、ローカルな規模での生産や消費の重視、格差是正のための独占資本や富裕層への課税を挙げる。気候危機に対応するため、採取主義から脱却し、人間と自然の物質代謝のあり方を修繕した「コモンとしての地球」を見据えている。

 先進国に都合のいいGNDが途上国の環境破壊をもたらすことを、チリを例に挙げて説明していた。電気自動車に用いられるリチウムの採掘が凄まじい勢いで地域の生態系と産業を破壊するのだ。先進国の〝グリーン〟な経済成長を優先すれば、自然破壊は止まらず、新たなウイルスの出現にもストップがかからない。

 気候正義実現のためには、先進国の生活そのものを変えなくてはならない 。うわべだけのGNDの反緊縮・技術楽観論は目くらましに過ぎず、誰のためのGNDかを見失わせることに繋がる。ポスト資本主義を射程に収めたGNDを唱ることが構造を変えることになると斎藤は結論付けた。

「おまえ、ホントにわかっているのか」と問われたら返す言葉もないが、当ブログではこれまで反グローバリズム、気候危機、ローカリゼーション、脱成長に関して繰り返し記してきた。十分とはいわないが、ある程度は理解出来たと思っている。書き切れなかった点は次稿に回したい。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「コリーニ事件」~<法を超... | トップ | 相対主義、公正世界仮説 ウ... »

コメントを投稿

カルチャー」カテゴリの最新記事